Interview

無名の高校だからこそじっくり成長できた 玉村昇悟(丹生)【前編】

2019.10.12

  最速147㎞/hを投げる本格派左腕として、ドラフト候補に挙げられている丹生玉村昇悟。主将・エースとして臨んだ最後の夏はセンバツ出場校の啓新、甲子園通算12度出場の強豪・福井工大福井を破って決勝進出。敦賀気比に敗れて甲子園出場とはならなかったが、2009年の敦賀気比山田修義(オリックス)が保持していた大会通算49奪三振を超える52奪三振をマークした。今回は地元の公立校からプロ注目の投手へと成長した過程を追っていく。

「卒業したらプロに」入学前に監督に語っていた

無名の高校だからこそじっくり成長できた 玉村昇悟(丹生)【前編】 | 高校野球ドットコム
インタビューを受ける玉村昇悟(丹生)

  福井県越前町で生まれ育った玉村は3歳年上の兄がプレーしていた影響で、小学4年生の時に野球を始めた。最初は右でも左でも投げていたというが、グラブを購入する時に「左の方が投げやすかった」という理由で左利きのグラブを購入。こうして「左投げ・玉村昇悟」が誕生した。

 ちなみに字を書くことやお箸を持つこと、バドミントンなど、野球以外は全て右利き。左の方が投げやすいのかは本人もよくわからないそうだ。

 野球を始めた当初から投手をやっていたが、意外にも「最初はあまり好きじゃなった」と話す。その理由からは「目立つから」だという。あまり目立つことの好きではない性格の玉村は「恥ずかしかったので、別の目立たないところが良かった」と思っていたそうだ。それでも「良い球が投げられるようになるにつれて、抑えられたりするので、楽しくなってきました」と徐々に投手の魅力を感じられるようになっていた。

 中学では越前町立宮崎中の軟式野球部に所属。公式戦で打ち込まれることは少なかったが、同地区に敦賀気比の投手として甲子園に出場した黒田悠斗を擁する鯖江市立中央中に敗れ続け、地区大会を勝ち上がることができなかった。

 高校は家から車で15分と近く、兄も通っていた丹生に進学を決めた。中学時代に同地区で戦ったライバルたちが進むと聞いていたことも決めての一つになったという。

 余談だが、入試の面接で面接官を務めていた春木竜一監督の前で、「3年生の頃には全国の選手と張り合えるようになって、卒業したらプロに行きたい」と宣言していたそうだ。だが、当の本人は覚えていなかったようで、取材の前日にその時のエピソードを教えてもらったという。それにしても3年後に有言実行したと言っても差し支えないほどの活躍を見せたのだから立派なものだ。

[page_break:休みながらじっくりやれたからこそ成長できた]

休みながらじっくりやれたからこそ成長できた

無名の高校だからこそじっくり成長できた 玉村昇悟(丹生)【前編】 | 高校野球ドットコム
玉村昇悟(丹生)

 丹生では1年春からベンチ入りしたが、入学してすぐの頃は「全然、通用しなかったですね」と振り返る。現在の身長と体重が177㎝75㎏なのに対して、当時は175㎝64㎏。球速も120㎞/h台後半と体つきも投げているボールも今とは程遠いもので、今のような活躍は想像できていなかったという。

 丹生は甲子園に出場したことのない全国的には無名の高校だ。だが、強豪校ではなかったからこそ順調に伸びることができたと玉村は感じている。

「私立に行くと、争いが激しくなって怪我とかしていたと思うので、高校でじっくりできたのが良かったです。ちょっと痛いところがあったら痛いと言って休ませてもらっていました」

 玉村の代は選手10人と決して多いわけではない。人数が多いチームに比べて、競争は激しくなかったが、それがかえって玉村にはプラスに作用していた。メンバー入りするために無理をすることなく、マイペースで実力を伸ばすことができていたのだ。部員の多いチームに行っていたら、自分の体の状態を顧みずに練習をしていたかもしれないと話す。

「今だったら我慢できると思うんですけど、入ったときはあまり自立してなかったので、他人に合わせて練習してしまっていたと思います」

 このようなノビノビとした環境で1年秋からエースとなり、すくすくと成長した。そして、3年の春に「キャッチボールをしていて、距離が離れてもボールが落ちないようになりました」と自らの投球に手応えを感じられるようになる。その理由の一つに体幹の強化が挙げられる。逆立ちやバランスボールを使ったトレーニングを積むことで体幹を強化。それにより、ノビのあるボールを投げられるようになっていた。

 春木監督もYouTubeなどを駆使して玉村に合ったトレーニング提案し、二人で吟味してきた。また、上半身の力に頼らず、下半身の出力を出せるようなフォームの改善にも着手。もちろん、フォームをいじることでバランスを崩すことへの怖さはあった。だが、春木監督はその最中で玉村の凄さを実感する。

「彼の一番凄いところはどれだけいじってもコントロールが乱れない。指先の感覚は天性です。プロに行ってコントロールで苦労することはないと思います」

 投手にとって指先の感覚は大事な要素の一つである。玉村はリリースの意識について、「ボールの離れる位置が前の方が良いので、気にしているのはそこだけですね」と語る。フォームを変えても自分の大事にしているところを見失わなかったことで、投球を崩すことはなかったそうだ。

 前編はここまで。後編では最後の夏についてやプロに入った時の目標を語ってもらいました。後編もお楽しみに。

(取材=馬場 遼)

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

関連記事

応援メッセージを投稿

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

RANKING

人気記事

2024.06.01

大阪桐蔭、山梨学院、慶應義塾…強豪校・名門校の昨年度卒業生はどの進路を歩んだのか?【卒業生進路一覧】

2024.06.01

【愛知】報徳学園は豊橋中央にサヨナラ勝ち、豊川には黒星<招待試合>

2024.06.01

【東京六大学】早稲田大が大勝で7季ぶり優勝に大手!プロ注目スラッガー・吉納が2発、エース伊藤は8回1失点の快投見せる!

2024.06.02

福岡に逸材現る! ケガから復帰後即144キロ! 沖学園2年生エース・川畑秀輔に注目だ!

2024.06.01

センバツ出場の豊川がセンバツ準Vの報徳学園を破る!課題だった投手陣に手応え【愛知招待試合】

2024.05.31

【24年夏全国地方大会シード校一覧】現在34地区が決定、佐賀では佐賀北、唐津商、有田工、龍谷がシードに

2024.05.28

【鹿児島】鹿児島玉龍と樟南が8強へ<NHK旗>

2024.05.29

【宮崎】延岡学園と日章学園がともにタイブレークを制して4強入り<県選手権大会>

2024.05.28

【鹿児島NHK選抜大会】錦江湾が1点差勝利!出水工の追い上げ、あと1点及ばず

2024.05.28

【佐賀】佐賀商と龍谷が、ともにコールド勝ちで決勝へ<NHK杯>

2024.05.21

【大学野球部24年度新入生一覧】甲子園のスター、ドラフト候補、プロを選ばなかった高校日本代表はどの大学に入った?

2024.05.15

【全国各地区春季大会組み合わせ一覧】新戦力が台頭するチームはどこだ!? 新基準バットの及ぼす影響は?

2024.05.13

【24年夏全国地方大会シード校一覧】現在29地区が決定、愛媛の第1シードは松山商

2024.05.31

【24年夏全国地方大会シード校一覧】現在34地区が決定、佐賀では佐賀北、唐津商、有田工、龍谷がシードに

2024.05.21

【24年夏全国地方大会シード校一覧】現在33地区が決定、岩手では花巻東、秋田では横手清陵などがシードを獲得〈5月20日〉