上宮太子vs柴島
佐伯良(上宮太子)
それぞれに思惑を抱えた一戦
1回に柴島(くにじま)が4番佐川貴之(2年)のタイムリーで1点を先制。だが上宮太子は2回に同点に追いつくと、4回、5番佐伯良(3年)の本塁打で勝ち越しに成功した。
それでも5回に柴島は佐川が再びタイムリー。追いつ、追われつの展開に両チームの応援席は盛り上がった。
勝負を分けたのは5回裏。
柴島の先発である佐川が、先頭の1番西村和哲(2年)に四球を与えた。球数が100球に近づき、球威は徐々に落ちてきている。さらに打順は3巡目。打者にとっては、格段に優位な状況だった。上宮太子はヒットと送りバントなどでチャンスを広げると、5番佐伯、6番岡田一輝(3年)の連続タイムリーで2点を追加して、追いつ追われつから、上宮太子優位の流れになって前半を折り返した。
守りが終わり、さすがにガックリした表情でベンチに戻る佐川に声が飛ぶ。
「ここを2点で踏ん張ったのは大きいぞ!」
これに勇気をもらった佐川。次の6回は同じように四球で先頭打者を出したが、その後の3人を抑えて無失点で切り抜けた
柴島ベンチ、そして応援席から盛んに飛ぶ大きな声。もちろん、上宮太子ベンチも大きな声で選手を盛り立てていたが、妙にこの柴島サイドの声が印象に残った。
「今のホームラン、球が甘かったんじゃないか?俺でも打てるよ!」
これは4回に一発を浴びた後の声。容赦ない声のように聞こえるが、愛情がこもっているようのも感じるものだった。
応援席からは、私服姿の数人の学生からも大きな声が飛ぶ。近くで聞いてみると、選手たちと非常に近しい間柄にあるように見えた。
7回、8回とさすがに疲れは隠せず、上宮太子打線に捕まった佐川。最後は代わった左腕の橋崎諒太郎(3年)が連続四死球での押し出しで9回を目前に、コールドゲームになってしまった。
試合後にミーティングを開く柴島ナイン
試合後にミーティングを行った柴島。坂田孝行監督が短くしゃべったあと、促されるようにミーティングの輪に入ったのは先ほどの私服姿の方たち。男女合わせて10人近くいただろうか。一人一人輪の中で言葉を述べていた。
坂田監督にお話を伺うと、「今年の卒業生なんです」と明かしてくれた。応援席から、さかんに声をかけていたのはマネージャーを含めた多くの先輩達。夏の大会ではよくみられるが、それぞれ新しい生活に入っている4月にこういう光景を見るのは珍しい。それだけ多くの卒業生が後輩たちを気に懸けている証拠と言えるだろう。
坂田監督の話によると現在は2、3年生合わせて19人の部員がいる柴島。しかしかつては9人を揃えるのにも苦労した時期があったという。今でも特別なことはしていないらしく、「ここに来ればすぐに試合に出られるという生徒が多い」と苦笑いしていた。でも3年間をやりきったからこそ、後輩の試合にみんなで応援に来る雰囲気が彼ら卒業生にはあるようだ。
チーム事情で「3年生に喝を与える」という意味で、あえて今は2年生の佐川を主将にしているとも話した坂田監督。チームがしっかりとまとまって、先輩達と一緒に勝利の校歌を歌うことを目標に、夏を目指す。
一方でコールド勝ちの上宮太子にも多くの事情があった。試合後に鶴田充功部長にお話を伺うと、本来のエース候補である山北勇喜と4番の山下寿徳(ともに3年)がケガなどで出場できない状態だったという。5番の佐伯がこの日は4安打3打点と大当たりだったが、チームはまだまだ固まりきれていない。
だからこそ、今は一つでも多く公式戦を戦いたいという気持ちが強い。次の試合は29日以降としばらく空くため、もう一度チームを成熟させる良い時間になるだろう。
スターティングメンバー
【柴島】6山本夏輝、4山本航、5久保、1佐川、3楠、2黒川、7江頭、8吉岡、9堅正
【上宮太子】1西村、8高田、5肥田、9浦野、7佐伯、3岡田、4柴田、2中野、6北野
(文=松倉雄太)