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昨秋は仙台育英に勝利も県4強止まり「サイン以上のことをやる野球」を極め甲子園目指す【野球部訪問・東陵編①】

2024.04.17


練習中に笑顔を見せる東陵の選手たち

昨年の宮城県大会で春、夏、秋といずれも4強入りした東陵高校野球部。秋は準々決勝で2年連続甲子園決勝進出の仙台育英に勝利するも、東北大会出場は逃した。千葉亮輔監督いわく、秋からの新チームは発足当時、「本当に何もできない」チームだった。それでも強敵を下すことができたのはなぜか。そしてさらに上のステージへ進むために何をすべきか。千葉監督と主将の飯塚 祐太内野手(3年)に話を聞き、答えを探った。

「力がないことを理解」した東陵ナインの底力

4月上旬、野球部が練習する専用グラウンドを訪れた。東陵の校舎は宮城県最北端に位置する気仙沼市にあり、グラウンドは校舎から約10キロ離れた場所に建てられている。選手たちは春の地区大会に向け、真剣な表情で練習に取り組んでいた。

ひとり一人、実力校の選手に相応しい動きをしているように見えたが、主将の飯塚は「最初はアップも準備も片付けも全然できなくて、怒られてばかりでした…」と苦笑いを浮かべた。

千葉監督は新チームの選手たちを「上の代に食い込んでいけなかった」代だと捉えている。昨年の3年生の代は部員が40人以上おり、主将を務めた今野 悠貴内野手やエース左腕の前田 直哉投手(いずれも現・仙台大)ら、下級生の頃から主力を張っていた選手も多かった。昨夏、当時の2年生以下でベンチ入りしていたのは飯塚と沼田 和丸外野手(現3年)のみ。秋は大幅に刷新された新チームで迎えた。

危機感を覚えた飯塚は、チームメイトに「自分たちは下手なんだよ。一つ一つのことをスピード感を持ってやらないと、ほかのチームには及ばないよ」と繰り返し言葉をかけた。飯塚が変化を感じ取ったのは、秋の地区大会で日本ウェルネス宮城に完封負けを喫した直後。「自分たちは下手」という言葉の真意を肌で感じたナインは目の色を変え、練習の量と質を向上させた。

「力がないことを理解している代は強いんです。今の代はずば抜けて能力が高い選手はいません。それでも、みんなで頑張らないといけない、みんなで勝たないといけないという雰囲気があって、それが良い方向に向かっていると思います」

そう胸を張る千葉監督は練習中、常にグラウンド全体を見渡している。マネージャーを含む部員61人(4月2日時点)、全員がチームに欠かせない戦力だからだ。ケガをしている選手も別メニューをこなしたり、サポートをしたりして練習を盛り立てる。先輩たちから受け継がれてきた東陵の強みが、今年の代はより色濃く出ている。

主将が察知したチームの変化と「勝てる予感」

昨秋の県大会初戦は投打が噛み合い、大崎中央に8対1で勝利した。石巻工との2回戦は主力選手が相次いでインフルエンザに罹患する危機に直面するも、代わりに出場した選手が補い9対2で快勝。「みんなで勝つ」野球をまさに体現した。

準々決勝の相手は仙台育英。昨年は春、夏と続けて県大会準決勝で当たり、いずれもコールド負けで敗退した。実力のあった昨年の3年生の代でも勝てなかった強敵だ。怖気づいてもおかしくないが、飯塚は「実は、勝てる予感があったんです」と明かす。「仙台育英と試合をする夢を何度か見たんですけど、その時も負ける夢は見なかった。負ける気がしないまま試合に挑めました」。そう思えるほど、チームは短期間で急速に成長していた。

試合は4回に沼田の適時打などで2点を先制。投げては先発した高身長左腕・熊谷 太雅投手(現3年)が角度のある直球を武器に好投し、9回1失点完投で1点のリードを守り切った。「そろそろ勝ちたい、先輩たちの借りを返したいと思っていたので、とにかくうれしかった」(飯塚)。主将の夢は正夢になった。

このまま勢いに乗りたかったが、続く準決勝の古川学園戦は一時4点のリードを奪いながらも6対9で敗戦した。3位決定戦も仙台一に3対5で敗れ、東北大会出場はならず。4強の壁は厚かった。

「もう一息」を乗り越えるために必要なこと

千葉監督は「新チームのスタートを考えると伸びたと思う。仙台育英さんに勝ったこともすごいこと」と選手を称える一方、「甲子園で勝つことを目標にしている以上、まだまだ足りない。もう一息でしたけど、もう一息では甲子園には行けない」と冷静に現状を見つめている。

4強の壁を超えるために必要なことは何か。指揮官は「いろいろな要素がありますが…一番は自分たちで考えられるようにならないといけない」と話す。

「選手には常に『サイン以上のことをやってくれ』と伝えています。例えば、ヒットエンドランのサインが出たけど、ランナーのスタートが良かったので打たなかった。バントのサインが出たけど、バントシフトを敷かれたのでプッシュバントやバスターに切り替えた。これらはサインを無視したわけではなく、自分でジャッジをして選択したということ。勝っている時は、選手がそういうことをできているんです」

経験の浅さゆえ当初は「指示待ち」だった選手たちが、「何も言わなくても自分たちでやれるようになってきた」のは事実。ただ甲子園を見据える上では、より感覚を磨き、より能動的に動けるようにならなければならない。歓喜と屈辱を知った東陵ナインは、2014年春以来となる甲子園の土を踏むことができるか。まずは「もう一息」を乗り越えるべく、春の戦いに臨む。

(取材=川浪康太郎)

集合写真に収まる東陵の選手たち。阿部仁哉(ひろや)コーチのサインの身振りを真似た「あべひポーズ」が部内で流行っているという

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この記事の執筆者: 川浪 康太郎

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