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胸部への打撲と心臓震盪

2023.05.23

胸部への打撲と心臓震盪 | 高校野球ドットコム
衝撃の3条件がそろうと心臓震盪を起こすことがある

 スポーツ中の事故のうち、生死に関わるとされているのが、Heart=心臓、Head=頭部、Heat=熱の3要素です。これは頭文字をとって「3H」と呼ばれています。Heartでは肥大型心筋症など心臓疾患による突然死が最も多く、Headは外傷による脳内出血や頭蓋骨の骨折など頭頸部外傷によるもの、Heatは熱中症によるものとなります。

 野球は他者との衝突など激しいぶつかり合いが起こるコンタクトスポーツではありませんが、ときどき選手同士の接触やフェンスへの激突、そしてデッドボールなどボールへの接触があります。この中でも胸部への打撲は決して多いものではありませんが、特に気をつけなければならないのが守備機会時に打球が胸部付近に当たるケースです。特にまだ体が成長段階にある選手が胸部付近に強い衝撃を受けると、心臓が突然停止してしまう心臓震盪(しんぞうしんとう)を起こすことがあります。大人ではなく10代の選手が圧倒的に多いとされる背景には、肋骨などの骨格が十分に発達していないため、受けた衝撃が心臓に伝わりやすいことが発生要因の一つではないかと考えられています。

 心臓震盪は

1)衝撃が加わった場所(左心室の真上)
2)当たる強さ
3)拍動とのタイミング

の3条件がそろったときに起こる(衝撃の3条件)と言われています。ライナー性の打球だけではなく、イレギュラーバウンドが胸に当たるといった、一見強い衝撃に見えないものであっても当たった場所・強さ・タイミングによっては心臓震盪が起こることがあることを覚えておきましょう。

 心臓震盪を起こしてしまうと、心臓が一時的にけいれんを起こし、ポンプ機能がうまく働かなくなる心室細動(しんしつさいどう)の状態となります。心室細動を起こしているときにAED(自動体外式除細動器)をすみやかに使用することができれば、けいれんした心臓の拍動を正常に戻して救命できる確率が高まります。心室細動の状態が続くとやがて脳に酸素が行き届かなくなり、酸欠によって脳細胞が死滅して、生命に危険が及びます。脳死状態に陥るまでの時間はおよそ3分といわれており、選手がその場に倒れたらすぐに救命措置をとることが大切です。

 選手が胸部付近に衝撃を受け、その場に倒れ込んでしまったらまず状況を確認し、反応と正常な呼吸が無ければ119番通報とAEDの手配をその場にいあわせた人に依頼して、直ちに胸骨圧迫(CPR)を行い、並行してAEDを準備してすぐに除細動を行います。救急車を要請してから現場に到着するまでの平均時間は9.4分(令和3年)であり、心停止から脳死状態にいたるまでの時間(およそ3分)を考えると初期対応が生死をわけるといっても過言ではありません。

 このようなアクシデントは頻度の高いものではありませんが、野球でのプレー中の事故なども報告されているものです。いざという時のためにもグランドや試合会場のどこにAEDが設置されているかを前もって確認しておくこと、そしてCPRの手順についても理解し、救える命があることを知っておいてください。

※アクシデントにより亡くなられた選手のご冥福を心よりお祈りいたします。

文:西村 典子
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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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