東vs淵江
東・伊藤光一君
同点にされても慌てなかった都立淵江、終盤で再度、食い下がる都立東を突き放す
<第105回全国高校野球選手権東東京大会:都立淵江6-4都立東>◇10日◇2回戦◇江戸川区
どちらも、ベンチ入りの選手が20人の登録数に満たないというチーム同士の対戦。都立東は3年生8人、2年生は2人で1年生が6人の16人。都立淵江は3年生4人、2年生7人、1年生6人の17人という陣容だ。
部員減少が叫ばれている多くの普通の学校の現状の象徴ともいえるのかもしれない。
しかし、こうした学校の選手たちも、部活動として野球に取り組み、自分たちのやれる範囲の中でやれることを行いながら、野球部活動に取り組んでいる。現実的に見て、甲子園出場は夢のまた夢のその先の先と言っていいかもしれない。しかし、こうしたすそ野があるからこそ、頂上があるのだ。高校野球の現実というのは、こうした学校の存在があることによっても支えられているのだ。
そんな両校の対決は、江東区の都立東と足立区の都立淵江。下町対決でもある。お互いが今の持てる力を出し合って、夏の暑さを吹き飛ばすような爽やかな試合となった。
都立淵江の沖山敏広監督は、「5、6点の勝負になるかなとは思っていました。序盤にいい形で点が入ったけれども、5回に追いつかれました。だけど、選手たちが慌てることなく『これから、自分たちの野球をやっていくんだ』みたいな雰囲気で頼もしかった」と選手たちを称えていた。
同点で迎えた7回、都立淵江は本来は4番だが、調子を落としていて6番に打順が下がっていた小泉が2死二塁で左前打して二塁走者をかえした。これが決勝点になる。小泉は3回にも2死一、二塁で左中間に二塁打を放っているが、この日は2安打3打点と、元4番らしい勝負強さを示した。小泉自身も、「7回は、得点圏に走者がいたので、絶対かえしてやるという気持ちで打席に入りました。気持ちよく打ててよかった」と笑顔を見せた。
都立淵江は8回にも3番・信太の内野安打で、二塁から一塁走者の常世田が好判断で迷わず本塁狙いだった走塁も光った。
そして、6回までは背番号6の信太投手が投げて、7回からは主将でもあり1番をつけた黒川投手が3イニングを1安打で抑えて責任を果たした。沖山監督も、「継投は予定通り。黒川もよく投げた。自分自身は監督としては夏の大会の勝利は7年ぶりなので、自分がちょっとウルっと来てしまった」と、心情を明かしていた。
2回、3回と2点ずつ奪われてリードされていた都立東は、諦めることなく4回には6番・伊藤 優吾の二塁打や8番・長田の犠飛で2点を返し、5回には2死二塁から4番・塩見の中前打で同点とした。ただ、後半になって力尽きる形で都立淵江にリードを許してしまった。そんな都立東だったが、限られた条件の中で一生懸命に野球に取り組んでいく姿勢を示し、それがこうした好試合を作っていったと言っていいであろう。
率いる藤田康平監督は都立小山台出身で、2014年春のセンバツに21世紀枠で甲子園出場を果たした時の一員である。早稲田大教育学部を卒業後は金融関係の企業に就職していた。しかし、同期だった伊藤優輔投手が大学、社会人と活躍して、プロ入りまで果たした姿を見ていて、「自分も、もう一度野球にかかわりたい」という思いが強くなっていったという。そして、恩師の福嶋正信監督にお願いして、都立小山台でコーチを務めながら、教職を目指していった。やがて、採用試験を突破して、今春から都立東に赴任して、野球部監督も務めることとなった。
そんな苦労人の藤田監督。この日の選手たちの頑張りに対しては、「勝たせてあげられなくて、悔しいですけれども、4月からの選手たちの成長を思うと嬉しいです。だけど、やっぱり勝たせてあげたかった、それは監督としての力不足だと思います」と、喜びつつも残念がっていた。秋からは1、2年生で8人となってしまい、合同チームで挑まざるを得ないことになりそうだ。それでも、「都立東で野球をやりたいという中学生に是非来てもらいたい。それをアピールするためにも、今日、勝っておきたかったんですけれども…」と、熱い思いを語っていた。
取材=手束 仁