法政大高vs都立足立新田
法政大高・1番宮崎 タイムリー(7回)
延長12回の熱戦 古豪・法政大高が都立の強豪・足立新田下す
過去には甲子園出場経験を持つ法政大高と、都立の実力校・都立足立新田の一戦は、延長にもつれこむ熱戦となった。
先制したのは都立足立新田。2回裏に法政大高の2年生エース稲垣謙吾を攻め、6番・酒井将志、7番・勝見元の連打で一死一、三塁のチャンスを作ると、キャプテン岩田拓実がきっちりと犠牲フライを打ち上げ、1点を挙げた。
追う法政大高は4回に、都立足立新田の先発・秋本晃平のワイルドピッチで追いつくと、5回には6番・丸島拓郎が四球で出塁。ここで、都立足立新田ベンチは、秋本から倉田康平へスイッチ。ともにストレートと変化球のコンビネーションで攻める左腕である。
その倉田を、法政大高は足と小技で崩した。7番・稲垣が送りバントを決めると、一塁ランナーの丸島が二塁から一気に三塁へ。三塁ベースカバーが遅れた一瞬の隙を見逃さず、最後はダイビングヘッドで間一髪のセーフ。
このビックプレーのあと、8番・横山優がカウントワンツーから冷静にスクイズを決め、1点のリードを奪った。
しかし、都立足立新田も負けてはいない。2010年まで率いていた畠中陽一監督の時代から、売りはバッティング。ファーストストライクから積極的に振る思い切りのいいバッティングは、私学にもヒケを取らない。
5回裏に、9番・秋本が2打席連続の二塁打で出塁すると、1番・田窪銀河、2番・倉田の連打で同点。さらに、一塁ランナーの盗塁に対して、法政大高のキャッチャー勝野真之が悪送球を放り、三塁ランナーがホームイン。あっという間にひっくり返した。
秋本の本塁打にベンチも大盛りあがり
法政大高にとっては1点ビハインド。それでもベンチが沈む気配はなかった。ファーストを守るキャプテン山口量平を中心によく声が出る。「あまり締め付けないようにしています」という植月文隆監督の指導方針もあるのだろう。選手がのびのびと楽しそうにプレーしている。
劣勢の雰囲気を感じさせないまま進む中、同点に追いついたのが7回。再びマウンドに上がった秋本から、四球、バント、内野安打でチャンスをつかむと、1番・宮崎稜がレフトへ会心のヒット。試合を振り出しに戻した。
試合はこのまま延長へ。継投で試合を作る都立足立新田とは対照的に、法政大高はエースの稲垣が9回まで11安打を浴びるのも、要所を締める粘投。ストレートと緩いカーブ、時折投げるチェンジアップも効果的で、強く振ってくる都立足立新田のタイミングを微妙に狂わせていた。
試合が動いたのは延長11回。死球と丸島のヒットで二死一、二塁とすると、好投を続けてきた稲垣がバットでも見せた。カウントワンツーから緩いカーブにしっかりと対応し、センターへ痛烈なヒット。
二塁ランナーが還り1点を勝ち越し、さらに8番・横山がレフト前へはじき返し加点。5対3と、この試合初めて2点以上の差がついた。
そして、11回裏も2アウトランナーなし。勝負ありと思われたが…、すんなり終わらないのが高校野球。
試合後、「早く終わらせたいと思って、焦ってしまった…」と振り返る稲垣が、8番・岩田に四球を与えると、秋本に対しても3ボール。1球ストライクを取りにいき、ワンスリー。そして5球目、秋本が真ん中のストレートを弾き返すと打球はライナーでレフト頭上へ。打球はフェンスのわずか上を越え、起死回生の同点2ランとなった。
ガッツポーズで塁を回る秋本。この日4本目のヒットとなった。珍しい左投げ右打ち。9番らしからぬ豪快な一本足打法で、ストライクゾーンは何でも振ってくる。「都立足立新田らしい」ともいえる9番打者だ。
勝利の抱擁・法政大高ナイン
流れは都立足立新田。そう思ったが、ベンチに戻ってきた法政大高の野手から「また試合ができるぞ!」と前向きな声がとんだ。相変わらず、沈んだ雰囲気がまったくない。
すると、12回表、先頭の宮崎が死球、勝野がきっちり送ると、3番の2年生・鈴木駿が左中間を破る二塁打を放ち、再び勝ち越しに成功した。
その裏、またもや粘る都立足立新田が2アウト満塁と攻め立てるも、ここでは一本が出ず。勝見がレフトフライに打ち取られ、試合終了となった。
「『食らいついて、何とか終盤勝負に持ち込もう!』と話していました」と、法政大高の植月監督。イメージどおりに戦うことができた。
昨秋はブロック予選で帝京に0対8の完敗を喫している。「あの試合があったから、今があると思います」と語るのは、キャプテンの山口だ。
「力の差が歴然としていました。能力はもちろん、体つきが違う。体をいかに大きくするか。帝京に負けてから、2リットルのタッパ飯を食べるようになりました。平均で5~6キロは体重が増えています」
2リットルのタッパーにご飯を敷き詰める。昼ごはんに、チーム全員で食べるようにした。
「冬場の練習もきつかったんですけど、全員でやりきった。『これだけやってきた』という自信が今日の試合で出たと思います」
春夏甲子園に4度出場している古豪だが、08年夏にベスト8に進んだ以降は、上位に進出できていない。
新チームのスローガンは「下剋上」。力がないことはチーム全員が自覚している。チーム一丸となってチャレンジャー精神で、勝利を目指す。
(文=大利実)