智辯学園vs鶴岡東
堂々の全国デビュー
楽しみにしていた投手が全国デビューを果たした。その名は智弁学園の青山 大紀。
彼は1年の夏から評判であった。投手としては最速144キロを計測。速球の速さだけではなく、変化球も器用に操り、完成度の高さがずば抜けていた。
また野手としても抜群のバットコントロールに美しいベースランニング。
投走攻守にずば抜けていた逸材だった。
それだけに全国の舞台で見たいと思わせる一人であった。それは今年の夏に実現した。青山擁する智弁学園のは圧倒的な力を示して甲子園に臨んだのだ。
一方で山形代表の鶴岡東は山形中央を下し30年ぶりの出場。木口 奨を中心とした強力打線が売りだ。
先発のマウンドに上がった青山。
いきなり全国の洗礼を浴びる形となる。1番の神田浩に2球目のストレートを振り抜かれ、打球は右中間を破るツーベース。いきなりピンチを迎える。初の全国の舞台ということで硬さがあったのだろう。やや立ち投げ気味で上体が高く、ストレートが低めに集まらなかった。3番木口 奨に最速146キロを連発していたが、ストレートが高めに浮く傾向は変わりなく、不安を覚えた投球であった。
鶴岡東打線の打力は予想以上であった。青山のストレートには全く振り負けることはない。次々と鋭い打球を飛ばしていた。
一方で打撃は鶴岡東のエース佐藤亮太の投球に苦しむ。佐藤はモデルチェンジをして台頭した投手だ。
入学当初、球速はあったものの、コントロールは苦しんでいた。コントロールを付けて打者を勝負するために取り組んだのがフォーム改造であった。
テークバックをぎりぎりまで隠してそこから振り出していく投球フォーム。球速は125キロ前後と遅いものの、出所が見難いため差し込まれやすい。
奈良大会で10本塁打を打った智弁学園の打線を次々と手玉に取っていく。打者を打ち取るのはスピードとキレの良い変化球だけではないことを証明した投球であった。
投手の矜持であるストレートの球速を落とす作業はつらいものがあったと思うが、本人の努力は甲子園という舞台で実った。
予想以上の打撃。
予想以上の好投。
そして甲子園緒戦という硬さ。様々な要素が絡み合って智弁学園は本来のプレーができていなかった。
しかし、その中で青山は徐々に余裕がでてきた。
140キロ台のストレートにカーブ、スライダー、ツーシームを投げ分けていく投球。初舞台にもかかわらず自分のペースで自分の投球が出来ていた。
そして均衡した試合を打ち破ったのも青山からであった。ワンアウト二塁からレフト前へしぶとく落ちるポテンヒットで先制する。二死二塁となって5番中道のライト前タイムリーで1点を追加する。
青山は尻上がりに調子上げていき、ストレートもコーナーに決まるようになった。そうなれば、序盤と同じ140キロ台でもキレ・コントロールが違う。
ようやく彼本来の投球ができるようになった。9回の表は二死から二塁打を打たれ、同点のピンチを迎えながらも最後の打者を打ち取りゲームセット。
初戦突破を果たした。
智弁学園のの選手たちに硬さが見えていて本来のプレーができていなかった。青山はそのままではいけないということで声をかけていったという。
ただ投げるだけではなく、周りが見えている投手だ。それは投球にしっかりと表れている。
甲子園は初舞台にも関わらず自分のペースで投げ続けることができるメンタルの強さは素晴らしい。
そして次のことを考えてフォークを一球も投げなかったと話す。
甲子園の初舞台で次の試合を見据えながら試合を組み立てることができるセンス。
1年夏から評判だった逸材が堂々の甲子園デビューを果たした。
(文=河嶋宗一)