釜石vs一関学院
昨夏覇者、敗れる
昨夏の代表校・一関学院が釜石に6-7で敗れた。最後の打者になった宮順之介主将(3年)は一塁ベースの先でひざまずき、審判に促されて整列。釜石の校歌が流れる間も一様に下を向き、スタンドへのあいさつ後はその場で泣き崩れる選手もいた。悔しさと悲しみに暮れ、一関学院の選手はベンチでしばらく動けなかった。
全ては8回表だった。釜石の5番・上野寛弥(2年)、代打・村山勝葵(2年)、7番・鈴木祐平主将(3年)の3連打で無死満塁とされ、一関学院のエース・沼田健人(3年)が引きずり出される形になった。だが、一度火が付いた釜石の攻撃は終わらない。8番・岩切大河(3年)にセンター前タイムリーを放たれ、9番・佐々木慶多(1年)にも続かれた。さらに、1番・西澤直史(2年)には四球を与えて、押し出しで同点。その後、ホームでホースアウトになるなどしたが、なおも1死満塁。3番・佐々木敦也(3年)に死球を与えてしまい、勝ち越しを許した。釜石は5連打と、その後の四死球で4得点し、逆転したのだ。釜石にとって大きかったのは、2回途中から登板していたエース・上野が一関学院をわずか4安打の抑え、1失点だったことだ。
一関学院は走塁に力を入れていた。センターのわずか右にずれた打球でも二塁を突く。2塁ランナーは外野への緩い打球で猛然とホームに駆け込んだ。1つでも先の塁へ―。その姿勢は、ここまで見た試合の中でも群を抜いていた。足を使ってかき回す野球を掲げ、毎日のシートバッティングで一人ひとりが意識をして磨いてきた自慢の攻撃スタイル。前半に見られたこの勢いが、後半は見られなかった。焦りもあっただろう。打球は野手の正面をことごくついた。それだけでなく、4失点した直後の8回裏の攻撃ではスクイズの失敗もあった。さらに、2死3塁でライトにファウルゾーンで好捕され、決定機を逃した。流れを呼び込めなかった。
だけど、全力でダイヤモンドを駆け巡る一関学院の走塁力は、春の県大会に比べ、はるかに精度は上がっていた。つないで、がむしゃらに1点を取る野球。それが、今年の一関学院だった。昨夏、部内の問題を高野連に報告していなかったとして監督と部長が2月末から半年間の謹慎中でもあった。
「沼田(尚志)監督さんと高橋(滋)部長さんと、国体までやりたかった。本当に悔しいです」
と宮主将。沼田前監督から謹慎することを告げられたとき、先が見えなくなった宮は涙した。その時、沼田前監督も一緒に泣いてくれた。そして、こう言ってくれた。「お前なら大丈夫だ。このチームを引っ張っていける」。謹慎が解け、復帰するであろう8月。その後、3年生が前監督と前部長と挑める最後の公式戦が国体。だから、それも目標の1つだった。
夢は半ばで破れた。それでも、苦労を背負ってきた主将の宮は潔かった。「釜石さんが自分たちより強かったです」。筆者の目を真っ直ぐに見て、口を真一文字に結んだ。
(文=高橋昌江)