県立鳴門高等学校(徳島)
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「うずしお打線」の堅守への変貌
▲ランナーの位置を見て細かくポジションを修正
「守備フォーメーション」。1950年代から「うずしお打線」の異名で知られる強打をキャッチフレーズにしている鳴門にとっては、アンバランスなテーマだと皆さん思われるかもしれない。
だが思い出してほしい。3季連続出場となったセンバツでのことを。3回戦(2013年03月28日)では、5回表に聖光学院4番・園部聡が放った大飛球を中堅手の甲本裕次郎(3年)がフェンスにぶつかりながら好捕。その他にも絶妙のポジショニングで多くのヒットを凡打に変えていたことも忘れてはならない。
データ上でも今季の守備向上は明らかだ。一例として2011・2012年度のブロック別新人戦・総体協賛野球を除いた公式戦での失策数を見比べてみよう。
<2011年度>21試合24失策 |
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2011年秋季公式戦:9試合13失策(3年生計3、中野勇輝、松本高徳、河野祐斗7、伊勢隼人) |
2012年センバツ:3試合3失策(3年生計2、松本高徳) |
2012年春季公式戦:4試合5失策(3年生計1、松本高徳2、河野祐斗2) |
2012年夏徳島大会:4試合2失策(河野祐斗2) |
2012年甲子園:1試合1失策(河野祐斗) |
<2012年度ここまで>10試合10失策 |
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2012年秋季公式戦:7試合5失策(板東湧梧、伊勢隼人、中野勇輝2、松本高徳) |
2013年センバツ:2試合1失策(河野祐斗) |
2013年春季公式戦:4試合4失策(前川裕太2、日下大輝、河野祐斗) |
ご覧の通り、いまや鳴門は堅守への変貌を着々と遂げているといっても過言ではないだろう。
では、彼らはいかにして守備を鍛えてきたのか?その謎をひも解くため、春季四国大会を目前に控えた鳴門高校グラウンドに赴くことにした。
[page_break:冬の基本練習ベースに「走・攻・守」を連動させる]冬の基本練習ベースに「走・攻・守」を連動させる
▲強いゴロに備える伊勢隼人一塁手(3年)
「今回のテーマは何ですか。守備?といってもウチは特別なことはやっていませんけど・・・」
森脇稔監督の第一声は想定通りのもの。ただ、その後に続く言葉は「やはり」とうならせるものであった。
「守備の基本的なことは冬場に行うんです。平日は捕手・外野手も含めてゴロ取り、あえて逆シングルやシングルでつかむハンドリングの練習。外野は切り返しながら山なりのボールキャッチ。内野スローイングも山なりのボールをスナップスローするといった基本練習をしますね。そして休日は内野ノック。外野はアメリカンノックをします。まずは個人の引き出しを広げないといけませんからね」
こういった「個」に特化した練習は各人に相当な効果を発揮している。「最初センターフライと一瞬思ったが、伸びていったので最後はジャンプしかないと思いました。甲子園は風がフォロー気味に吹くことが多いので、まず背後をケアすることを心がけていました」とファインプレーの瞬間を語った張本人・甲本裕次郎(3年)も、冬場の基礎練習が今を作っていることを強調した。
さらにエース・板東湧梧(3年)を巧みにリードする日下大輝(3年)も「ワンバウンド捕球への反応がよくなりました」と冬場に内野ノックを受けた効果を話してくれた。
ただ、シーズンに入ると鳴門はグラウンド整備中に数名を対象としてランニング代わりのノックを打つことはあるものの、全体でのノック回数を極端に減らす。守備練習は打撃・走塁と同時に行うのだ。
「レギュラーメンバーを2名ほど入れながらチームを3班に分け、20分交代で一死一・二塁とかを想定したケースバッティングの際、守備と走者を付けて実戦を想定した練習をしています」(森脇監督)
サッカーでもチームを完成させるのに必要な3要素がある。まずは「個人技術」、次に「個人戦術」、最後は「チーム戦術」。言われてみれば確かにその通りだが、その手法をどうとっていくかは案外難しいものだ。では、鳴門では「個人戦術」と「チーム戦術」をいかに連動させているのだろうか?実際の練習を見てみることにしよう。
実戦を想定し守備位置を作る
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2箇所のゲージから交互に投げられるピッチングマシン設定の1つは変化球。もう1個は「145km」。完全に四国大会モード突入の中、ケースバッティングは始まった。
