試合レポート

東海大相模vs橘学苑

2012.07.18

好投手の攻略法

好投手の攻略法を示したゲームであった。

最速146キロ右腕・黒木優太(180/75 右投げ左打ち)、140キロ右腕・椎名 潤(182/80 右投げ右打ち)を擁する橘学苑と、打撃力、機動力は神奈川随一の東海大相模の対決。
黒木にとっては自身の投手としての総合力を試すには格好の相手であり、全国を目指す東海大相模にとっては140キロ台右腕の攻略し、さらに弾みをつけていきたいところ。両チームの立場を考えて見てみるとなかなか興味深いカードであるとことに気づく。
試合は東海大相模の先攻で始まった。

橘学苑の先発は黒木。本当に140キロを叩きだす投手なのか、疑って見ていたが、初回のピッチングを見て、噂通りの速球派右腕だと実感させられた。力強い腕の振りから繰り出すストレートは常時140キロ前後を叩きだしており、ドラフト候補に上がる右投手と比較しても見劣りしない破壊力のあるストレートを投げている。ストレートだけではなく、横に大きく滑るスライダー、130キロ前後を計測するカットボール、125キロ前後のフォークボールのキレも標準以上。簡単には打ち崩すのは難しいと思った。

事実、東海大相模は黒木の直球、スライダーに苦しんでいた。二死二塁から4番遠藤 裕也(2年)をスライダーで空振り三振に斬って取った時には思わず唸らされるものであった。
しかし東海大相模が素晴らしいのは140キロ台の直球、キレのある変化球を投げる投手に対しても、しっかりとボールを見極め、自分が打てる球を来るまでファールで粘り続ける事が出来ること。特に5番森下 翔平(3年)は4回の第2打席で、10球以上も投げさせた。

得点は出来ていないが、常に塁上をにぎわせ、初回から全力投球の黒木は4回まで77球。明らかに4回ごろから球威が少しずつ落ち始めていた。


5回裏、東海大相模は一死二塁から1番磯網 遊人(3年)。磯網は高めに入った直球を逃さなかった。鋭い打球がセンターへ大きく伸びて入った。センター秋元は全力で打球を追う。フェンス際まで走り、秋元は懸命にグラブを伸ばし、打球をキャッチした。ファインプレーである。

ここで驚くプレーが出る。東海大相模の二塁走者・石川 裕也(3年)は捕ると直感的に判断し、タッチアップしたのだ。一死であり、ハーフウェイでもおかしくはない。彼は直感的に捕ると判断してタッチアップしたのだ。石川は油断していた橘学苑の内野陣を見逃せなかった。向かう先は三塁ではなく、ホームベースだった。全力疾走で塁上を駆け回りホームへ滑り込んで生還。東海大相模は二塁からのタッチアップで先制する。秋元の捕球体勢が崩れ、送球準備が出来ていないことを把握しての好判断。見事であった。

そしてここまで2三振の遠藤。高めに入った直球を見逃さなかった。ストレートを押し込んで右中間へ抜ける三塁打で2点を追加し、3対0。東海大相模がちょっとした隙を逃さず猛攻果敢な攻めで、3点をもぎ取った。ここまで東海大相模を打ち破ろうと気合十分な投球を見せていた黒木の気力、スタミナが切れてしまった。7回には3番服部創太(2年)、遠藤に連続死球を与えたところで降板する。

 二番手に椎名が登板。黒木と比べると腕の振りの鈍さが気になったが、恵まれた体格を持て余すことなく使える投球フォームから威力ある直球と切れのある変化球のコンビネーションで抑え込んでいたが、9回表に東海大相模が服部のライト前タイムリーで1点を追加し、4対0。
東海大相模はエース庄司 拓哉(3年)が130キロ前後の直球、変化球のコンビネーションが冴え渡り完封勝利を挙げた。


 好投手を攻略するには球数を投げさせて、甘い球を増やすことが一番の攻略法だった。
東海大相模は徹底として黒木に球数を投げさせた。4回まで77球を投じた黒木。東海大相模は待球をしていたわけではない。多くの打者が積極果敢に自分の打てるボールを打ちに行った。しかし黒木の威力ある直球が上回り、ことごとくファールになっていた。威力ある速球に頼っていたが、球数を重ねる度に直球の球威が落ち始めてきた。球威が落ちてくれば、ボールの見極めも容易になっていく。甘い球が増えるので、打てるボールが増える。4回から前へ鋭い打球を次々と飛ばしていった。

ストライク先行の投球スタイルの黒木に慎重にボールを待つ作戦をしていたら、終盤までストレートの勢いが落ちず、さらに苦戦していたかもしれない。それだけ黒木のストレートの勢いは本物であった。

好投手を攻略するには甘い球を逃さずに打つことが必要不可欠。しかし好投手から甘い球を望むのは難しい。打てる球を増やすには投手のスタミナを削ぐ。投手のスタミナを削ぐには何をするべきか。東海大相模はその策を知り尽くしている。やはり相手にはしたくないチームである。

(文=河嶋宗一)

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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