20年前の横浜vsPL学園戦、今では禁止のプレーもあった!
昨日の昼、NHKで『あの日 あのとき あの番組』と題して、1998年にNHKスペシャルとして制作された【延長17回 ~横浜vsPL学園・闘いの果てに~】が再放送されていました。ご覧になられた方もいたのではないでしょうか。当時を知る方にとっては懐かしいですよね。1980年生まれの私も[stadium]甲子園球場[/stadium]でこの試合を見ていた1人です。
現在の高校球児を含め、当時、生まれていなかったという方も、伝説の試合の一つとして聞いたことがあると思います。
あの年は漫画『ドカベン』のように、全国の高校球児が打倒横浜、打倒松坂大輔を目指してレベルアップしました。PL学園も、選抜準決勝で惜敗した悔しさを持ち、打倒松坂で夏に臨んだと番組でも触れられています。
そんな中での横浜の春夏連覇達成。そして秋の新チーム結成後、明治神宮大会、春夏の甲子園、国体まで一度も公式戦で負けなかったというのは、現在の高校野球においても唯一のチームとして語り継がれていますね。
簡単ではありますが、ランニングスコアで試合を振り返ってみてください。
この試合から2年後の2000年春から延長規定が15回までとなり、17回まで試合が進むことはなくなりました。そして今年、決勝を除いて延長13回からタイブレーク方式となり、再試合は撤廃。可能性としては延長17回まで進むこともあり得ることになっています。
さて、ここからが今日の本題です。
番組では、「高校野球最高の技術と戦術を駆使した闘い」として、様々な場面で両チームの駆け引きや心境が描かれていました。
特に当時を知らない方には、勉強になることや感心することがあったのではないでしょうか。
しかし忘れてはいけないのは、これは20年前の1998年の番組であるということです。今の野球、特に高校野球では禁止されていることもあります。そのことについて、整理したいと思います。
CASE1
2回裏にPL学園が先制した時のことについて番組ではこんな描写があります。
PL学園の三塁ランナーコーチだった平石洋介主将が、横浜のキャッチャー・小山良男主将の構えで松坂大輔投手の球種を見破り、投球の時に掛け声で打者に知らせます。それは「行け、行け、行け」なら直球、「ねらえ、ねらえ、ねらえ」なら変化球(カーブ)というもの。番組では横浜ベンチがこの声の違いに気がついていたことも触れられています。
これを読んで気付く方は多いはずです。ランナーコーチのこの行為は、二塁走者のサイン伝達と同様に現在の高校野球では禁止となっています。
日本高等学校野球連盟の審判規則委員会が各加盟校などに通達している≪周知徹底事項≫にも2マナーについての②ではっきり書かれています。
番組では捕手のサインではなく、癖を見破ってのものとされていました。でも同じことです。ベースコーチからの疑わしい行為は絶対にしてはいけません。
ただ、もし癖を見破っていたのならば、投手の癖や投球の傾向などと同様にベンチに戻ってからチームで“ベンチ内だけで”共有するのは指し障りありません。あくまでもグラウンド内(コーチスボックスや塁上、ベンチ内)から打者に伝達する(疑わしい行為を含む)のが、してはいけない行為です。
CASE2
5回表横浜の攻撃。1アウト三塁から横浜の打者が打った打球はサードゴロ。それを見た横浜の三塁走者・松本勉選手が本塁に突入しますが、サードの古畑和彦選手からキャッチャーの石橋勇一郎選手に送られ、タッチアウトとなった場面。番組では選抜でも同じようなシーンがあったと描写されています。選抜の場面、「三塁ランナーはスタートと同時にサードの古畑を見ました。位置を確認してラインの内側へ切れ込み、送球のコースに入ります。そして“キャッチャーのミットを目がけて”スライディング」とナレーションされています。これに付随して夏の場面で三塁走者だった松本選手は、「サードゴロを打ったら、ランナーがサードの送球の邪魔できるように、ちょっと中に入ってという練習をしていました」と話していました。
これは目視で判定する審判員の判断ですが、高校野球に限らず全てのカテゴリーの野球で守備妨害を取られかねないケースです。少しルールに詳しい方ならわかると思いますが、公認野球規則5.09b(3)にこう書かれています。
番組では夏の場面をこうナレーションして締めくくっています。
「この日もランナーの松本は、サード古畑が捕った位置を確認して、練習通り内側へ切れ込みました。しかしタッチアウト。古畑はキャッチャー石橋が構えたミットとは違う所に球を投げていました。キャッチャー石橋もミット目がけて走ってくるランナーを引きつけたあと、サード古畑からのボールをキャッチ。古畑と石橋は選抜以来この練習を繰り返してきたのです。春の屈辱を晴らし、PLピンチを切り抜けました」。
走者が送球の邪魔するような走塁をしてくることを逆手に取って練習してきた高度なプレーという印象を番組から受けます。
ですが、今プレーをする選手は攻守お互いに、走者が送球の邪魔をするような走塁という概念を捨てなければ、フェアプレーの精神とは言えないと思います。勝負は騙し合いという言葉もあり、フェアプレーの精神だけでは勝敗はひっくり返らないことも野球です。
それでもフェアプレーの精神を持たないと、お互い勝負を終えた時にどんな気持ちになるでしょうか。
20年前の当時がどうとかを言うのではなく、今、20年前のこの番組からあらためてフェアプレーというものを考えさせられる気がしますね。
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(文:松倉雄太)