試合期とトレーニングプログラムの変化
こんにちは、アスレティックトレーナーの西村典子です。
いよいよ6月も後半に入り、夏の大会まで残りあとわずかとなりました。3年生にとってはラストサマーとなります。自分の実力を十二分に発揮するためにも、心身のコンディションは整えておきたいものですね。さて今回は大会を目前に控えて、チームや個人で取り組んでいるトレーニングプログラムについて何をどう変化させればいいのかについて考えてみたいと思います。
夏の大会まで残りあとわずか!トレーニングプログラムについて考えよう
筋収縮のパターンは3つある。エキセントリック収縮は筋肉痛を引き起こしやすい。
●そもそもトレーニングは何のために行うのか?
トレーニングは野球の技術を高める(パフォーマンスアップ)ための一つの方法であり、同時にケガの予防のために行うものです。トレーニングをすることによって、たとえば野球のプレーに支障が出たり、トレーニングが原因となってケガをするようなことがあれば本末転倒です。正しいトレーニングプログラムは筋力をはじめとする体力面の強化・維持に役立ちます。
オフシーズンのトレーニング頻度から比べるとシーズン中や、試合直前はどうしても少なくなってしまいますが、適切な頻度・強度・エクササイズの選択などによって、シーズン中であってもパフォーマンスの向上に役立てることができます。反対に、今まで積み重ねてきたトレーニングをやめてしまうと、時間とともに筋力はゆるやかに低下していくことが知られています。
●筋肉痛によるパフォーマンスダウンを避けたい
シーズン中にトレーニングを行わない理由としてよく挙げられるのが、筋肉痛による影響です。確かにトレーニングを行うと少なからず筋肉痛が発生しますが、これは筋収縮のパターンや負荷設定、行うタイミングなどによってその影響を少なくすることが可能です。
【筋収縮のパターン】
筋収縮パターンは主に3つあります。筋肉を縮めながら力を発揮するコンセントリック収縮、筋肉の長さが変わらないアイソメトリック収縮、筋肉を伸ばしながら力を発揮するエキセントリック収縮です。このうち筋肉を伸ばしながら力を発揮するエキセントリック収縮は、筋線維へのダメージが大きく、筋肉痛が起こりやすいと言われています(懸垂で腕を伸ばしながら体をコントロールする、綱引きの綱を持って耐えながら腕が伸びるときなど)。こうしたブレーキをかけながら力を発揮する動作の多いエクササイズをなるべく控えめにしておくと筋肉痛の影響は少なくなります。
【負荷設定】
トレーニングはメインの試合にあわせて力を最大限に発揮されるよう、スケジュールをたてて準備することが望ましいと言われています。試合が近づけば「挙上回数、セット数は少なく、より重いものを、より速く挙げる」ように変更していきます。こうすることで持っている筋力にスピードの要素が加わり、大きなパワーを生み出すようになります。挙上回数、セット数が少ないので短い時間でトレーニングを行うことができます。
【行うタイミング】
トレーニングの頻度はおよそ週2〜3回の継続で筋力強化、週1回で筋力維持がその目安とされています。試合期間は筋力レベルを落とさないことを優先させ、週末にトレーニングを行って翌日を休養日にあてる(日曜日トレーニング、月曜日休み)、もしくは試合の翌日にアクティブレストを兼ねてトレーニングを行い、その次を休養日にあてる(月曜日トレーニング、火曜日休み)といったスケジュールが取り組みやすいと言えるでしょう。
試合期とトレーニングプログラムの変化
試合でよりよいパフォーマンスを引き出すためにトレーニングを活用しよう。
●公式戦のときはどうするのか
トーナメント戦は負けたら終わりの一発勝負。心身のコンディションを一番良い状態に持っていくことがまず優先されます。トレーニングについては疲労回復を助ける一つの選択肢として、軽負荷もしくは自重などで体を動かし、アクティブレストとして活用することが望ましいと言えるでしょう。体全体を鍛えるというよりは、負荷を使ったアクティブストレッチとしての役割を担うことになります。
試合直後であればクールダウンとしてのジョギングやストレッチなどで血流をよくし、疲労回復を促すようにします。試合の翌日であればウォームアップの中に敏捷性、バランス能力などの体力要素を養うようなエクササイズを組み込んでおくと、野球に必要な動きづくりに役立ちます。
トレーニングといってもすべてが重いものを持ち上げるというものではなく、軽いものであったり、自分の体重をコントロールすることであったりとその方法はさまざまです。試合の時期であっても負荷設定やタイミング、エクササイズの選択などで筋力をはじめとする体力レベルを維持し、体のコンディションを整えることが大切です。いよいよ間近に迫った夏の大会に向けて、トレーニングをより良いコンディションづくりに役立ててくださいね。
【試合期とトレーニングプログラムの変化】
●トレーニングの目的を再確認。パフォーマンス向上とケガ予防。
●トレーニングをやめてしまうと筋力はゆるやかに低下する。
●筋肉痛をさけるためには「筋収縮のパターン」「負荷設定」「行うタイミング」を考慮する。
●トレーニング頻度の目安としては週2〜3回=筋力向上、週1回=筋力維持
●試合期間はトレーニングをアクティブレストやウォームアップに活用する。
●より良いコンディションで試合に臨めるようにトレーニングを行う。
(文=西村 典子)
次回コラム公開は6月30日を予定しております。