試合レポート

東北学院vs愛工大名電

2021.08.11

東北学院が我慢の打線と伊東の成長で聖地初陣勝利、V候補うならせた

東北学院vs愛工大名電 | 高校野球ドットコム
勝利した瞬間に笑顔を見せる伊東大夢(東北学院)※写真=東京スポーツ/アフロ

愛工大名電有利かと思われたが…
 中京大中京など、愛知私学4強のライバル3校全てに勝利して愛知代表を勝ち取った。今大会で優勝出来るだけの選手層の厚さがある愛工大名電に対して、初出場・東北学院が挑むという構図が戦前のイメージだろう。

 だが、試合が始まれば、それが180度、逆となった。

◆終始主導権を握った東北学院が勝利
 東北学院は先発に伊東大夢を起用する。187センチの長身から140キロを超える速球で3回まで三者凡退に抑える好投を披露する。

 これでリズムを作ると、3回には二死満塁から7番・山田 将生が追い込まれてからしぶとく食らいつき、3点を先制する。さらに5回にも二死二塁から6番・木村 颯汰のタイムリーなどで前半までに5点を先取した。

 リードをもらった東北学院・伊東は、中盤から変化球を交ぜながら愛工大名電打線を抑える。8回に愛工大名電田村 俊介にホームランを許したが、同点まで許さずに、5対3で愛工大名電から勝利を掴んだ。

◆我慢と想像を超える投球
 愛工大名電は140キロを超えるような投手が多数いるなど、強力な投手陣を擁していた。その筆頭格にしてプロ注目右腕・寺嶋、そして先発・田村と主戦投手から5得点を奪う攻撃は、全国区と言ってもいい結果だ。

 その攻撃力の正体は、140キロを超える速球を捉えていくような破壊力ではない。追い込まれてからの粘り、対応力の高さが非常に高かった。

 3回の攻撃、山田のタイムリーから3点が入ってきたイニングだが、この時打ったのは、2ボール2ストライクからの低めのボールだ。このタイムリーに関しては、渡辺監督も試合のターニングポイントに挙げるほどの一打だったが、5回、6番・木村、続く7番・山田はともに1ボール2ストライクからタイムリーを放った。

 寺嶋のボールが失投だったかと言われれば、そうとも言い切れない。打者のタイミングを外して体勢を崩していた。寺嶋としては打ち取ったようにも見えるが、バッター陣は開きを抑えて、ギリギリまで我慢してボールを捉えているように見えた。

 振り返れば、初回から田村に対しても失投でない限り、強引に引っ張ろうとはしていなかった。センターから逆方向へ打とうとしていることが見てとれた。ほんの少しの我慢が、愛工大名電の強力投手陣を崩した。

 そして、味方のリードを守り抜いたエース・伊東の好投も勝利の原動力であることは間違いない。

 初回から142キロを計測するなど、まずはスピードボールで驚かせた。このスピードに負けたことで「攻撃ができなかった要因だと思います」と愛工大名電・倉野監督も話したが、中盤以降で光ったのは変化球だ。

 切れ味鋭いスプリット、スライダー、さらにチェンジアップをストレートと変わらない強い腕の振りで、投じてくる。このボールを愛工大名電も対策してきたそうだが、角度の付いたボールで捉えさせず、なおかつ堅い守備でアウトを重ねてチームにリズムを与えた。

 渡辺監督も最後まで伊東に託すつもりでマウンドに送ったそうだが、その期待に応える好投がチームに甲子園での初勝利をもたらした。

[page_break:名指導者による助言が成長に繋がった]

◆名指導者による助言が成長に繋がった
 伊東が投手として成長するうえで欠かせない1人の存在があった。

 「八戸学院大の正村監督に投球フォームについて指導してもらったんです。その時まではテイクバックが大きくなってしまって、制球力がなかったんです。ですが、正村監督にご指導をもらってテイクバックを小さくしたことで、制球力が安定し始めました」

 同じ東北地区の金足農出身の吉田 輝星(日本ハム)や、楽天の塩見 貴洋投手など、他にも数多くの選手を指導してプロへ送ったことでも知られていた名指導者だ。その正村監督からの助言を受けて、伊東の制球力が磨かれ、愛工大名電相手にも与四死球2という結果を残した。

 球速ばかりに注目してしまうが、制球力も持ち合わせる伊東の実力が本物か。次戦が正念場だろう。

◆勝ち抜く中で成長した打線が8安打5得点を生んだ
 そして打線に関しては「ついてきて、しぶとい打撃でした」と愛工大名電・倉野監督も称賛した。そんな打線に関して、渡辺監督も最大限の称賛をした。

 「打ち勝つ野球をテーマにしましたが、これを甲子園で発揮したのは大したものです。好投手相手に気持ちで負けずに立ち向かって、ヒットを打ってくれたのは嬉しいです」

 冬場は、全員で1000回以上、ピッチャーをイメージするなど実戦を想定して振り込んできた。また普段は2時間しか練習ができないが、打撃練習に時間を割いて攻撃力を磨いてきた。

 そして宮城大会を勝ち抜いてきたことも含めて、「対応力は身についてきたと思います」と躍進の中で様々なことを吸収してき成長してきたことで、愛工大名電から8安打5得点になったと分析している。

 愛工大名電という強豪に勝利して得た経験を次戦で生かすのか。伊東の投球だけではなく、打線でも注目だ。

◆敗戦を糧にプロの世界へ
 敗れた愛工大名電は先取点を与えてから「攻撃が焦ってしまった」と倉野監督は話していたが、なかなか愛工大名電ペースで試合を進められずに、苦しい試合となった。

 攻撃でつながりを欠いたものの、失点に関してはミスが絡んだわけではない。田村も「すべての出しきっての負けで悔しいですが、相手が上だったと思います」と納得しているようだった。

 甲子園の緊張で普段通り投球できなかった田村だが、8回には右中間へホームランを放つなど、ドラフト候補として1つ爪痕を残した。今後の進路が気になるが、田村はプロ入りを公言した。

 「いけるならプロでも両方で挑戦して、チャンスに強い選手になりたいです」

 進路を明言した田村に、倉野監督も高い評価をしている。

 「勝負強さのある、スター性のある選手です。打っては安定感と長打力は抜きんでています。投げては145キロ計測します。もっと磨けば実績も出ると思います。大谷翔平を目指してやってもらえればと思います」

◆独自プログラムでさらなる飛躍を
 田村だけではなく、愛工大名電には引退しても次のステージへの準備として、練習や試合を行うUCLBという育成システムがある。それを活かして、倉野監督は、最後まで面倒を見ていく姿勢を示した。

 「貴重な経験をして力のある選手、チームがいることを知れたので、地道に努力して将来に向けて実力付けて羽ばたいてほしいと思います」

 愛工大名電の選手の高校野球はここで終わった。しかし野球人生はまだ続く。これからのステージで大きく成長した姿を見られることを楽しみにしたい。

(記事:田中 裕毅

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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