上宮vs岸和田
名門復活へ、苦難を乗り越えたエース
3点を追っていた上宮。6回裏、1番小邨義和(2年)、2番佐藤廉(1年)の連続タイムリーで追いつくと、4番上田拓人(2年)の一打で逆転に成功した。
その瞬間、誰よりも大きな喜びを表したのは、ベンチ前でキャッチボールをしていたエース・天野仁貴(3年)だった。
喜びを力に変え、後半は仲谷達之監督が「ベストピッチ」と讃えるピッチング。8回に勝負を決める追加点を味方打線が挙げてくれた時も、キャッチボールを中断して還ってきた走者とハイタッチを交わしていた。
「9回は三者三振に取ってやろうと思った」と話した通りのピッチングで締めた背番号1。勝利の瞬間はさらに大きな声をあげた。
1980年台後半から大阪で常に甲子園を争う位置にいた名門・上宮。春は優勝1回を含む8度の甲子園出場、夏も89年に1度出場している。だが、97年春を最後に甲子園の舞台には立っていない。
今年のチームは、春の大会でエース天野以外は全て2年生がスタメンという戦いもしていた。「3年生の力が少し2年生に劣っていた」とチーム事情を話した指揮官。この日の夏初戦は、レフトの横山とセンター・立花竜成の3年生2人を起用したが、それ以外の野手は下級生だった。
夏の大会を肌で味わうのも2年ぶり。去年の夏は、病院のベッドから先輩達を応援していたからだ。
「去年の夏前に自転車で交通事故に遭ってしまって、左側の頭蓋骨を骨折してしまった。去年の大会は、テレビの速報で結果を知りました」と話してくれた天野。生死をさまよってもおかしくない大ケガなのだが、幸いにして手術をせずに骨は治癒したそうだ。
それまでも入学後から、肩痛、足首の成長痛、今年春にはピッチャーライナーで右手人指し指のじん帯を痛めるなど、ケガと戦い続けてきたという。春の大会でも、指の痛みに耐えながら投げていた。
心が折れても仕方がないほどの出来事が続いたが、奮いたたせてきたのは、『チームメイトに負けたくない。上宮のエースナンバーを背負いたい』という強い気持ちだった。
「左の湧井(裕士=3年)など他の投手に負けたくなかった」とキリッとした表情で話した天野。この日のゲームで8回に四球が続き左打者を迎えた時、仲谷監督は「代わるか?」と伝令で天野に聞いた。返ってきた答えは「いいえ、投げさせて下さい」。
その言葉通り、ピンチの場面をピッチャーゴロで踏ん張った。「伝統ある上宮の1番を背負っているので」と話した天野。
その眼差しは、今やっと満足に野球ができる喜びと『最高の夏にする』という強い決意に満ち溢れていた。
スターティングメンバー
【岸和田】
8亀井陽平
3小田直人
4河村祐輝
5矢野亮太
9南太央
2松田尊頌
7櫻井陽
1店田卓也
6生駒智之
(主将) 和田啓吾
【上宮】
4小邨義和
5佐藤廉
7横山将
2上田拓人
3川口慎太郎
9杉山宗一郎
8立花竜成
6岡澤俊幸
1天野仁貴
(主将) 川田竜平
(文=編集部)