近大附vs城東工科

敵将までも認めさせてしまう、彼らの戦いぶり！

公立校最後の砦・城東工科は、
最後まで粘り強く戦ったが、過去に選抜大会優勝の実績もある近大付に力及ばなかった。

ベスト8の中で、もっとも野球に特化しないチームが城東工科。
学校には体育科がなく、選手を勧誘できるシステムはない。ほとんど自前で選手を育てるのが同校の特徴だ。それでも、かつては、甲子園未出場校の中で、大阪で最も勝っているチームという実績を紹介されたほどだ。

そんな城東工科だが、野球部の高校野球に対する取り組みは野球だけではない。
昨年の新チーム結成直後に監督に就任した青木隆敏監督は言う。

「うちは工業高校ですので、生徒らは卒業後は就職する子がほとんど。ですから、野球でどうこうというよりも、社会に出るためのものを身につけさせることが大事だと思っています。それは、準備を早くさせることだったり、挨拶をきちっとすること。そこは外せないです」

特にチームとして、野球と日常生活の面でつながってきたのは準備の早さだ。
これは、昨夏まで、監督を務めていた見戸健一氏(現・大阪旭部長)の影響が大きい。

「僕は一年目ですけど、ほとんど見戸先生の指導と同じことをしています。特に、準備の大事は、先生が言われていたことはもっともなことだなと思っていましたし、社会に出ても大事なことだと思います。今年は大会を通してできていた」

バッターボックスに早めに入り準備をする、ピッチャーは相手を捉えて、打者と対峙する。
当たり前のことかもしれないが、野球と日常生活をリンクできるのは城東工科くらいではないだろうか。

主将兼投手を務める石原麻也は、「下級生の頃から、ネクストバッターを捉えて野球をするということができるようになりました。日常生活から裏表のない人間になろうと心がけてきましたし、三年間でできるようになったと思います」と話す。

試合は、城東工科の守備にミスが出て、序盤から劣勢だった。
1回に1失点。3回表には、悪送球から3失点という大きなミスもあった。
しかし、3回途中からマウンドに上がっていた石原が4回のピッチングから盛り返すと、試合のムードは完全に城東工科に傾いた。4回裏には、1死満塁の好機を作り、5回裏には犠牲フライで1点を返した。

守っても6回には併殺を決め、7回から9回までパーフェクトで近大付打線を抑えた。
これまでも、そうだったが、守備でリズムを作るチームのスタイルが、完全に近大付を圧倒していたのだ。
攻撃面であと一歩がえず、1対4で敗れたが、ゲームを支配した見事な戦い繰り広げた。

近大付・藤本監督は城東工科の強さを、こう評している。
「実は、僕の家が城東工科のすぐそばで、彼らのことを良く見かけます。彼らは毎朝、ゴミ拾いをしていいました。その姿勢が素晴らしく、指導者がいなくても、無言で黙々と拾っていたんですよね。心の芯がぶれない子たちだなというのを日ごろから感じていました。今日の試合は4回裏、満塁のピンチで先発の赤間亮介を下げたのも、彼らに、畳みかけられたら流れを持っていかれるような気がしたからです、相手が公立校というのはなく、隙を見せたらいけないと思い、継投策にしました。」

敵将までも認めさせてしまう、彼らの戦い、習うべきものは多い。

最後に、石原は大会をこう振り返った。
「公立でも、私立でも関係がなく、私学(私立)を倒して甲子園にいきたいと思ってやっていました。ベスト8の成績は相手があってのことなので、運よく勝ち上がらせてもらったと思っています。近大付の全力プレーはうちにはないものだった。強かったと思います。個人的には、ここで学んだように準備を早くして、どんなことがあっても裏表がなく、いつも通りの生活が送られるように、社会に出ても、そんな人間でいたい」

取材を終えると、石原主将の周りにいたナインはほぼ全員が、ユニフォームからの着替えを完了していた。
これが彼らなのだと。

ベスト8にふさわしいチームだった。

(文＝氏原英明)