津vs津東
川崎貴弘(津東)
川崎貴弘(津東)16K 春季大会初戦から存在示す
春季三重県大会は27日、県内各地で地区予選が行われ、中勢地区ではプロ注目右腕・川崎貴弘を擁する津東が登場した。初回に1点を失った川崎はその後立ち直ったが、打線が相手投手を捉えられず、「スミ1」のまま敗退。敗者復活の第2次予選に回ることとなった。
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今年、東海地区のアマチュア野球を追う中で、筆者が最も注目しているのが川崎貴弘(津東)だ。
川崎については既に昨秋、当サイトで紹介しており(2010年8月18日)、その後も野球雑誌などで度々目にする。
140キロを超えるボールを投げる投手ならどの県にも一定程度いるが、186センチの投手体型で、体をうまくまとめて美しく球を放れて、空振りが取れ、大きな可能性を秘めているという点で、他とは明らかに違う逸材である。
ひと冬越して、春の公式戦初戦となったこの日。川崎は無事で投げているか、冬の間に何が変わったか。センバツ甲子園観戦にも劣らないワクワク感を抱き、試合会場へ向かった。そして、まだ本調子からは程遠いながらも、打者が手の出ないストレートとスライダーで、毎回&全打者から16個の三振を奪った。春先のこの時期に、いま一息の状態で、気張ることなく16奪三振。この結果に、あらためて凄い投手だなと実感させてもらった。
練習試合の疲労もあり、立ち上がりの調子は良くなかった。先頭打者を四球で出すと、4番の庄山勲にタイムリーを浴びる。2回表も先頭打者にスリーベースを打たれてしまう。それでも、3イニングス目ごろからエンジンがかかり始めた。「抜けるボールは度々ありましたが、だんだんと指にボールがかかるようになってきました」と福森正文監督が話すように、特にランナーを背負ってから、ギアを上げて三振を奪った。
金児尚弥(津)
川崎がこの冬、意識して取り組んだことは、まずフォームの改良だ。わずかに感覚を変え、テークバックでヒジが内側に入りすぎないようにした。また、モーションの始動で上げた足を下してからの「タメ」を長く取るようにした。このことで、「割れ」がきれいに出来るようになったと筆者は感じたし、テークバックまでの動きだけに限れば涌井秀章(西武)に少し似てきた。またストレートも、キレを増すことに加え、ひとつの目標として「150キロ」を意識した(もちろん本人も監督さんも、球速表示だけを追いかけてはいけないという大原則は根底に置いている)。ボールに重みが増し、新たな球種もマスターした。
「練習試合は調子が上がらなかったのですが、それは進歩のための試行の結果。ちょっとずつですが、冬に目標にしてきたことが現れてきているような気がします。今日の彼は6割ぐらいの出来だったと思いますが、それでも16奪三振なら、よく踏ん張ったほうだと思います」とは福森監督の談。
それだけに、「(打者が)狙い球を絞れなかった。チームを勝たせたかったのですが・・・」と、「スミ1」の流れで進んだ試合を悔やんだ。
負けはしたものの、観戦していて、津東のチームは雰囲気が良く感じられる。川崎本人は「(今日の雰囲気は)公式戦だからだと思います。普段はそんなに・・・」と控え目だが、福森監督のもと選手は萎縮することなく、練習の成果を出そうという思いが伝わってきた。「なんとか第2次予選(敗者復活戦)で2連勝したい」と、昨秋は逃した県大会出場へ向けて、川崎は気を引き締めた。
さて、川崎ももちろん良かったが、試合に勝ったという点で最も称賛されるべきは、相手の津のエース・金児尚弥だ。「相手バッテリーは本当によく考えていました。インコースをうまく使われました」と敵将の津東・福森監督は振り返る。変化球も低目に決まり、前沢和哉捕手も落ち着いていた。「ウチの打者は変化球に突っ込まされ、とうとう焦ってインコースのボール球まで振らされてしまいました」と同監督は脱帽した。
体が特別に大きいわけでもないが、淡々と丁寧に投げ続け、死球はあっても四球は無し。気が抜けない1点差の状況下、心身をコントロールしながら連打を許さないナイスピッチングを最後まで続けた金児は、この試合で一番の殊勲だった。
(文=尾関 雄一朗)