香川西vs三島
仁野智貴(三島)
朋友が引き出した「エースのポテンシャル」
鈴木一宏監督も「5回3失点で抑えてくれとはいったが、まさかあそこまでは・・・」と話した先発・仁野智貴(3年)の7回無死まで2失点の好投を始め、あらん限りの力を振り絞った三島と「気持ち」で渡り合い、サヨナラで秋に続き春は初となる四国大会決勝進出を決めた香川西。
ところが、岩上昌由監督は何とも冴えない顔をして報道陣の前に立った。
「実は矢野(航平・3年)には2ボール0ストライクからスクイズのサインを出していたんですが、彼が見逃しまして・・・」。
なんと1死満塁から、9番・矢野が前進守備の二遊間を抜いた劇的なサヨナラヒットの要因は「サイン見落とし」だったのだというのだ。その後も「センバツでは力を出し切れなかったので、4月は力を出し切ることをテーマにして練習に取り組んできたのに、今日は『力を出し切った三島。力を出し切れなった香川西』になってしまった」と、出てくるのは反省の弁ばかり。
1対15で大敗した秋のリベンジ戦となる明徳義塾との決勝戦の話になっても、「この4月の練習試合でも同じような点差で負けているし、思いっきり胸を借りて勉強できれば」と、最後まで威勢のいい意気込みは聞かれなかった。
自己最速144キロを計時した宇都宮(香川西)
そんな岩上監督が唯一格好を崩したのは投手陣の話。特に6回途中から4回1失点の好リリーフを果たした宇都宮健太(3年)については、「ランナーを背負ってのバランスに課題はあるが、ボールも切れていたし、ゆるいカーブも有効に使っていた」と合格点を与えた。
その宇都宮にはこの試合、特に期するものがあった。今大会はエースナンバーを岡田孝(3年)奪われ、「今まで見えなかったところが見えるようになった」主将就任後初となる公式戦マウンド。センバツ前に一度は試みながら、日本文理戦(新潟)では全く体現できなかった「変化球で『かわす』」から「ストレートで打ち取る」スタイルへの再挑戦を体現する上でも、「空気を変えて自分たちに流れを持ってくる」主将らしさ、そしてエースらしさを示す上でも、このマウンドは結果と内容が求められるものだったからである。
そんな彼にさらなるアドレナリンを与えたのは、対戦相手・三島の選手たち。中学時代は6番・藤原茂(3年)、大林頸太(3年)と同じく愛媛県・川之江ボーイズクラブで野球に勤しんだ彼だが、奥定宏章(3年)、泰泉寺大地(3年)のバッテリーは実は当時のチームメイト。その他の選手たちもほとんどが勝手知ったる仲である。
当人は「いや、特に意識はしていませんでした」とかわしたが、6回に先制タイムリーを放った泰泉寺に、「中学時代からよかったが、高校になってスライダーのキレがすごくなった。タイムリーも真ん中だったのに詰まらされたし、2打席目もインコースを狙っていたのに詰まらされた」と言わしめた直球は、彼を中飛に打ち取ったボールで144キロの自己最速を計時。
いつもは試合中にほとんど見せないガッツボーズを6回に小さく見せたことや、1対2の7回裏・初球を迷わず振りぬき同点タイムリーを放った積極性を見れば、彼らを強く意識していることは明らかであった。
それでも試合後は「もう少しフォームを作れば内野フライに出来たと思う」と先制タイムリーを喫した場面を悔しがり、あくまで上を目指す姿勢を崩さなかった宇都宮。下馬評は圧倒的明徳義塾有利の決勝戦であるが、最終的には朋友にエースのポテンシャルを引き出された新キャプテンの投球が、初の四国王者を掴み取る答えとなるはずだ。
(文=寺下友徳)