金沢vs聖光学院
好投手同士の投げ合い
金沢・釜田佳直と聖光学院・歳内宏明。
この夏注目された投手を擁するチーム同士の戦いに、甲子園は第4試合にも関わらず、37000人の観衆が詰めかけた。
「相手は良いピッチャーだったので意識しましたし、本当に良いゲームができてよかったです」
金沢・釜田佳直投手がインタビューで発した言葉。
その通りの見ていて気持ちの良い、いつまでも試合を続けてほしいと感じさせる投げ合いだった。
それでもトーナメントにおける勝負はいつか決着の時がくる。結果として、釜田が歳内を下した形になった。
明暗を分ける上で大きなポイントになったのが4回の攻防。
聖光学院は1死から失策で走者が出ると、振り逃げ、失策と相手にミスが続いて満塁。ここで5番福田瑛史が釜田の甘いスライダーをレフトに弾き返して1点を先制した。
なおも1死満塁。聖光学院はの斎藤智也監督は、カウント3ボール1ストライクとなったところで、『ここが勝負』と次の手を打った。
釜田が投げる。打者の6番斎藤湧貴が『スクイズ』の構えを見せ、三塁走者の芳賀智哉がスタートを切った。球は外角低めのストレート。斎藤はスクイズをしにいくが、この球をバットに当てることはできなかった。芳賀は三本間で挟まれタッチアウトに。聖光学院は、絶好のチャンスは潰えた。
金沢・浅井純哉監督が「あそこを1点に抑えたのが大きかった」と話した重要な局面。
ポイントは釜田の球が外角の低めで、見送ればボールだったということ。カウントは3ボールで満塁。つまりバットを引きさえすれば押し出しで聖光学院はに2点目が入っていた。
考え方によっては、これはもの凄く大きな出来事である。
サインはスクイズだったが、打者に機転がきいていれば、釜田にとっては痛恨の1球となっていた。
「(打者に)そうさせてくれない、釜田君の投球術は素晴らしい」と悔しさを滲ませた斎藤監督。
結局ここで2点目を与えなかった釜田は、崩れそうになりながらも息を吹き返した。
グランド整備後の6回に、ミスが絡んで2点を奪い逆転に成功した金沢。
歳内は毎回、金沢打線から三振を奪いながら、要所ではことごとく痛打された。
『こんなところで負けるとは』と試合後に涙が止まらなかった聖光学院はの選手たち。
昨夏はベスト8、歳内をはじめ多くの選手が残り、本気で全国制覇を狙いにきた夏が終わった。
最後に歳内には厳しいようだが、愛をもって苦言を呈したい。
2点を追っての9回裏の事、8番の歳内は走者一塁からレフト前にヒットを放った。自らがホームを踏めば同点となる場面だ。2死後、1番斉藤侑希の打席はフルカウントになった。しかし6球目、歳内は投球と当時にスタートを切らない。結果はファウルだったが、自動スタートの場面で、一瞬ではあるが状況が欠如してしまっていたようだ。
次の投球ではスタートを切った歳内。しかし自らのホームインがどれだけ大事かを考えれば、ここでのミスはやってはいけない。
試合は勝ち負け。勝つためには全員が同じ方法を向いていることは一番大事だ。今後、野球界を背負って立つ存在になるであろう歳内に、この場面だけは大いに反省してもらいたい。
(文=松倉雄太)