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注目投手・島野 愛友利擁する神戸弘陵女子野球部。優勝するための課題とは

2021.06.26

 阪神甲子園球場で行われることが決まった第25回全国高等学校女子硬式野球選手権大会。男子と同じく女子にも聖地で戦う機会が設けられたことで、女子高校野球に対する注目度はかつてないほど高まっている。

 今夏の選手権大会には過去最多の40チームが出場する。その中で甲子園出場候補の一校に挙がっているのが、兵庫県にある神戸弘陵だ。2014年に創部されてから選抜大会2回、選手権大会1回の優勝経験を持つ強豪校。龍田 美咲水流 麻夏一尾星 吏夏中川 莉奈と女子プロ野球でも活躍したOGも多数輩出してきた。

 今春の選抜大会では4強入り。大淀ボーイズのエースとして、ジャイアンツカップ優勝の実績があるエースの島野 愛友利(3年)を中心に全国制覇を狙える力は十分にある。今春の兵庫大会で3位と躍進した男子との男女アベック出場を目指す神戸弘陵女子野球部の今に迫った。

神戸弘陵男子野球部を二度甲子園に導いた石原監督の就任でチームを強化

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ボール回し

 チームを率いるのは同校OBの石原 康司監督。男子の監督として甲子園に2度出場したこともある名指導者だ。決勝が甲子園で開催されることについて、こう語ってくれた。

 「非常に嬉しい気持ちですね。私は元々男子の監督をしていましたし、甲子園というのが夢ですから、そこでまたやれるチャンスがあるのは本当に嬉しいです。そういう場所に女子でも行ける機会を作って下さった方々に感謝しかないですね」

 創部当初から熱意をもって指導してきた石原監督だったが、甲子園が目指せることになり、野球人としての血がより騒いだ。選手たちの間でも「仲間同士の話の中で甲子園というワードがよく出るようになりました。目指す場所はそこなので、『みんなで頑張ろう』と声を掛け合っています」と主将の小林 芽生(3年)が話すように練習に対するモチベーションは高まっている。

 「男女関係なく、トーナメントを勝ち抜くには無駄な失点を防がないといけません」(石原監督)と神戸弘陵は投手を中心とする守りの野球が身上だ。今年も絶対的エースの島野を軸に少ない失点で勝ち抜く野球を目指している。

 選抜大会も島野を中心に戦い、準々決勝までの3試合を1失点と守り勝つ野球ができていた。しかし、控え投手に不調者や故障者が相次いだ影響もあり、準決勝で履正社相手に0対4で敗戦。中止になった昨年を挟んでの3連覇とはならなかった。

 「勝つ時は何も起こらないんですけど、負けるときはアクシデントが多いですね。でも、それを克服できなかった選手層でしたし、私の指導力が足らなかったと思います。夏はタフなチームを目指していきたいですし、層の厚いチームになっていきたいと思います」(石原監督)

[page_break:夏へ向けての課題はエース・島野に続く2番手投手の台頭]

夏へ向けての課題はエース・島野に続く2番手投手の台頭

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石原 康司監督

 夏に向けては島野に次ぐ投手の台頭が待たれる。その中で、2年生では日髙 結衣佐藤 なつみ、3年生では百田 陽菜平田 千夏が成長を見せており、夏に向けては貴重な戦力となりそうだ。

 守備を重視するチームだが、「秘めたる打棒はあると思います」と打力も決して低いわけではない。1番の信貴 友郁(3年)と4番の正代 絢子(2年)を指揮官はキーマンに挙げており、3番の島野を含めた主力打者が機能すれば、得点力は大きく向上するだろう。

 また、男子の監督を20年間務めた石原監督にチーム作りや男女における指導の違いについても聞いてみた。野球が教育の一環であることは男女共通だが、女子の指導を始めてからはその意識がより強くなったという。

 「女子はいきなり全国大会に出られますので、それに相応しいチームになるために人間性を重視して指導しているつもりです。『野球は上手いけれど、授業態度や生活が悪いと言われないようにみんなでやっていこう』と意識させています。チームのモットーは初年度から素直であること。感謝する気持ち。全力で常にやる。そしてそれを継続することを常々言っています。車の両輪と同じで、プレーと人間性は両輪だと思います」

 学校生活や寮生活を厳しく指導することもあるが、それだけでは選手はついてこない。以前よりオンとオフを以前よりハッキリ分けるようにして、選手たちとの信頼関係を築いている。昔を知っている人からは「優しくなった」と言われることもしばしばあるそうだ。

 メンバー選考にも工夫を凝らしている。男子のベンチ入り人数は地方大会が20人、甲子園が18人だが、女子は25人も入ることができる。20人は男子と同じように実力で選ぶが、残りの5人に関しては「この子がいれば、みんなが元気になる、あるいは尊敬される子を入れるようにしています」と技量以外の面も考慮するようにしているそうだ。

 このようなメンバー選考を行うことで、実力的に厳しくてもモチベーションを落とすことなく、練習に取り組むことができる。さらに64人いる部員に同じ練習をさせることで、競争心を高めており、練習は活気に溢れていた。

[page_break:サポートメンバーで戦う主将の決意]

サポートメンバーで戦う主将の決意

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小林 芽生主将

 その雰囲気作りに一役買っているのが、主将の小林だ。2年生から副主将を務めており、周囲からの信頼も厚い選手である。しかし、選抜大会後に右膝の前十字靭帯断裂が発覚。選手として夏を戦うのはかなり厳しくなった。

 心が折れてもおかしくない状況だが、「チームを最後までまとめ切るのが仕事なので、怪我をしても最後までやり抜きたいです」と下を向くことなく、懸命にチームを引っ張っている。プレーはできなくてもノックでのボール渡しやケース打撃のランナーコーチなどで、誰よりも声を出し、チームに熱気をもたらしていた。

 彼女の姿勢について石原監督は「本当に熱い気持ちでチームの為に一生懸命やっている姿は立派だと思います。彼女を甲子園で優勝キャプテンにしてあげたい」と目を細める。小林の存在がチームを団結させているのは間違いない。彼女の献身的な姿勢も是非見てほしいところだ。

 最後に石原監督に全国の野球ファンに対して、女子野球に対する想いを語ってもらった。

 「女子野球ということで、プレーやスキルの面が軽視されるかもしれません。けれども非常にレベルは高いです。男子に負けないハートで白球を追い求めて、本当に頑張っている姿を一度見てやってください。これからの未来の為に女子野球を見てもらいたいし、また、広めていく一つのきっかけになってほしいと願っています」

 甲子園での決勝が決まり、大きな一歩を踏み出した女子高校野球。今夏は大きな契機となるだろう。男子同様に甲子園を目指す女子高校野球の戦いから目が離せない。

(取材=馬場 遼

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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