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この夏に紅葉川を勇退した田河清司前監督、高校野球人生を振り返る

2019.12.10

この夏に紅葉川を勇退した田河清司前監督、高校野球人生を振り返る | 高校野球ドットコム
紅葉川を勇退した田河清司前監督

 毎年、オフの恒例となっている東京都の高校野球指導者たちが中心となって開催されている高校野球研究会が、12月8日の日曜日、都立青山高校の5階ホールで15時から開催された。今回は、演題を「ひとりごと」というテーマとして、この夏の東東京大会で紅葉川での采配を最後に、ひとまず高校野球監督の座を辞した田河清司前監督を講師として招いた。

 田河氏は元々、高校野球研究会の発起人メンバーの一人でもある。2015(平成27)年には、日本高校野球連盟から「育成功労賞」も受賞している。

 話し上手というか、陽気で話好き、そんな田河氏のキャラクターが前面に出されたとても楽しい講演会でもあった。講演会というよりも、自身も言っていたようにトークショーのような、そんなニュアンスの方が似合いそうな会場の雰囲気だった。

 軽妙な話しぶりの田河氏。笑いで聞く人の興味を引いておいて、後でジーンと考えさせる。そんな話術は、かなりの高等技術である。

 自身の幼少時代の生い立ちから語ってくれたのだが、小学6年生の時に、廊下で立たされていた時に窓から火事を発見。「火事だ、火事だ、燃えている。どこだろう、燃えた、燃えた」なんてはしゃいでいると、一転それが自分の家だということが判明するという落ち。隣からのもらい火で全焼して帰る家を失ったのだ。そうやって、「帰る家のある有難さを知った」という話。そして、「実は、これはボクが保健体育の授業でもよく用いていたネタなんですけれども、そこで、家に文句言ったりするけれども、帰る家があるっていうことは、本当にありがたいことなんだ」と、しんみりと考えさせて、家庭のよさ有難さを学ばせるのだという。

 このあたり、まさに江戸の人情小咄や人情落語ではないかと思わせるくらいの素晴らしい話術でもあると感心させられた。「ひょっとして、この人は教員やっていなかったら、落語の台本書きや人情喜劇のシナリオライターになっていたのではないか」と思わせるくらいの卓越した構成だった。

 もちろん、そんな話を盛り込みながらも、墨田区の吾嬬第二中から葛飾野高と進んで、自身の野球との関わり。さらには、順天堂大を経て、体育科教員となっていく経緯から、羽村養護学校(現羽村支援学校)をスタートとして、日比谷高校定時制で定時制の軟式高校野球で初めて野球指導現場に関わった話。そこでも、全日制をドロップアウトしていった生徒たちの心をどのようにして掴んでいったのかという話を中心に話が進んだ。その根底にあるのは、人を喜ばす心だったという話である。「人に笑われるのではなく、人を笑わせる」という思いである。そこには、昭和の下町の心とでも言おうか、「損して得をとれ」という義理と人情の世話人心があったのだ。

 やがて、武蔵丘に異動して初めて硬式の高校野球部に関わることとなった喜び。そして、日比谷での5年間。1年間の向島商を経て調布南。最後となった紅葉川での9年4カ月といった教員生活と高校野球の指導現場を振り返りながら語っていた。

 現在は外部指導員として、母校の葛飾野にコーチとして顔を出しているという。なお、現在の葛飾野の才野秀樹監督は、かつて田河氏が赴任する前に紅葉川の今日への基礎を築いた指導者でもあり、ここでもまた、深い縁があったということである。

 講演後は、研究会の資料報告が若干あり、その後は神宮球場にほど近い場所のカフェが2年の忘019年会兼懇親会の場となった。そして、この懇親会でも田河氏は例年通りに司会進行を務めていた。「今日は、田河先生、下手な講演ありがとうございました」と、自分で自分を落とす挨拶から始まった。若手からベテランまで、東京都だけではなく、埼玉県や神奈川県など、近郊の指導者たちも顔を出しており、会は2時間半余、大いに盛り上がった。そして、それぞれがいろんな思いを語りながら、来たるべきシーズンへ向けて新たな鋭気を養っていた。

(記事=手束 仁

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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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