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圧倒的だった大阪桐蔭に試練 絶対王者の威厳を打ち消した甲子園の大拍手

2022.08.26

圧倒的だった大阪桐蔭に試練 絶対王者の威厳を打ち消した甲子園の大拍手 | 高校野球ドットコム
前田悠伍投手(大阪桐蔭)

 平幕力士が、横綱に土俵際まで追い詰められながら押し戻す。期せずして、国技館が拍手に包まれる。そんなようなもの、か。

 8月18日、第104回全国高校野球選手権準々決勝第3試合の9回表、大阪桐蔭(大阪)が4対3とリードしての守りだ。下関国際(山口)の先頭・赤瀬 健心外野手(3年)がヒットで出塁し、松本 竜之介内野手(3年)が続き、仲井 慎内野手(3年)がバント。1死二、三塁とチャンスが拡大する。その一手ごとに、球場内の拍手の音量が増幅し、エリアも拡大する。三塁側アルプスから三塁側内野席へ、そしてネット裏へ。

 そのBGMに乗せられたように、賀谷 勇斗内野手(3年)のたたきつけた打球が、前進守備の二遊間を高いバウンドで抜けていく。逆転2点打。下関国際には失礼だが、平幕力士が5対4で横綱をうっちゃった。

「いまの3年生は、春夏連覇に強いこだわりを持って入ってきた世代。勝ちに結びつけられなかったのは監督の責任ですが、連覇を目指して戦ってくれたのは誇りです」
 と敗軍の将・西谷浩一監督はいう。

 だが、そこまでの戦いぶりは3度目の春夏連覇、そして秋、春、夏の3連覇も十分ありうると思わせた。旭川大高(北北海道)との初戦こそ、序盤に先行されたものの、海老根 優大外野手(3年)、伊藤 櫂人内野手(3年)のホームランなどで6対3と寄り切り。聖望学園(埼玉)との2回戦は、松尾 汐恩捕手(3年)の2本塁打など、打線が25安打と爆発し、7回以外は毎回の19得点。投げては前田 悠伍投手(2年)以下、4投手が2安打無失点に封じ、大勝したのだ。

 現チームは昨年から秋季大阪府大会、近畿大会、明治神宮大会、そして今年のセンバツと無敗で優勝。明治神宮大会が現行の「秋の日本一決定戦」になってから3校目の秋春連覇は、中身が圧巻だ。準々決勝からの勝負どころ3試合すべてが2ケタ得点と、1試合不戦勝の4試合で51得点。チーム打率.386の打線は爆発力がすさまじく、大会を通じてのホームラン18本中、なんと11本を占めた。これは従来の8本を大幅に上回る新記録で、1チームで7人がホームランを打つのも最多だ。市立和歌山(和歌山)との準々決勝では6回、伊藤の1イニング2本を含む3本塁打、チーム1試合6本塁打ともに大会2度目のタイ記録で、1試合チーム43塁打は新記録だ。投げても川原 嗣貴投手(3年)、2年生左腕・前田を中心とした4人のチーム防御率は0.75…。

 春の大阪を制して臨んだ近畿大会は決勝で智辯和歌山(和歌山)に敗れ、無敗の連勝は29で止まったが、夏の大阪大会もまた敵なしだった。7試合で7本塁打の54得点に対し、失点はわずか1なのだ。で、誰が呼んだか「絶対王者」。甲子園での3回戦は、川原が二松学舎大附(東東京)を6安打で完封。スコアは0対4ながら、二松・市原勝人監督は「点差以上の力の差があった。2ランク以上レベルを上げないと勝てません」と、横綱の力量にお手上げだった。


圧倒的だった大阪桐蔭に試練 絶対王者の威厳を打ち消した甲子園の大拍手 | 高校野球ドットコム
星子天真(大阪桐蔭)

