日大三vs習志野

スクイズのリスク

『試合序盤のスクイズはリスクを伴う』
『スクイズは最後の最後までとっておくもの』
ある指導者からこんな言葉を聞いたことがある。

この日の日大三と習志野の試合。１回にスクイズを失敗した習志野は、日大三のエース・吉永健太朗を攻め立てながら、本塁を陥れることはできなかった。

１回、習志野は先頭の宮内和也や出塁し、１死３塁とチャンスを作った。打席は３番藤井拓也。初球、吉永は１４７キロの直球でストライクを取った。
この球に｢打てない｣と感じた習志野・小林徹監督は２球目をスクイズのサインに変える。その２球目、スタートした宮内を察して、吉永は高めに外した。

藤井はスクイズをしにいったが、空振りに。宮内は三本間で挟まれ、タッチを掻い潜ったものの３フィートオーバーでアウトに。習志野１回のチャンスは潰えた。

策士でもある小林監督の特徴を読み切った日大三の見事な守り。
疲れで直球が抜け、本来のピッチングにほど遠かった吉永はこれで勢いがついた。

　
２回表、日大三は１番清水弘毅のタイムリーなどで３点を先制した。
吉永は、この３点に驕ることなく、１点も与えない気持ちをピッチングで見せる。それも習志野陣営を委縮させる要因にもなった。

逆に勢いがなくなった習志野。２回以降、毎回のように走者を三塁まで進めるなど吉永を攻め立てる。しかしあと１本が出ない。いや、出ないと言うより、得点をする術を敢行できなくなったといえるだろう。

これがスクイズ失敗のリスク。
同じ手は中々使えないし、吉永の気迫に連打も出ない。完全に策に溺れてしまった感さえあった。試合は徐々に日大三のペースになっていく。２回の３点が重くのしかかってきた習志野。

５回表、日大三は２死１、２塁から５番高山俊がレフトへ大きなフライを打つが、レフトの福山慎吾がファインプレーで凌ぐ。福山はベンチ前で何人かとハイタッチをするが、ベンチ内はおとなしい印象を受けた。

普通ならばこのプレーで一気に乗ってきて、攻撃に反映されるのだが、このベンチからそれは見受けられない。

一方日大三は９回に、この大会絶不調の３番畔上翔が左中間へタイムリー２ベースを放った。
貴重な追加点と同時に、ようやく打てたことに安堵する畔上、日大三ベンチは、全員がガッツポーズするなど、自分のことのように喜んでいた。

ファインプレーでもおとなしかった習志野ベンチとは対照的である。
点を取れない時こそ、監督ではなく選手自身の特性が問われる。
序盤に監督の策でスクイズを失敗、以降は尾を引いてしまった習志野。
選手自身が考えて、思い通りの攻撃を見せた日大三日大三。それに反応するベンチ。
対局にある両チームの戦いは、選手主導の日大三に軍配が上がった。

(文＝松倉雄太)