今治工vs丹原
サヨナラ勝ちに歓喜の今治工ナイン
「好ゲーム」を呼び込んだ「好テンポ」
レフト前へ飛んだ打球を見やり、2者の生還を見た後に満面の笑みで挨拶に並ぶ今治工・青陽唯斗(2年)。その横でがっくりとうなだれる丹原左腕・小笠原嵩(1年)。実に劇的な形で決着がついたこのカードであったが、意外にも試合時間はわずか1時間53分であった。
その要因は2つある。1つは今治工業の代名詞になっている「全力疾走」だ。攻守交替時はもちろん、凡打に終わってもベンチまでの全力疾走を怠らない彼ら。「最後にああいう形(逆転サヨナラ)になったのは選手たちがあきらめなかったからだし、先発の伊藤(銀次・1年)も大崩れせず、低め低めに投げてくれた」と、村上満雄監督は主に精神面を勝因としてあげたが、そんなチームを支えているのは自分たちのペースに相手を巻き込む「全力疾走」に他ならない。
もう1つは丹原の「対抗力」である。「けん制死の直後に先制点を与えてリズムが悪かったが、その後はどっしり構えていけた」と菅哲也監督も語ったように、彼らは今治工のハイペースにまずは守備で対抗。
そしてワンチャンスを活かし4番・一色快斗(2年)の適時打などによる6回表の逆転で、一度は自分たちの側にペースを取り戻すことにも成功した。
また、この夏に公式戦初先発で第2シード川之江を破る好投を演じながら、新チーム結成後は脇腹痛で出遅れていた小笠原嵩も、バランスと腕のしなりが伴った伸びのあるボールを再三披露。最後は冒頭の通り力尽きる形になったが、「いいピッチングだった」と評した指揮官の言葉にもあるように、将来性を十分感じさせる投球を見せてくれた。
大局的に見れば地区予選の1回戦である。ただしその一方で、この夏の甲子園を見てもわかるように、スピード、テンポアップなくして全国で戦えないことはもはや自明の理であろう。2007年夏の今治西ベスト8以来、甲子園での2勝目が遠い愛媛県勢であるが、その打開策は「好テンポ」が生んだ「好ゲーム」の中に散りばめられているはずだ。
(文=寺下友徳)