韓国のドラフトは日本にはない独自の制度が盛りだくさんだった!
令和最初のドラフト会議もいよいよ迫ってきた日本野球界。注目の佐々木朗希や奥川恭伸、また大学球界NO.1と呼び声高い森下暢仁らドラフト注目選手はどこに指名されるか。また各球団はどのような選手を指名するのか、注目が集まる。
ところでWBSC3位の強豪・韓国では8月末にドラフトを終えている。アジアのライバルとして熾烈な戦いを繰り広げる韓国ではどのようなドラフト制度となっているのか。今回は普段は弁護士の仕事をしながら韓国野球にエージェントとして関わっている金弘智(キム・ホンジ)さんにお話を伺った。
日本にはない、縁故指名制度
韓国の主砲として活躍するカン・ベッコ
まずは韓国のドラフトはどのような仕組みで行われているのか。金さんにお話を伺った。
「6月から7月の頭頃に1次指名が行われ、8月末から9月くらいにかけて2次指名を開催する形になっています」
今年は1次指名が7月1日に行われ、2次指名が8月26日に行われた。過去にはNPBでも高校生ドラフトと大学生・社会人ドラフトというように分けられて開催された時期もあったが、金さんはKBOのドラフト制度の特徴である一次と二次の違いについて以下のように説明する。
「1次指名は縁故指名というもので、縁故地域の高校の選手(出身者を含む)を優先的に指名する権利があります。その後、2次指名では高卒から社会人まで韓国国内全体から指名できます」
地元の選手を優先的に指名できる仕組みは日本のドラフトにはない韓国独自の仕組みだといえる。この制度はなぜ存在しているのだろうか。金さんはこのように答える。
「出身地域の有望選手を球団が指名してスターが誕生すれば、球団の人気が上がります。そうすれば球団への愛着が湧き、もっと人気になるというリーグの政策的観点があるんです」
また6月にドラフト会議を行うことで、有望選手が海外へ流出することを未然に防ぐ狙いがあるそうで、韓国のプロ野球のリーグ発展への姿勢が伺える。しかし、縁故指名には問題点もあることを金さんは指摘する。
「韓国で高校野球があるのは60数校くらいで、地域によってバラつきもあります。例えばソウルやプサンのような大都市であれば問題はないですが、そうでない地域だと学校や対象となるような選手が少ないです」
キムさんの言葉通り、昨年2018年のKBOの結果を振り返ると、韓国シリーズを制したSKワイバーンズは首都・ソウルに近いインチョン広域市がフランチャイズ。また公式戦1位だった斗山ベアーズはソウル広域市がフランチャイズの球団。2019年も公式戦1位は斗山ベアーズ、2位はSKワイバーンズで、SKとプレーオフで対戦しているキウム・ヒーローズもソウル特別市がフランチャイズである。
ソウル優勢の韓国のプロ野球に比例して、ソウル市内に有望な選手が集まりやすい傾向にあることを金さんは懸念している。
[page_break: 野球事情の違いが、ドラフトにまで影響していた]野球事情の違いが、ドラフトにまで影響していた
韓国の大スター選手だったイ・ジョンボムの息子・イ・ジョンフ(現・ネクセンヒーローズ)も一次指名だ
縁故指名が行われる1次指名から数か月後、韓国では2次指名が行われ、ドラフトは終了となる。
この2次指名は前年のペナントレースで最下位からウエーバーで指名が行われ、最大で10ラウンド(韓国では1巡目とは言わず、ラウンドと呼ぶ)まで行われる。そのため競合や抽選は存在しない。
では2次指名はどのような仕組みとなっているのか。ここも金さんに解説してもらった。
「ドラフトにかかるであろう選手はソウルに一堂に集まって、会議に出席します。その様子はテレビでも中継されますが、ここには海外でプレーをしていた選手も来ます」
日本やアメリカなどでプレーをしていた選手は7月に願書や履歴書などを提出し、申し込みを済ませる。その後、ドラフトの1~3週間前にトライアウトを受験し、スカウト陣に自分をアピールしてドラフト当日を迎える。一例として、2010年の夏の甲子園に出場した安田権守(早稲田実業出身)は今年の2次指名で斗山ベアーズから指名を受け、またKBOに所属せず、徳島インディゴソックス、東京ヤクルトでプレーしていたハ・ジェフンも昨年、SKワイバーンズに指名され、新人ながらリーグ最多の36セーブを獲得。11月に開催されるプレミア12の韓国代表にも選出されている。
また2次指名の対象選手はトライアウトを受けた選手を含めて、韓国の高校でプレーする球児全てが対象となっている。日本はプロ志望届を提出した者のみが対象になっていることを考えると、韓国のドラフトの独特な部分だ。
複雑な韓国のドラフトを事情を語ってくれた金弘智(キム・ホンジ)さん
しかし2次指名も開催時期は様々なところで議論が交わされているそうで、「国際大会の前にやってしまうとモチベーションが上がらなくなり、大会後にやってしまうと怪我をしてしまう可能性があるんです。なので、現場では一長一短みたいです」
1次指名、そして2次指名ともに課題が残る韓国ドラフト。こういった課題を解消すべく、5年もしくは10年周期を目安にドラフトの制度を改善しているそうだ。
そして現在の制度も2021年に終了し、2022年からは縁故指名制度の廃止。最初から韓国国内全体で指名ができる仕組みに変わっていくそうだ。
金さんはこの制度に関して「韓国のプロ野球は戦力のバランスを大事にしているので、日本と同じなドラフトになることで、各球団の戦力のバランスが整いそうです」と少し笑顔を交えながら語る。
笑顔で語るのはプレーオフが関係しているからだ。
韓国では、上位5チームにプレーオフの出場権が与えられる。つまり縁故指名制度が無くなれば、下位で終わった球団に有力選手獲得のチャンスが巡ってくる可能性がある。そして上手くいけば来シーズンで上位進出も狙えるというわけだ。
日本では上位チームからウエーバーで2位を指名し、それ以降は逆ウエーバーで選手を獲得していく。こうしたところも韓国のドラフトならではの仕組みといえるだろう。
そして韓国のドラフトで最も大事なファクターが「徴兵」だ。
金さんもこのことに関して、「大学からプロに入っても兵隊に行ってしまうと戻ってきたら25、26歳になってしまいます。そこからブランクを取り戻したとしても27、28歳となってしまうので、そこまで投資できるかどうかなんです」と話す。
こうした背景もあり、韓国のドラフトでは大学や社会人からあまり選手を獲得せずに、高校生を指名して早い段階からプロの世界で鍛え上げる考えがあるのだ。
日本と韓国、同じようにドラフトで選手を獲得するにしてもその方法は全然違う。そこには国内の野球事情などがあるが、日韓から世界で活躍するスター選手が登場してほしいと思う。
そのスターへの第一歩となるドラフト会議は17日。どんな結末を迎えるのか、今年も楽しみにしたい。
(文・田中 裕毅)