攻撃、走塁、守備を連動させる彼らにあって最も目に付いたのは守備のポジショニングである。「声をかけることで落ち着いて守ることができる。練習から解っていても声をかけることが重要」と徹底の極意を話す河野祐斗遊撃手(3年・主将)の指示をスイッチに、「バッターのタイミングを見て守備位置を変えている」中野勇輝二塁手(3年)をはじめ内外野は、一打者ごとに右に、左に、前に、後ろに・・・。「チーム内や県内だと把握している打者の特徴に合わせてやっている」(福本学コーチ)ポジショニングを実戦さながらに体現していた。
その半面、単純なミスがあればすぐに練習は止まる。「タッチアップされるような場面で外野手が捕球時にジャンプして、すぐに投げられるんか?考えてやれ!」この日もネット裏にそびえたつクラブハウス2階で全体を見つめる森脇稔監督から、マイクで厳しい指摘が飛んでいく。
この練習が3交代で約1時間。より実戦を想定した守備作り。彼らが強さを誇る要因はここにあったのだ。
[page_break:「記録」・「記憶」・そして「実戦活用」へ]「記録」・「記憶」・そして「実戦活用」へ
▲自らを振り返るための「練習ノート」
とはいえ、単に練習を行うだけでは積み上げは生じない。そこでチームの一助になっているのが陸上用の「練習の記録」ノートに記入している課題記入や、記憶に基づいたチーム間でのデータ伝達である。
例えばセンバツ初戦・宇都宮商業(栃木)戦(2013年03月23日)後に甲本は「練習の記録」にはこんなことを記している。
「若干前に出ていて速い打球で抜かれる長打が多かったので、もっとポジションを考えていきたい」
「追い風が吹くので外野は深くして前に出る形を取っている」(森脇稔監督)甲子園の中にあっても、必要とされる個人判断を確認したことが、あの美技につながったのだ。
もう1つ例をあげよう。一昨年の明治神宮大会・北照(北海道)戦(2011年11月24日)で「人工芝なのでイレギュラーがないことがわかっていたので、一・二塁間へ思い切ってスタートを切って」大ファインプレーに結び付けた中野は、今春のチャレンジマッチ・生光学園戦で河野にこんな指示を送ったという。
「この左打者は絶対に三遊間にしか飛ばんけん、そこを思いっきり詰めとけ」。
そして打球は本来の守備位置では取れないはずの三遊間へ。生光学園中出身の中野ならではの観察眼が「一歩目の判断と細かく足を動かすことを心がけている」河野のファインプレーとなり、ヒットを1本防いだのであった。
「送球時に観客の皆さんがかぶりそうになるので、慌てないで投げるようにしている」(河野)、「声が通らないのでゼスチャーを大きくしている」(日下)甲子園モードの守備。これも普段の練習からの意識付けあってこそである。
では、ポジショニングに話を戻そう。練習では打者の特徴を見て位置取りを決めている彼らだが、実際の試合では板東を中心とした投手陣の配球が判断材料に加わる。
「試合では日下のサインを見て場所を決めています」(河野)
そんな彼らにとって格好のゲームが5月3日・春季四国大会初戦(2013年05月03日)でやってきた。相手は4月27日の練習試合で対戦し、外角に偏る配球で板東が痛打を浴びた高知商業。リベンジを期す彼らが対抗策として選んだのは「ポジショニングの真骨頂」であった・・・。
投手・リード・内野・外野の「連動」で難敵下す
▲主将・河野祐斗遊撃手(3年)
彼らの位置取りは「打者ごと」でなく「1球ごと」に変化した。その基本となったのは「練習試合を踏まえて今日はインコース高めを突くようにした」日下のリードと、そこを着実に突く板東の制球。
そして「今日は日下が『インコースに多めの配球をする』と言っていたので、(右打者に対しては)三遊間を詰めるポジショニングを意識した」河野をはじめとする内野守備、そして「練習試合のスコアブックと1打席目を総合して、ポジションを決めていた」と甲本を司令塔に据えた外野守備の連動だ。
この試合、鳴門が9回表二死無走者から追い付き、10回に3点を勝ち越せたのも、「前半は(防御率4点台だった)昨秋のピッチャー」と森脇監督がボヤく中、板東が2失点で粘れたのも、このポジショニングがあってこそ。練習・練習試合を実戦で活かす過程、彼らは結果で証明したのである。
続く準決勝(2013年05月04日)でも今治西(愛媛)も破った鳴門はこの大会準優勝。守備構築に定評がある今治西・大野康哉監督ですら「配球とセットになっている」と高い評価を与えた守備力の源を、鳴門[/teamは存分に見せてくれた。
とはいえ、チームは現状に甘んずるつもりは毛頭ない。夏へ向けて50人以上の部員を束ねる河野主将はこう決意を語る。
「夏は各チームも打撃がレベルアップして打球も速くなるので、常に悪い状況を想定して練習からやりこむことが大事。攻撃につなげるためにノーエラーでいきたいです」
豪快に見えて実は細心な守備。そのベースとなる正しい手順によって培われた正しいポジショニングは、これからも進化を日々遂げていくことだろう。
(文=寺下 友徳)