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【高校野球ベストシーン’23・岩手編】佐々木麟太郎(花巻東)最後の甲子園、本塁打はなくとも話題は独占

2023.12.11


佐々木麟太郎(花巻東)

2023年もあとわずか。ことしも高校球界ではさまざまな印象的な出来事があった。各都道府県ごとにベストシーンを思い出してみよう。

今年の岩手は、この男抜きでは語れない。1年春から話題をさらってきた花巻東のスラッガー、佐々木 麟太郎内野手(3年)は、最終学年となった23年度、高校通算を140発まで伸ばし、高校野球シーンの「主役」でもあった。

1年秋には明治神宮大会で4強。2年春はセンバツも経験した。たぐいまれな体格からの豪快なスイングは、誰も真似できないほどのレベルの高さを誇った。

佐々木が最上級生となってからは、昨年秋、今年春と岩手大会を制し、優勝候補と言われながら東北大会では秋も春も頂点に立てなかった。しかし、最後の夏は、岩手県で圧倒して優勝し、甲子園へと乗り込む。宇部鴻城(山口)、クラーク記念国際(北北海道)、智辯学園(奈良)を下し、ベスト8入りを果たした。準々決勝で4対9で敗れたが、準優勝した仙台育英(宮城)相手の戦いで、その存在感を存分にアピールした。

高校野球ファンの中には、この試合の9回に花巻東が猛反撃したことを覚えている人も多いだろう。0対9と完敗ムードで迎えた9回裏に、花巻東が3連打を含む5安打を集中させ、4点を奪った。どんなに劣勢でも、最後まで勝負を諦めない姿勢に、岩手のファンのみならず、全国のファンも胸にこみ上げるものはあったはずだ。

この攻撃の最後の打者となったのは、佐々木だった。5点を追う9回2死二、三塁。内角直球を振り抜いた打球は二ゴロに。体を揺らしながら必死のヘッドスライディングも及ばず、ゲームセット。泥だらけになったユニホーム姿で、高校最後の整列に加わった。

「みんなにありがとうと思っていました」。3番打者として最後の打席に入るときの佐々木の心境だ。9回の猛攻は4番から始まっていた。チームメートが粘りを見せ、つないでくれたこの回9人目の打者だった。自分につないでくれたことが嬉しかった。打てなかったが、諦めかけていたラストチャンスを与えてくれたことに「感謝」した。

常に注目され、打つことを要求された。しかし、3年生になってからは本来の打撃を見せることができないでいた。故障などもあったが、チームに迷惑をかけていたことは承知していた。高校通算140発の内、公式戦は18本。そのうち1年生秋までが12本で、2年生では5本。3年生になってからは春の岩手大会で放った3ランのみの1本だけに終わっていた。注目され、研究され、大舞台ではなかなか結果が出ない。

本塁打は打てなくても、つなぎ役として活躍し、チームに勝利をもたらしていたが、やはりそれは「佐々木麟太郎」ではなかった。だからどうしても甲子園で本塁打が打ちたかった。そのチャンスを与えようとしてくれたチームメートの思いに胸を熱くしたのだろう。

佐々木は卒業後の進路として、NPBへの道ではなく、米国の大学留学を希望している。現在、複数の大学からのオファーがあるといい、年明けにも結論が出るかもしれない。練習試合での本数が多いとはいえ、高校野球歴代本塁打数を大幅に塗り替えた歴史的スラッガーが、海外での「武者修行」の道を選んだ。岩手の高校野球を2年半「背負ってきた」男は、次なるステージで、また何かを背負って打席に立つことだろう。

花巻東・夏甲子園準々決勝スタメン
(右)久慈 颯大(3年)
(遊)熊谷 陸(3年)
(一)佐々木 麟太郎(3年)※米大学留学希望
(左)北條 慎治(3年)※青山学院大進学予定
(二)千葉 柚樹(3年)
(中)広内 駿汰(3年)
(三)晴山 太陽(3年)
(投)小松 龍一(2年)
(捕)小林 然(3年)

この記事の執筆者: 浦田 由紀夫

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