能代商vs英明
軟投派がプロ注目左腕に勝った
試合時間1時間22分。実にスピーディなゲームであった。
神村学園を破り、14年ぶりの秋田県勢の勝利を決めた能代商業と甲子園初勝利を決めた英明との対決。試合は投手戦となった。
英明の松本 竜也は1回戦と変わらず快調なペース。最速145キロを計測した角度ある直球と鋭く落ちるスライダーを武器に三振の山を築く。
能代商業の保坂 祐樹は松本のような快速球、キレのある変化球を投げられるわけではない。立ち投げのようなフォームから120キロ台後半の速球。140キロどころか150キロを投げる投手が続出している中、時代を逆行するような投手だろう。だが地方大会打率.381をマークした英明打線は彼を捉えることができない。タイミングが合わずことごとく凡打を積み重ねていく。
快調なペースに走る松本とのらりくらりと抑える保坂。英明は3回の裏に、二死から2番井口にセンター前ヒット、3番渡辺にレフト前ヒット。しかし井口の暴走により憤死。この走塁ミスが裏目に出ることになる。
4回の表、あっという間に二死になったが、4番山田が落ち切らなかったフォークを捉えてセンター前ヒット。チーム初ヒットとなる。ここから誰が能代商業の先制劇を予想できただろうか。
5番小川宗がスライダーを捉えて右中間を破るヒット。当たりを考えて1,3塁のチャンスかと思った。しかし山田は自重せず、一気にホームへ。
不意を突かれた英明守備陣は内野にボールを返すだけ。能代商業が1点を先制する。
一方、英明打線は保坂を捉えることができない。120キロ後半の速球、100キロ台のカーブ、120キロ前後のスライダーをコントロールよく織り交ぜ英明打線はまともに芯を捉えることができない。試合は5回の裏まで進んだ。
そして6回の表、能代商業は泉から。泉はショートのエラーで一気に二塁まで進める。2番吉野がバントを打ち上げてセカンドフライとなったが、3番保坂がライト前ヒット。泉は躊躇せずにホームへ。
また英明の連係に若干のロスがあった。このロスが命取りとなり、セーフとなる。
2対0とする。2点差。
しかし今日の英明にとってこの2点は重くのしかかるものであった。
英明打線は保坂の変化球を捉えきることができない。徐々に焦りが生まれ、6回以降から毎回三振を記録した。そして9回の裏、3番の渡辺は高めのスライダーに手を出し空振り三振。中内もスライダーを空振り三振。5番田中玲はライト前ヒットを放ったが、6番田野はセカンドゴロに倒れゲームセット。
能代商業が3回戦に進出した。
最速130キロにも満たない投手が完封。高校生でさえ150キロを投げられる投手が多くなっている時代。
保坂にとって遅い球で打者を牛耳るのは快感だろう。立ち投げのフォームに見えるが、変化球のコントロールが抜群に良いこと。打ち辛いコースにコントロールできるため芯で捉えさせない。
そして投球フォームにワンテンポ間を置いて投げてタイミングを狂わしている。
改めて野球の醍醐味を感じさせる投球であった。
1時間22分というスピーディなゲームは130キロにも満たない投手がプロ注目左腕に投げ勝った中身の濃いゲームであった。
(文=河島宗一)