駒大苫小牧vs浦河
佐々木監督(駒大苫小牧)
駒大苫小牧「状況判断力」という武器
昨年夏、新チーム発足とともに駒大苫小牧の指揮官となった佐々木孝介監督は、同校甲子園初優勝時(04年夏)のキャプテンである。
昨春、駒大を卒業して母校に戻り、コーチを務めていたのだが、短期間での監督就任となった。
駒大苫小牧は07年夏の甲子園で広陵に1点及ばずに1回戦敗退して以来、甲子園から遠ざかっている。甲子園の頂点を極めた佐々木監督に白羽の矢が立ったということは、「復権」を期待されてのことであることは明白だ。
昨秋は北海道大会準決勝で敗れてセンバツ出場を逃がし、春は支部予選3回戦で敗退したが、この日の戦いぶりからは、佐々木監督は「勝つコツを知っているチーム」を作り上げた、と感じた。
まずは1回裏。右打ちのトップバッターの飯田は、浦河の先発投手・下川原の初球を振り遅れてファールとなる。球種はストレート。球速は目測で130㎞/h半ば。球威に押されたわけではない。そのスイングからは右方向への打球を強く意識していることがうかがえた。
まずは出塁すること―。案の定、飯田はその後の甘い球を捕えて1、2塁間を抜いて出塁する。続く池森は初球をきっちりとファーストの前にバント。3番の右打者・宮崎の初球がパスボールとなり、1死3塁。ここで宮崎は右方向へのゴロを狙う。打球はセカンドの正面だったが、二塁手の鈴木がはじいて、駒大苫小牧があっさりと先制する。
試合前のシートノックを見てわかったが、浦河は決して守備の悪いチームではない。駒大苫小牧に即座に得点圏にランナーを進められ、足に地が着かないうちに先制点を奪われてしまったのだ。
だが、駒大苫小牧の抜け目のなさはここからだ。
続く野澤がセンターフライに倒れて2死1塁となる。ランナーを動かしたい場面であることは浦河サイドも分かっている。下川原が牽制を入れる。素早く上手な牽制だ。初回からスタートを切るのは難しい、そう思えた。
カウントが2-0になる。相手はますます盗塁を警戒する。3球目、1塁ランナーの宮崎は、スタートを切らない。しかし、視線を投じられたボールに移した瞬間、視界の片隅で宮崎が動いた。
ディレードスチール。
不意を突かれたキャッチャーは二進を許してしまう。続く4球目を打席の落合がセンターへ弾き返して2対0。駒大苫小牧は主導権を握ることに成功した。
さらに目を引いたのは、7回表にミスから2点を返されて4対3の1点差で迎えた7回裏の攻撃だ。
観衆の中から、「もしかすると浦河が勝ったりして」などという声も聞こえ始めていた。
駒大苫小牧にとっては確かにいやな展開だった。しかも、先頭打者をラッキーな形で出しながら、次打者がバントを失敗。このまま無得点に終わると、浦河に流れが行きそうな雰囲気が漂っていた。
1死1塁で打者は3番の宮崎。次は前の打席で本塁打を放っている野澤。バントの可能性も考えられた。しかし、佐々木監督は初球から走らせた。嫌な流れを切り裂きながら1塁ランナーは疾走し、2塁を盗む。宮崎は内野安打で1、3塁。続けて野澤への初球に宮崎が二盗。野澤は今度は強振することはせずに、コンパクトなスイングで難なくセンターへ犠飛を放った。
重みのある1点に、浦河ナインが気落ちしないわけがない。次打者の近藤はそこを見逃さず、初球狙い。打球はセンターの前で弾んだ。これが決定打だった。
ヒット数は駒大苫小牧(8イニング)8に対して浦河11。得点圏に走者を置いた回数も浦河の方が多かった。だが、浦河は慎重になるべき場面でのランナーの飛び出しなど、好機で先の塁を欲しがるあまりに走塁ミスを連発。終始追いかける展開を強いられたことによる焦りが影響した部分もあっただろうが、駒大苫小牧ならまず犯すことはないであろうボーンヘッドが多すぎた。
楽な試合にはできなかったものの、要所で選手がしっかり状況判断をして得点に繋げ、リードを保ち続けた駒大苫小牧には、調子や相手に左右されない確かな強さが根付いている。
(文=鷲崎 文彦)
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浦河 | 0 | 0 | 1 | 0 | 0 | 0 | 2 | 0 | 0 | 3 | ||||||
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駒大苫小牧 | 2 | 0 | 0 | 0 | 0 | 2 | 2 | 0 | X | 6 |
浦河:下川原-大久保 駒大苫小牧:落合、近藤-糸屋
本塁打:野澤(駒)