Interview

美しいフォームは天性のもの 井上温大(前橋商)を飛躍させた2つのターニングポイントとは。

2019.10.13

 投球フォームにおいては、群を抜いて完成度が高いサウスポーが群馬でドラフト指名を待っている。前橋商井上温大だ。

 最速146キロの直球を武器に、選手権群馬大会では50イニング1/3を投げて、防御率2.14、45奪三振を記録してチームの決勝進出に大きく貢献した。惜しくも甲子園出場はならなかったが、流れるような美しい投球フォームはプロのスカウトからも高い評価を得ており、10月17日のドラフト会議でも指名が予想されている。

 そんな井上に、ここまでの成長の過程を伺った。

投球フォームは修正したところがほとんどない

美しいフォームは天性のもの 井上温大(前橋商)を飛躍させた2つのターニングポイントとは。 | 高校野球ドットコム
井上温大(前橋商)

 井上は、投手一筋のキャリアを歩んできた。
 3歳年上の兄の影響で小学校1年生から岩神リトルファイターズで野球を始めた井上は、入団当初から投手としてマウンドを経験していた。
 当時は「それほど球は速くなかった」と振り返る井上だが、小学校3年生頃からは本格的に投手を任されるようになり、卒業後に進んだ前橋市立大胡中学でも3年間投手として活躍。

 「そんなに凄い投手ではなかった」と謙遜するも、3年の春には群馬県大会への出場も果たし、前橋商以外にも甲子園出場の実勢がある県内の有力校から複数声が掛かった。中学時代から投手としての資質を兼ね備えていたことが伺える。

 「中学時代はストレートとカーブを投げていて、カーブでカウントを整えてストレートで打ち取るピッチングでした。1回戦で敗れましたが、3年春には県大会に出場できました」

 そんな井上には、中学時代から投手として光るものがあった。プロ顔負けの、非の打ちどころのない美しい投球フォームだ。前橋商の住吉信篤監督も、「投球フォームについては特に修正したところはない」と語るほど、井上の投球フォームは元々完成度が高かった。
 井上は、中学2年頃から投球フォームの綺麗さを自覚し始めたことを明かし、フォームで意思しているポイントについても、特に難しいことは考えいないと語る。

美しいフォームは天性のもの 井上温大(前橋商)を飛躍させた2つのターニングポイントとは。 | 高校野球ドットコム
ピッチングをする井上温大(前橋商)

 「小学校の頃からフォームが綺麗とは指導者に言われていましたが、中学2年頃からチームメイトや相手チームの監督から言っていただけるようになり、自信を持てるようになりました。
 フォームで意識しているのも、一本足で立ってからヒップファーストでいくイメージを持ってるくらいです」

 また高校入学後には、自身の新たな武器も発見した。
 投球フォームが綺麗であるが故に、球の回転も非常にスピンの効いた綺麗な縦回転であることだ。球の回転についても、前橋商のチームメイトから声を掛けられたことで、井上は武器であることを認識したと語り、これが高校野球を戦っていく上で大きな自信になった。

 「軟式だとボールが伸びる感覚がわからなかったのですが、硬式だと指にしっかり掛かると空振りを取れるようなスピンの効いたボールがいく感覚がありました。そこからボールのスピンも意識するようになりましたし、高校野球でもやっていけるかなと思うようになりました」

[page_break:高校2年の秋に訪れた二つのターニングポイント]

高校2年の秋に訪れた二つのターニングポイント

美しいフォームは天性のもの 井上温大(前橋商)を飛躍させた2つのターニングポイントとは。 | 高校野球ドットコム
井上温大(前橋商)

 そんな中で、井上が高校入学後に課題に挙げたのが球威の向上だ。
 スピンの効いた質の良いストレートを投げていた一方で、高校1年時にはまだ球威が伴っていなかった。入学直後にチームで球速を測った際には、井上は123キロを記録。自分の現在地を知ることが出来た井上は、更なるレベルアップの為に体作りに取り組んだ。

 「123キロでしたが、指に掛かる感覚はあったので、もっと完成度を高めて体も大きくしようと思いました。ご飯をどんぶりで3杯食べたり、まずは食トレからしっかりやるようにしました」

 元々フォームが良かったため、急激に球威が向上することはなかったが、体重に比例するように徐々に球威は向上し、2年の夏には138キロを記録。夏の選手権群馬大会では投手陣の一角を担い、リリーフや先発として計9イニングを投げ3安打無失点と好投を見せる。
 高校入学当初とは比べものにならない程の手応えを感じていた。

 だが、そんな井上に大きなターニングポイントが訪れる。投手としての意識を、さらに引き上げる出来事が2年の秋に二つ起きたのだ。
 一つ目は、選抜甲子園を目指した秋季群馬県大会で2回戦で館林に敗れたことだ。試合後には住吉監督から野球と向き合う姿勢について叱咤され、井上は日頃の練習から意識を変えていくことを誓った。

 「与えられたメニューをただやるのではなく、高い意識を持ってやるよになりました。それまでは回数もアバウトだったり、スクワットを行う際も形が悪い状態でやっていたり。そういった細かい部分までこだわるようになりました」

美しいフォームは天性のもの 井上温大(前橋商)を飛躍させた2つのターニングポイントとは。 | 高校野球ドットコム
ピッチングをする井上温大(前橋商)

 そしてほぼ同時期に、井上がプロ野球選手を明確に志すきっかけとなる出来事も起こる。
 プロ野球のスカウトが練習試合に自身を視察にきていたことを知ったことだ。これが2つめのターニングポイントである。

 「スカウトの方が見に来ていただいて、その時にこのまましっかりトレーニングを続ければ、ドラフトで指名される可能性もあるかなとモチベーションも上がりましたね。野球をやってるからにはプロ野球は目指してはいましたが、それがより明確になりました」

 意識レベルも向上した井上は、秋から春にかけて6キロの増量に成功する。最後の夏を前に球速は144キロにまで達し、ドラフト候補として全国的に名前が挙がる存在になった。
 そして今、ドラフト会議を目前に控えて、井上はプロ入に向けて強い思いを口にする。

 「憧れはソフトバンクホークスの工藤公康監督です。同じ左投手で200勝している投手ですし、自分も勝てるピッチャーになりたいと思っているからです。勝てるピッチャーになって長く野球が出来ればと思います」

 最後の夏は惜しくも決勝で敗れ、甲子園出場は果たせなかった井上。悔恨を乗り越え、そして真の「勝てる投手」を目指し、井上は静かに運命の10月17日を待つ。

(取材=栗崎 祐太朗

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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