今年も優勝候補の本命となった京都国際の着実なチームづくり
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杉原 望来(京都国際)
京都国際(京都)は、2021年春に甲子園初出場を成し遂げて以来、京都府の高校野球では横綱の地位を築きつつある。今春も府大会を制して近畿大会4強入りを果たした。夏の京都大会でも優勝候補の本命になることは間違いないだろう。
また、勝つことだけでなく、選手育成にも定評があり、昨年まで4年連続で高卒プロを輩出中。昨年のドラフト会議ではエース左腕の森下 瑠大投手がDeNAから4位指名を受けた。
今年も高卒プロ入りを狙える好素材を多く擁し、今夏での活躍が期待される。そんな京都国際の現チームの歩みに迫った。
昨年のチームはセンバツの出場権を獲得していながらも開幕直前に新型コロナウイルスの集団感染により出場辞退。その後も思うように練習ができなかったが、夏の甲子園に出場を果たした。しかし、甲子園では力を発揮することはできず、初戦敗退に終わっている。
新チームの主将は入部当初から主将を志願していた濵田 泰希外野手(3年)に決定。小牧憲継監督は新チーム結成当初の印象をこう語っている。
「元々素材型の選手が多かったので、秋に間に合わせるのは正直、厳しいかなと思っていました。1年かけて夏までにじっくりやりこんだら、面白いチームになるんじゃないかなという期待感はありましたね」
森下のような計算が立つ絶対的な選手がいない状態からのスタート。「ずば抜けた選手がいないので、チームとして束となって戦うチームを作ろうという中で新チームはスタートしました」と濵田は言う。とはいえ、旧チームからレギュラーだった三塁手の金沢 玲哉内野手(3年)や遊撃手の藤本 陽毅内野手(2年)、甲子園でリリーフ登板した松岡 凜太朗投手(3年)など力のある選手は揃っていた。
秋の府大会は力通りに勝ち進み、近畿大会出場を決めたが、決勝では乙訓に1対3で敗戦。近畿大会でも初戦で智辯和歌山(和歌山)に4対8で敗れ、センバツの出場権をつかむことはできなかった。
「劣勢に立たされた時に勝ち切れる粘り強さが今年のチームにはまだなかった」と振り返る小牧監督。この悔しさを糧に冬場の練習に取り組み、「冬のきつい練習をみんなで乗り越えて、粘り強さが身に着いた」(濵田)とチームは強さを増した。
その中でも大きく成長を見せたのが左投手の杉原 望来投手(3年)だ。智辯和歌山戦では登板がなかったが、その後に143キロをマーク。スライダー、カットボール、カーブ、チェンジアップの精度も高く、今年のドラフト候補に名乗りを上げた。
「春の大会からは絶対に背番号1番を取るという気持ちで冬の練習は取り組んでいました」という言葉通りに、この春からエースナンバーを奪取。春の府大会では厳しい場面での登板も多かったが、エースに相応しい投球でチームを救った。
結果的に優勝をすることができたが、準々決勝以降は苦戦の連続だった。準々決勝の日星戦は7回に逆転して5対2で勝利。準決勝の龍谷大平安戦は延長10回タイブレークの末に2対1でサヨナラ勝ち。決勝の立命館宇治戦では打撃戦となったが、後半に引き離して9対5で勝利を収めた。
「どんな展開になっても勝ち切ることをテーマに春はやっていたので、そういう面では色んな戦いを経験できて、京都内で勝ち切れたのは成長できたところだと思いますね」と府大会を振り返った小牧監督。様々な試合展開でも最終的には勝利をつかめる強さを身に付けることができた。
近畿大会では1回戦で近大附(大阪)と対戦して2対0で勝利。先発した杉原は6四球を与えて176球を要しながらも、5安打9奪三振で自身初の完封勝利を飾った。
