埼玉栄vs立教新座
板橋選手(埼玉栄)
埼玉栄の期待の1年生・柴崎
いろいろな意味で面白い逸材・木下駿
まさにチームのピンチを救った。 埼玉栄 対 立教新座の対決。埼玉栄は8回の表二死まで2対0とリードしながら適時打と4番竹下の逆転3ランで一挙4失点。埼玉栄にとって嫌な流れが傾きつつあったが、その窮地を救ったのが1年生右腕の柴崎であった。
8回の表から登板した芝崎はピンチを切り抜けると、9回の裏には同点のきっかけとなるセンター前安打を放つ。鈴木の2点タイムリーで、同点のホームを踏む。同点になってから気合を入れた芝崎は実に力強いストレートを投げていた。184センチ82キロと恵まれた体格。力強い腕の振りから投げ込むストレートは130キロ前半だが、球速以上に球威を感じさせ、押し込んで詰まらせる勢いがある。本人は腕を強く振ることを意識しており、腕の振りの力強さから来るストレートには筋の良さを感じさせた。
11回まで無失点に抑えて、11回の裏に2打席連続安打。そしてサヨナラのホームを踏み、投打に渡って活躍し、勝利に貢献した。
気持ちの強さを感じられ、投打の才能も優れた選手でもある。投手ながら代打を出さず驚いたが、二打席連続安打を打った打撃を見て、将来の4番エース候補として期待される選手に映った。その芝崎、なかなか自分の分析が出来る賢さもある。彼のフォームは上半身主導。セットポジションから入り、左足を上げて、そのまま踏み出していくが、下半身が硬く、歩幅が狭く、下半身の力が伝わっていない。それについて話すと本人も自覚していた。
「腕を強く振ることを意識していますが、下半身が硬いからまだボールに力が伝わらなくて。今は少しずつ股関節を柔らかくする練習に取り組んで、歩幅を広くして、下半身の力を伝えられるようにしています」
はっきりと答えてくれた。ただ気持ちが強いだけではなく、自己分析して練習していける選手と知って感心した。
埼玉栄にとって久しぶりに現れた大器であり、この投手をどこまで育て上げるか大いに期待している。来年には埼玉県内を代表する好投手に成長することを願いたい。
木下選手(立教新座)
面白い逸材だった。立教新座の木下駿(181センチ78キロ 右右)。前評判は良く、上から振り下す速球は角度があり、魅力的という情報を聞いて一度でも目にしたい投手であった。ただ彼を一目見た時、来年を代表する本格派投手というイメージが崩れたのである。
まずマウンド上の雰囲気は好投手に共通する品格の良さは感じない。懸命さも感じず、何処か身に入っていない印象を受けた。実にふてぶてしく、投手らしいといえば投手らしいともいえる。
角度を活かしたオーバーハンドから投げ込むストレートは常時120キロ後半~136キロを計測。直球は重く、空振りを奪うストレートではなく、詰まらせるストレートだ。変化球は縦に鋭く落ちるスライダー。この2球種のコンビネーションで投球を組み立てていく投手だ。
彼は下半身が細い。走り込みが足らず、下半身に粘りがない。上から振り下すオーバーハンドだが、ぐっと下半身の粘りがなく、体重が乗らずに下半身の力が伝わらないので、活きたストレートを投げることができないのだ。
体はでき上がっておらず、しっかりと体を作り、フォームの安定性が出たらどこまで速くなっているか楽しみではある。一番気になるのはカバーリング、フィールディングを含めて積極的に動かないことだ。カバーリングの意識は全くなく、ただやっているだけ。味方のエラーが出ると表情と態度にはっきりと出る。投球以前に取り組む姿勢に課題が多い投手なのだ。
スタミナもあまりなく、試合後半になると目に見えてストレートの球威、コントロールも乱れ、得意のスライダーも見極められるようになり、苦しい投球になっていた。
このまま自滅するかと思ったが、ここぞという時に意地を出して力のあるストレートで三振を奪うなど、意地がある子であると思った。そして8回の表には逆転3ランホームラン。甘く入った変化球をレフトスタンドへ持って行ったが、ここぞという時に燃えて意地を見せられる子であり、可能性はある。
本人のためにはっきり主張したいことは今の姿勢のままでは伸びない。投手にとってふてぶてしさはもちろん必要だが、それは投手として最低限のプレーをこなしてからプラスアルファとなる。それはカバーリング、フィールディング、グラウンド中における立ち居振る舞いなどだ。最低限のことが出来てからはふてぶてしさを出して良いと思うが、最低限のことが出来なければ隙だらけで相手としては攻略しやすい脆さを抱えた投手になってしまう。これは本人が自覚するのではなく、指導者側から指摘し続けないと意識を改めることは難しい。
一試合通して見てきて立教新座の中で一番存在感のある選手は木下駿であることは言うまでもない。彼の立ち居振る舞い、プレースタイルがチームにとって大きな影響力を与えていることを気づかせなければならない。立教新座が強豪校に立ち向かうためにはチームを一つにまとめ上げなければならない。エースである木下に自覚を持たせることができなければ彼の成長だけではなく、チームとして向上するのも難しい。
やや厳しい論調になったが、それだけ木下は大きな可能性を秘めた投手であり、方向性を見失わせず、指導者が上手く導いてほしいと思う。改めて木下駿。いろいろな意味で面白い逸材であると思った。来年にはどんな変化が現れているか注目してみたい。もし良い方向に変わることが出来れば、間違いなく埼玉県を代表する本格派右腕と成り得る存在になっているであろう。
(文=河嶋宗一)