試合レポート

樟南vs鹿児島実

2021.07.26

1つ1つの積み重ねが結実・樟南

樟南vs鹿児島実 | 高校野球ドットコム
樟南5点目

 樟南鹿児島実。長年鹿児島をけん引してきた名門2強の夏決勝の直接対決は、5年前の2016年、延長15回の引き分け再試合で樟南が勝利して以来である。「あの時の再試合も7月26日だった。あの試合のことや、この1年間のいろいろあったことが思い出された決勝戦だった」と樟南・山之口 和也監督は試合後に語っている。

 樟南はエースを中心とした守備(=盾)が持ち味。鹿児島実は強力打線のイメージが強い攻撃(=矛)に特徴があるチーム。長年、鹿児島の頂点を競い合った両者の対決は典型的な「矛盾対決」となり、樟南が勝つのは「ロースコアの接戦」を予想するのだが、この日はまず樟南の「矛」が鹿児島実に牙をむいた。

 1回裏、一死から2番・尾崎 空(3年)がセンターオーバー二塁打で出塁し、3番・下池 翔夢主将(3年)のライトオーバー二塁打で樟南が先手を取った。

 2、3回と走者を出して畳みかけるチャンスを作ったが、連続送りバント失敗、鹿児島実の好守に阻まれ本塁アウト、併殺で打ち取られるなど拙攻が相次ぎ、波に乗れない。

 4回裏も先頭打者がヒットで出て送りバントで二塁まで進むも、捕手がボールを取り損ねたスキに二走が三塁を狙うも三塁タッチアウト。つかみかけた流れを相手に渡しかねない状況になった。

 だが、そこから四球、ヒット、四球で粘って満塁とする。鹿児島実は先発のエース大村 真光(3年)が降板、左腕・赤嵜 智哉(2年)をマウンドへ送った。

 1番・町北 周真(2年)がフルカウントまで粘って四球を選んで押し出し。待望の追加点を得ると、2番・尾崎がライト前2点タイムリーを放った。5回にも6番・長澤 明日翔(3年)がレフト前タイムリーを放ち、貴重な中押し点を挙げて前半で5点と大きくリードした。

 打線の勢いは後半も衰えない。8回には相手のミスも絡んで無死満塁とし、1番・町北のライト前タイムリー、3番・下池主将の犠牲フライでダメ押しの2点を挙げた。

 エース西田 恒河(3年)を中心とした樟南の「盾」も鹿児島実の「矛」を最後まで通させなかった。最速140キロの直球から多彩な変化球を駆使した緩急を丁寧に使い分け、7回まで鹿児島実打線に三塁も踏ませなかった。

 序盤から劣勢続きの中、ショート平石 匠(3年)を中心に2度の併殺を取るなど、堅守から流れを引き戻したかった鹿児島実だったが、エース西田を最後まで打ちあぐねた。

 8回表、一死から8番・小倉 良貴(3年)がライトオーバー二塁打を放って、初めて三塁まで進むも得点ならず。9回は代打攻勢を仕掛け、末吉 涼雅(3年)が内野安打、上西 巧朗(3年)がレフト前ヒットを放って、一、三塁と意地を見せるも、見逃し三振に打ち取られ、最後まで本塁が遠かった。

 終わってみれば「矛」「盾」ともに樟南がライバルを圧倒して5年ぶりの甲子園をつかんだ。山之口監督は「選手たちが実力以上のものを出してくれた」と賛辞。その上で「1つ1つ、できることを積み重ねていった結果」と力強く振り返った。


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歓喜の輪をつくる樟南ナイン

 昨秋準優勝、九州大会出場した樟南だったが春以降は「打てない」「点が取れない」大きな壁にぶち当たっていた。「冬を越えて身体が大きくなって飛距離が出るようになった分、振りが大きくなってしまっていた」と下池主将。春は大島に3回戦負け、5月のNHK旗は準々決勝で鹿児島実に延長13回、タイブレークで競り負けて上位に勝ち上がれなかった。

 「バットを短く持って、ボールをしっかりとらえる」(山之口監督)。最後の夏に甲子園をつかむカギは打撃の「原点」を徹底できるかどうかだった。

 初回のチャンスで下池主将は「今大会、今までチャンスで打てなくてチームに迷惑をかけた。バットを短く持って思い切り振った」。チームリーダーが約束事を体現したことで全体が勢いづく。2回以降、長打は出なかったが、終わってみれば毎回の15安打で最後まで攻撃の手を緩めなかった。

 エース西田はこれまで「勝負所で甘くなって打たれてしまう」課題をなかなかクリアできなかった。この日、ボール自体はあまり走っていなかったが、最も遅い88キロのスローカーブから最速140キロの直球まで、約50キロある球速の幅、多彩な球種を自在に使い分け、最後まで相手打線に狙い球を絞らせなかった。3番・城下 拡主将(3年)、4番・井戸田 直也(3年)、5番・板敷 昂太郎(3年)の中軸トリオには1安打も許さず、散発7安打の完封劇。テンポの良い投球にサードを守る下池主将も「守りやすかった」と無失策でエースを援護した。

 5年ぶりに挑む夏の甲子園。これからも「できることを、もっともっと、1つ1つ、積み重ねていく」(山之口監督)姿勢は変わらない。今大会でも本来の樟南野球の持ち味である送りバントや走塁ミスなどが目立った。鉄壁の「盾」に勝負強く泥臭い「矛」が加わり、レベルアップした樟南野球。課題に残った「緻密さ」を甲子園までに磨きをかけ、目指すは「全国制覇」(下池主将)だ。

(文・写真=政 純一郎

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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