竹田vs別府羽室台
竹田・小野清志郎
キャプテンの魔法
今春、転勤で竹田高監督に就任したばかりの後藤将文監督が言う。
「小野清志郎はスーパーキャプテンですね」
そのスーパーキャプテンとは、二番打者で三塁手。163cmで65kg。とくに目立った実績や身体スペックがあるわけではない。公立野球部ならどこにでもいる、元気印の突貫小僧タイプである。
「試合中の声出しは欠かさず、まるで悲壮感がない。選手はもちろん、我々の心を支えてくれる存在なんです」(後藤監督)
大絶賛である。
これに応えるスーパーキャプテン。
「自分たちは体も小さいし、かといって機動力があるわけでもない。ただ、全力疾走によって元気を放出し続けることに関しては、どこにも負けていません」
九州大会への出場もなく、特筆すべき実績は、ほぼない。しかし、大分県内では竹田ナインが見せる礼節や機敏なグラウンド態度は有名で、これを模範とする学校も多い。昨秋の県を13季ぶりに制した藤蔭も「竹田の選手は全員が全力疾走しているし、5回終了のグラウンド整備でも、もの凄いダッシュでキビキビと動く。こういう部分は真似しなければならない」と、甲子園返り咲きへのチーム再建モデルとしたほどだ。
一方、甲子園の出場経験がない普通科進学校の竹田は、今年の選手権大分大会の開幕戦に登場した。ただ、大観衆のオープニングゲームにもナインは臆することなく立ち向かい、左腕エース・松田隆志の被安打6、9奪三振、1四球の好投によって3-0の快勝劇を演じている。とにかく勝因は松田のピッチングに尽きるわけだが、小野が果たした役割も、決して小さなものではなかった。
竹田・小野清志郎
2打数1安打、2四球。3度の出塁をもぎ取った。
初回は無死一塁から四球を選びチャンス拡大に貢献し先制点に結びつけると、2打席目は得点にこそ結びつかなかったが、立ち上がり不安定な別府羽室台・先発の徳丸汰介に球数を放らせての四球。8回には6月末から練習を続けてきたというバスターで中前打を記録し、これが試合を決定づける適時打となった。試合中も声を枯らし続けナインを鼓舞。慣れない大観衆の中で “いつもどおり”の空気を作り続け、それがナインの緊張感をほぐす結果となったのだから、勝利への貢献度では松田に引けはとらない。
5月にはブロック予選を勝ち上がり、県内上位16チームのみが出場する県選手権に進出。初戦で大分に4-7で敗れたが、シードレベルが集う夏の前哨戦で獲たものは大きかったと小野。「基礎もできていないのに、応用プレーなんてできるわけがない」と、守備を中心とした基礎的なプレーの徹底をナインに説いていった。
そして夏開幕の試合前、小野はこわばるナインに向かい、
「お客さんは多いし緊張するとは思う。だけど、自分たちの持ち味である“ダッシュ力”をたくさんの人に知ってもらえるチャンスじゃないか」
と、なんとも個性的な方法で尻を叩いたという。
自分自身の気持ちがダウンしてしまえば、チームは元気を維持していくことができない。キャプテンとは、そういう無理をしていかねばならない。口にこそ出さないが、主将に就任した今年3月以降、この小さな三塁手が擦り減らした神経は相当なものだったはずだ。しかし、小野がそのキャプテンシーを発揮するたびに、チームはブロック予選無敗突破、県選手権出場、抽選での開幕戦引き当て、そして開幕戦勝利と、数々の好結果を手にしてきた。後藤監督の言葉を借りれば、ここ最近は小野の存在自体が「神がかっている」ということになる。
次戦は今年も大本命、第1シード明豊とのマッチアップとなるが、こうした目に見えない力を備えたチームは夏に強い。
「技術は完全に向こうの方が上。ウチは一回戦をいい形で勝ち上がりましたが、相手は初戦ですからね。強い相手を叩くなら、もうここしかありません」
明豊とは昨秋の3回戦で対戦し4-5で惜敗してはいるが、延長12回サヨナラとあと一歩まで追い込んでいる。自信に満ちた表情でニヤリと笑ったスーパーキャプテンは、どんなマジックを用意しているというのか?
「それはよくわかりません(笑)。あ、でもその前に明日の全国模試を頑張らなきゃ」
キャプテン小野のマジックショー第2幕は、すでに開演したようである。
(文=加来慶祐)