 そして迎えた準々決勝。滑り出しは順調だった。初回、松尾と丸山 一喜内野手(3年)の連続適時打で2点を先制。だが試合前、西谷監督が「攻撃も守りもしぶといチーム。粘り合いになると思います」と語ったように、下関もまさにしぶとい。突き放すたびに5回、6回と追いつかれるのだ。聞くところによると、大阪桐蔭の強さを支えるデータ班も「下関国際は手強い」と分析していたという。6回、1点を勝ち越してさらに2死満塁とチャンスが続いたが、先発の古賀 康誠投手(3年)を救援した仲井の前に、丸山が三振に倒れている。

 だからか。西谷監督は7回、無死一、二塁のチャンスに、もう一度突き放そうと仕掛けた。バントエンドラン。だが……大前 圭右内野手(3年)の打球は小フライ。これをダイレクト捕球した仲井から二塁、そして一塁へと球が渡り、大きく離塁していた走者はどちらも戻れない。

 トリプルプレー。大会史上9回目、準々決勝以降では初めてというビッグプレーから、明らかに流れが変わっていく。8回の大阪桐蔭が、1死二、三塁のチャンスに谷口勇人外野手(3年)、松尾があっさり連続三振で逸すると、勢いを増した流れは9回、下関の逆転劇につながるのである。

 大阪桐蔭のマウンドには5回に救援し、6回には1点を失ったものの7、8回はテンポよく投げていた前田だった。だが、先頭をヒットで出し、場内の拍手が大きくなるにつれて余裕を失っていくように見えた。

「最近の甲子園には、9回になると負けているチームを応援するような風潮があります。勝っている場合は、球場全体が相手に拍手を送るようになるぞ、ということは常日ごろからいっていました」
 と西谷監督はいう。だが、頭ではわかっていても、3年ぶりに一般客の入ったスタンドが拡散する完全アウェーの風圧に、心身の平衡を保つのは至難だ。「すごい手拍子で、呑まれそうになって。前田に声もかけられず、申し訳ないことをしました」という二塁手の星子 天真主将(3年)の言葉がそれを裏付ける。

 近年のこの甲子園の風潮、16年の八戸学院光星(青森)と東邦(愛知)の一戦あたりから顕著になった。八戸学院光星が9対5とリードした9回の守り、東邦の先頭打者がヒットで出ると、盛り上がるアルプスに一般客も呼応し、声援と手拍子ともども、東邦一色ムードに。結果、八戸学院光星は、悪夢のようなサヨナラ負けを喫してしまうのだ。この、善意ながらも球児を威圧する大拍手は、新種の甲子園の魔物、といっていいかもしれない(ご興味があれば、かつて寄稿した『甲子園。善意の判官びいきならいいのか? 最終回の手拍子が愉快じゃない』をご覧ください)。

 だがもともと、この「絶対王者」は、「旧チームに比べて力がないことを自覚しているから、束になって泥臭く向かっていくしかありません」(星子主将)というチームだったのだ。歴代、複数の下級生がレギュラーを占めることが多い大阪桐蔭にあって、旧チームからのレギュラーは松尾ただ1人と、場数も物足りない。現に西谷監督も、「歴代、もっと強い年代はありました。順位をつけたら、10何番目のチーム」と語っていたとか。

 もしかするとそれは、周囲から「強い」といわれることに対して油断を戒めるレトリックなのかもしれない。そもそも連勝やホームラン、防御率など、確かに数字の派手さはわかりやすいが、打ち損ないが石ころひとつでヒットに、凡フライが強風に押されてホームランになるのが野球である。数字を100パーセント鵜呑みにし、強さの尺度としてはやし立てるのは罪作りなのかもしれない。

 ともあれ、「甲子園の借りは、甲子園でしか返せない」。敗退後、前田はそう語った。そういえば…。やはり優勝候補として春夏連覇に挑んだ17年夏は、3回戦で仙台育英(宮城)に敗れた。根尾 昂投手(現中日)、藤原 恭大外野手(現ロッテ)らが残った新チームは、その負けからスタートし、翌18年に2度目の春夏連覇を達成している。

(記事=楊 順行)

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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