試合レポート

都立墨田工vs筑波大附

2012.07.09

走攻守充実! 

都立高校の中で打力が良いチームといえば、私は都立墨田工を挙げるだろう。3年前の話になるが、帝京と対戦した時(2009年7月18日)、9対0でリードされていたが、満塁ホームランで4点を追いあげた試合があった。当時は帝京の豪華投手陣に封じ込まれていたが、振れている打者が多く、筆者は打力のある都立高として見ていた。今年の都立墨田工は打撃だけではなく、走塁、守備も鍛えられ、総合力の高い都立校に変貌を遂げている。

この日のゲームは1回から打線が活発。一死から2番田島大輝(3年)がレフト前へ運ぶと、3番真通貴司(3年)の右中間を破る三塁打で、1点を先制。さらに2回表、7番白鳥幹久(3年)がセンター前ヒット。すると外野手のもたつきを逃さず、一気に二塁へ。一死二塁から8番鈴木拓実(3年)の右中間を破る三塁打で1点を追加し、2対0。

墨田工のエース・工藤将幸(192/70 右/右)は体格だけなら申し分ない。手足が長い投手体型で、この長身からどんな球を投げるだろうと期待しながら見ていたが、投球練習を見る限り、長身を持て余し気味で、ポテンシャルの5割も引きだしていないような投げ方であった。無理なく腕を振る為にスリークォーターの軌道で腕の振りから投じる。だが、腕の振りは何か投げることに恐れているのか。自信を持って腕を振ることが出来ていない。自分のリリースポイントで投げる事が出来ていないため、制球が定まらないのだ。2回に4四死球を与えて、1点を献上してしまった。

3回以降も不安定な投球には変わりなかった。ストライクが入れられるのはカーブとスライダーのみ。ストレートは高めのストレートが中心で、筑波大付打線が手を出したことで打ち取っていたが、相手が打ち損じることを期待する投球では長いイニングは持たない。5回裏、一死一,三塁のピンチで、ショートゴロ併殺に打ち取って無失点で切り抜けたが、この回でマウンドを降りた。


6回裏から澤山光樹(3年 177/83 右/右)が登板。手足が長いスラリとした投手体型の工藤とは対照的に、横幅が大きい、がっしり体型の投手。体型は大阪桐蔭澤田圭佑に似ているといえば、イメージが沸きやすいだろう。澤山は投球フォームの土台が良い好投手であった。ワインドアップから始動し、左足をゆったりと引きあげて、軸足である右足は一本足で真っすぐ立つことが出来ており、立ち姿が良い。お尻から先行して並進運動するヒップファースト。前足である左足をゆったりと送り込んで、柔軟に接地する。やや開きの早いフォームだが、内回りの回旋をしていき、打者寄りでリリースすることが出来ており、球持ちも良い。軸足の蹴りあげも良く、ぐっと体重が乗ったフィニッシュが出来ており、完成度の高い投球フォームで驚かされた。

目測で常時120キロ後半ぐらいだが、ウエイトが乗ったストレートには威力があり、スライダー、カーブとのコンビネーションが冴え渡り、筑波大付打線を沈黙させた。ランナーが出ても慌てることもなく、体重移動が良いフォームなので、クイックも1.10秒台の高速クイックで、ストライクが取れる。無名校と呼ばれる墨田工だが、技術が高い投手である。

澤山の好投で、リズムを取り戻した7回の表、都立墨田工は3番真通が再び適時打を放ち、さらに9回の表kはら一死から1番吉澤直也(3年)が右前安打を放ち、すかさず二盗、三盗で、一死三塁から真通が中犠飛を放ち、4対1。真通は3打数2安打3打点の活躍。ショートを守る真通は軽快なフットワークを活かした守備で、打球を捌き、次々とアウトを演出。攻守両面で活躍を見せ、今日はこの男がMVPであろう。

澤山は4回を投げて無安打5奪三振の快投でゲームセット。都立墨田工が3回戦に進出した。

都立墨田工は10安打を放った打力よりも無失策であった事が素晴らしい。内外野が鍛えられており、特に内野手の守備は安定しており、四死球が多くリズムに乗り切れていなかった工藤を5回まで1失点に凌ぐ事が出来ていたのも安定した内野守備があったからだろう。工藤―澤山のリレーで1安打だったが、内野守備でヒットを阻止したプレーが複数あった。堅実な内野守備を気後れせず強豪私立相手にも発揮すれば本物だ。

さらに6盗塁を記録。機動力も絡めるようになり、走攻守で成長が見られ、総合力が高いチームに都立墨田工。この日はエース工藤の不調、打線は7番以降の打者が12打席で6回出塁しているのに対し、クリーンナップは真通以外、ノーヒット。還すべき打者が還せなければ打線のつながりが欠く。今日残した課題を次回へ活かし、強豪私立を脅かす怖い都立へさらに精進していくつもりだ。

(文=河嶋宗一)

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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