一宮商vs佐倉東

一宮商業・丸嶋

エースが流れを変えた

千葉大会は3回戦を迎えた。ここまでの千葉大会は珍しく波乱がない。
シード校の負けは木更津総合、佐倉西、幕張総合。いずれもＣシード。緒戦でAシードが破れるといった大波乱がない。
むしろここまでAシードが順当に勝ち進んでいることに驚きであり、無風の進み具合だ。

青葉の森の第1試合は第７ブロックの強豪・一宮商業と佐倉東の対決である。
最近の佐倉市の学校は心境著しく、春では佐倉西がベスト１６まで勝ち進み、他には佐倉南、伝統校の佐倉たちでひしめきあっており、活気あふれる地区になりつつある。
その勢いを更に活気づけるにはモノにしたい試合である。

試合は投手戦となった。一宮商業の先発は背番号8の佐藤芳樹。左肩と顎を上げて、そこから上から振り下す投球フォーム。

角度を意識しており、高い位置から振り下すカーブのキレが光る。佐倉東の鈴木は体の線は細いが、上背があり、長い腕から繰り出すサイドスロー。両サイドにテンポ良く投げ分けて打たせて取る投手である。

均衡が破れたのは3回の表、先頭の石井がセンター前ヒットで出塁。9番鈴木がバント。1番畑中はセカンドゴロで二死三塁。二死になったが、2番高畠が四球、3番芳賀が三塁手の失策で二死満塁。4番谷川を迎えた。谷川は直球を捉え右中間を抜ける長打となった。なんと走者一掃の三塁打になり、佐倉東が3点を先制。谷川は三塁ベース上で大きくガッツポーズを見せる。

この3点で気を良くしたのか。鈴木はさらにテンポを上げていき、一宮商業打線を打ち取っていく。一宮商業打線は焦りが見え始めフライを打ち上げる。
5回を終えて佐倉東が3対1とリードする。

ここで一宮商業の向後監督は勝負に出る。エース丸嶋を投入する。鈴木―丸嶋のリレー。
春の大会以降、練習試合で試してきた。
大会前になってきて形となり、鈴木－丸嶋のリレーは当たり前のリレーであった。だから選手たちが動じることはない。
丸嶋は待ってましたとばかりに颯爽とマウンドに登る。6回の表、ヒット1本を許すが、なんとか0点に切り抜ける。

佐倉東・鈴木

6回の裏、ようやく打線が捉えてくる。一死から1番渡辺巧がヒットで出塁。二死になったが、3番佐藤芳がショート内野安打で続き、4番岡沢を迎える。
岡沢はライト前タイムリーでまず1点を返す。そして7回の裏、二死から丸嶋が打席に立った。この時の心境は「とにかく打ってやろう」という気持ちだけだった。初球のストレートをフルスイング。フライかと思った。
だが打球は伸びてレフトスタンドに入った。
なんと丸嶋のホームランで3対2の1点差に迫る。

このホームランが丸嶋にとって高校生活初ホームランとなる。エースの初ホームラン。これで勢いに乗らないわけにはいかない。

8回の裏、一宮商業の打線が爆発する。1番渡辺巧が口火となり、センター前ヒット、2番佐藤の死球でノーアウト1，2塁。3番佐藤芳がしっかりと送り、一死2，3塁で4番岡沢を迎える。岡沢に迷いはなかった。甘く入ったストレートを捉え右中間を破る二塁打で一気に二者生還し、逆転。さらに5番和泉の放ったレフトフライをレフトが落球。さらに7番渡辺裕のタイムリーでこの回は一気に4点を入れる。

そして9回の表、丸嶋が最後の打者をスライダーで空振り三振に仕留めゲームセット。
一宮商業が4回戦進出を決めた。一宮商業が終盤に集中力を発揮した試合。

向後監督も「選手たちの後半に頑張ってくれました」と選手たちを称えた。
とはいえ、流れを作ったのは向後監督の采配だ。夏前から鈴木―丸山のリレーを作り、戦い方を見出した。そして狙いどころを迷わずに丸嶋に代えた分かりやすさが一宮商業のリズムを掴んだといえる。

個人の能力として見ると丸嶋は中々の好投手だ。ややテークバックが大きく、顔もぶれる荒削りなフォームをしているが、球速は130キロ前後は計測していそうで、スライダーのキレに光るものがある。ストライク先行でテンポよく投げる投手で、野手として守りやすい雰囲気を持っている。突出した能力はないもののこの投手ならマウンドを任せられる。エースの登場により試合の流れを掴み、エースの本塁打で打線を奮起させた。雰囲気を読んだ見ごたえのあるゲームであった。

(文＝編集部：河嶋 宗一)