「大会で自分が先発したら、最後まで誰にもマウンドを譲りたくないので、そういう気持ちが良かったかなと思います」と話した杉原。自身の目標であるプロ入りに向けて大きくアピールすることができた。
準決勝の金光大阪(大阪)戦は4人の継投策で挑み、1点を追う9回表に2点を奪って逆転したが、その裏に再逆転を許して5対6のサヨナラ負け。「内野のミスがあり、まだまだ足りないことがあった」(濵田)と反省点の残る試合となった。
小牧監督は近畿大会を通じて打線の強化に課題を感じたという。
「一定のレベルを超えてくると、まだまだ打線も迷いが生じて、本来の力を発揮できなくなってしまうところがありました。甲子園に出てくるピッチャーになると、もっと上のランクが来るのですが、やっぱり夏は打たないと勝てないので、どれだけ打線が上がってくるかというのが一つのポイントになると思います」
打線は甲子園経験者である1番の藤本、3番の金沢が柱になっているが、小牧監督がキーマンとして挙げているのが右の長距離砲である濵田と梶島 天内野手(3年)だ。金光大阪戦では濵田が6番、梶島が8番を打っていたが、彼らが中軸を打てるようになると打線に厚みをもたらすと小牧監督は考えている。
「まだ下位打線にいますけど、本来は上位を打ってくれないと困る子です。あの子らが1番や3~5番を打ってくれるようになると、得点力が大幅に増してくると思います。甲子園で勝とうと思ったら、右の大砲が2枚いると思っているので、そういう面ではあの子らがどこまで成長してくれるかだと思います」
特に注目なのが濵田だ。身長189センチの大型選手で、下級生の頃から主砲候補として期待されていた。昨年までは打撃の確実性に課題があったが、3年生になってから明らかにミート力が向上している。
現在は外野手で試合に出場しているが、練習では遊撃手にも挑戦中。中学時代にも守ったことがないというポジションではあるが、シートノックでは軽快な動きを見せていた。肩の強さには定評があり、将来的にはオリックス・紅林 弘太郎内野手(駿河総合出身)のような大型遊撃手として活躍できるかもしれない。
高卒でのプロ入りを目指している濵田は、「ショートで勝負したいと思っています」と話している。遊撃手には1年夏から不動のレギュラーである藤本がいるため、夏の大会で遊撃守備を見ることはできない可能性が高いが、遊撃手として活躍する未来を楽しみに待ちたい。
投手陣もエースの杉原に加え、多彩な変化球を操る右腕の松岡、「良い時は森下と遜色ない球を投げる」(小牧監督)という素材型左腕の長水 啓眞投手(3年)が控えるなど、層は厚い。夏場のトーナメント戦を戦うにあたって不安は少ないだろう。
目指すは3年連続の夏の甲子園出場。今の3年生が入学する直前のセンバツで甲子園初出場を果たして以来、甲子園の常連校になりつつある。選手たちには「今年は自分が」という思いがあるだろう。小牧監督も選手の意識の変化を実感しているようだ。
「去年、一昨年と甲子園で活躍している先輩を見て、自分たちも甲子園に行って当然、そこで勝ち切ってナンボという意識は子どもらにも根付いていると思います。レベルがわかっているからこそ、まだまだもっともっと上手くならないと、強くならないと、ということで濵田中心に自分たちであえてハードルを上げて練習はしてくれていますね」
シートノックでも、ノックを打つ小牧監督が何も言わなくても選手同士で互いのプレーを指摘し合っていた。指導者からのトップダウンではなく、自分たちで意識を高く持って練習に取り組めているのが、京都国際の強さの秘訣ではないだろうか。
「京都大会を圧倒して勝てないと甲子園に行っても日本一はないと思います。まだまだ隙があるので、隙をこの1ヶ月間で全員で取り組んでなくしていき、また京都でてっぺん獲れるように頑張っていきます」と意気込みを語ってくれた濵田。京都大会3連覇を目指す京都国際の夏が始まろうとしている。