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京都国際「5年連続高卒→プロ入り」偉業の秘訣とは? 今年も3人がプロ志望

2023.10.26


10月26日に行われるドラフト会議。5年連続で高卒プロ入りが期待されているのが京都国際だ。至近4年でプロ入りした選手は以下の通りである。
上野 響平 2019年3位 日本ハム-オリックス
釣 寿生 2020年育成4位 オリックス
早 真之介 2020年育成4位 ソフトバンク
中川 勇斗 2021年7位 阪神
森下 瑠大 2022年4位 DeNA
今年はエース左腕の杉原 望来、最速144キロ左腕の長水 啓眞、主将の濵田 泰希がプロ志望届を提出。3人とも既に複数球団から調査書が届いている。今回は彼ら3人の紹介やプロ野球選手を輩出し続ける理由などについて語っていきたい。

杉原は最速144キロのストレートにスライダーやチェンジアップなどを器用に織り交ぜる完成度の高い左腕。「負けん気が強い。勝ち気でどんな相手にも怯まないメンタリティはプロでやっていけると思います」と小牧 憲継監督は精神面を高く評価している。
長水は将来性抜群の本格派左腕。杉原に比べて完成度が劣るため、夏の京都大会で登板はなかったが、「杉原以上の凄い球を投げる」と小牧監督も潜在能力の高さを認めている。
濵田は高校通算18本塁打の右の強打者。身長189㎝と上背があり、手足が長い。高校では外野手として出場していたが、冬から遊撃手の練習に取り組んでおり、プロでは遊撃手として勝負する予定。「あのサイズであれだけ器用に体を操れるのはそうそういない。セカンド、ショートでは大柄なタイプで大成した例があまりないですけど、これからの野球界を変えていくという期待はある」(小牧監督)とこちらも将来性を高く評価している。

今となっては京都を代表する強豪校であり、プロ野球選手を続々と輩出する京都国際だが、小牧監督が就任した2008年は部員が13人しかおらず、3年生が抜けた秋は9人で戦った。「とにかく人が来てくれない。野球が上手い、下手とかじゃなくてとにかく来てくれる子を探していました」と小牧監督は当時の苦悩を語る。
この頃は韓国人留学生もいたが、韓国の高校から推薦を貰えなかった選手ばかり。韓国は野球部のある高校が80校ほどしかなく、エリートしか高校で野球を続けることができない。そうした中で京都韓国学園を前身とする京都国際に活躍の場を求めた選手も何人かいたのだ。
その一人が申成鉉。小牧監督が就任した時に3年生だった申は「体は大きいし、柔らかい。これは鍛えたら面白いかなと思っていました」と京都国際の練習で力を付け、ドラフト4位で広島に指名された。

さらにこの年は春の近畿大会に初出場。その影響で翌年は20人以上の新入部員を迎えることになった。前監督が勧誘した選手が卒業したら監督を退任しようと考えていた小牧監督は「辞めるに辞められなくなってしまった」と苦笑する。
小牧監督は自身が中学生の時に指導者から「上で活躍しないと意味がない」と言われてきたこともあり、高校野球だけでなく、上のカテゴリーでも通用する選手の育成を目指してきた。そうした選手を育てるために必要なのは長所を伸ばすことだと語る。
「こぢんまりとまとまっている選手はプロじゃないじゃない。何でも無難にこなせるのはアマチュアだと思います。僕は学校の成績でいえば、1があっても5がある子がプロなので、その子の良さは消したくないないうのはありますけどね」

その代表例が曽根 海成だ。入学当時は身長160㎝台前半で体重は50㎏台だったそうだが、「人より少し足が速くて、質の良い球が投げられる。根性もあるので、鍛えてみたいなと思わせてくれる子でした」と小牧監督に才能を見出され、厳しい練習に耐えてみるみるうちに成長。2013年のドラフト会議でソフトバンクから育成3位で指名されるようになった。
「レギュラーになれなくても代走要員や守備要因では出られるだろう」という小牧監督の予想通り、現在は広島ベンチに欠かせない存在となっている。
その曽根が2017年にフレッシュオールスターでMVPに輝いてから京都国際の知名度が徐々に高まるようになった。同年に入学した上野が3年生の春には京都大会で初優勝。その2年後には中川と森下を擁して秋の近畿大会で4強入りを果たし、翌春の甲子園初出場を決めた。
その直後に入学してきたのが濵田たちの学年。彼らの中では「京都国際=プロ野球選手と甲子園出場を狙える高校」という認識になっており、濵田や杉原は「プロ野球選手になりたい」という志を持って入学してきた。

小牧 憲継監督

ここ数年で野球強豪校としての地位を確立した京都国際だが、グラウンドは強豪校と思えないほどに狭い。特にライトは定位置より浅い位置にフェンスがあり、フリー打撃や紅白戦を行うことは不可能だ。一見するとハンデにも思えるが、この環境が強みになっていると濵田は話す。
「自分たちで考えて、課題を持って練習することができていると思うので、そこが京都国際の良いところだと思います。シートバッティングでも自分たちで打球を想定して走ったりというのができたり、逆方向に打つ練習が他のチームに比べてできているので、そこが強みだと思います」
限られた環境の中でも創意工夫を行うことで考える力が付き、実戦力を高めているのだ。実際に試合を見ていても京都国際の守備や走塁の精度の高さは目を見張るものがある。一見すると短所に見える環境も長所に変えて京都国際の選手たちは成長を続けてきた。

いよいよ間近に迫った運命のドラフト会議。指名を待つ3人に今後の抱負を語ってもらった。
「高校では一つ上の森下さんに敵わなかったので、プロに入れば、森下さんより凄い左ピッチャーになりたいと思います。球界一の左腕と言われるようなピッチャーになりたいと思っています」(杉原)
「日本を代表する先発ピッチャーになりたいです」(長水)
「体を活かしたバッティングだったり、守備であったり、自分にしかできないことを取り組んで、プロ野球を代表する選手になれたらなと思います」(濵田)

新チームも強力だ。秋の京都大会では準優勝。近畿大会では初戦で田辺に3対2で延長10回サヨナラ勝ちを収め、29日の準々決勝で近江に勝利すれば、翌春のセンバツ出場に大きく近づく。
主将で最速143キロ左腕の中崎 琉生(2年)、強肩捕手の奥井 颯大(2年)、好守の遊撃手・藤本 陽毅(2年)、俊足のスイッチヒッター・澤田 遥斗(2年)、巧打の4番・髙岸 栄太郎(2年)など有望選手を多数擁するが、「満遍なくある程度はできるんですけど、これといった武器がない。こういう学年は珍しいですね」と小牧監督は高卒プロ入りを狙える選手は現時点でいないと感じているようだ。それでも一冬越えて大幅に伸びる選手が出てくれば、来年のドラフト候補に上がるような選手が出てくるかもしれない。

勝利と育成の実戦を続けている京都国際。小牧監督にこれから目指す方向性を語ってもらった。
「子どもたちが野球を始めるきっかけは甲子園に出たいかプロ野球選手になりたいだと思います。勝つことと上のカテゴリーで活躍できる選手をたくさん育てたいというのはありますけど、みんなは野球が好きでやっているので、何かしらの形で野球に携われるような人間を育てていきたいですね」
高校野球界で年々存在感を増している京都国際の今後に要注目だ。

【ドラフト注目選手はこちら】

この記事の執筆者: 田中 裕毅

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