矢上vs石見智翠館
植田(矢上)
無欲の矢上が初の決勝へ
広島県との県境に位置する全校生徒291人という小規模校で、野球部創設が平成元年という島根県立矢上(やかみ)が、山陰大会で初の決勝進出を決めた。
中国地区と言っても矢上のある邑智郡邑南町は冬場には約1mの積雪を記録するなど、近くには多くのスキー場が点在する豪雪地帯である。冬場の野球部はロードワークすらできない中、ビニールハウスなどでコツコツとトレーニングを積み重ねてきた。
そんな環境の中、神奈川県出身で早大野球部OBの大島吉雄監督(26歳)の掲げるテーマは「自分で考えること」。それは練習についても、試合中のミスについてもそれぞれの選手が自分で考えて「みんなでやれるチーム」ということを目指している。
そんな中、新チーム結成以降、今春の県大会準決勝、それに石見地区大会で連敗を喫している石見智翠館にエース・坂根潤の登板なしで打ち勝った。まさに三度目の正直である。
前日の倉吉東戦で2本の二塁打を放ち、この日も3打数2安打とシャープなスイングが際立っていた2番・キャッチャーの石田貴博(2年)はこう話す。
「(監督は)近い存在であるし、野球のすべてを知っている。自分は、打撃が悪かったので、自主練習では素振りやティーを徹底的にやりました」
石田を始め、それぞれの選手のプレーぶりをみても、自らが考え、そして監督との間に築かれた強い信頼関係が垣間見える。
どんな強豪にも臆することなく戦い、ノビノビとグラウンドで躍動する矢上。こんなに面白いチームが島根県の山間部にあったのかと改めて知らしめてくれた。最後に甲子園についての話を持ちかけると石田はこういった。
「慢心になったらダメですから」
甲子園とは直接繋がっていないが、明日の決勝で大会3連覇中の開星と戦うことになった矢上。昨秋には完封で勝利した相手とはいえ、チャレンジャーとして無欲で向かっていくつもりだ。
(文=編集部 アストロ)