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府立大冠高等学校(大阪)「激戦区・大阪で存在感を増す新鋭公立校の秘密」【後編】

2017.11.08

 近年、今夏の大阪大会で強豪私学を次々と撃破し、公立校としては19年ぶりのファイナル進出を果たした大冠(おおかんむり)。甲子園切符をかけた一戦では大阪桐蔭と壮絶な打撃戦を演じた末の惜敗。センバツ王者をあと一歩のところまで追いつめた戦いざまは多くの高校野球ファンに強烈なインパクトを残した。

 前編は秋から冬にかけての取り組みについて語っていただいた。後編では冬が明けた春から夏について、東山監督の指導方法そして現3年生に東山監督の指導について振り返ってもらった。

誰もが実感したオフシーズンの成果

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打撃練習の様子(大冠)

 3月に入ると、12月にグラウンドから姿を消した「通常のバット」が倉庫から出てくる。「倉庫の扉を開け、900グラムクラスのバットが出てきたときは『うっひょー!』という感じになる」と笑顔で振り返る現3年生。毎年12月と3月にスイングスピードを計測する風習があるが、全選手が数値を向上させることに成功。4番を務める辻 晃志選手のスイングスピードは150キロに達していた。

 「3月を迎えた時の彼らの打球の強さの変化には驚かされました。ホームランを打ったことのない1番の飯隈(亮太)は右中間に放り込めるようになっていましたし、対外試合解禁後の初戦でいきなり5本のホームランが飛び出した。それを見た下級生たちも『これだけ振ったらホームランが打てるようになるんだ!』と思えたはず。スイング練習に対する部員のモチベーションは大いに上がったと思います」(東山監督)

選手たちもオフシーズンの振り込みの成果を実感していた。

「通常のバットに戻った時の打球の伸びがオフシーズン前と全然変わっていました。自分でもスイングスピードが速くなったなと思います」(飯隈亮太選手)
「2年の冬だけでスイングスピードが10キロ上がりました。スイングの振り出しを今までよりも遅らせることができるので、ボールを長く見れるようになり、ボール球になる変化球を投げられても見送れるようになりました」(冨山翔也選手)
「スイングスピードが上がったことでポイントを捕手寄りに下げることができるようになりましたし、少々詰まってもヒットゾーンに運ぶことができるようになった。逆方向への打球も伸びるようになりました」(猪原隆雅主将)

 週末に試合が組まれることが基本スケジュールとなる3月以降のインシーズンも「1日1000スイング」をノルマ値に設定し、日々バットを振り続けた大冠ナイン。遠征先でも「朝6時に起床後、朝ごはんまでに300スイング、夜500スイング、試合の合間に200スイング」をルーティンに定め、夏本番まで妥協することなく、ノルマ値をクリアし続けた。

[page_break:年間を通し不変の「マンツーマン指導」は大冠の生命線]

年間を通し不変の「マンツーマン指導」は大冠の生命線

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練習風景(大冠)

 大冠の練習メニューを取り上げる上でけっしてはずすことができないのが「東山監督のマンツーマン指導」だ。
特徴的なのはピックアップメンバーは学年、レギュラー、非レギュラーなどの要素は一切関係ない、ということ。断片的にみれば、その日に選ばれた選手たちが特別扱いされているように映るが、メンバーは毎日変わるため、年間を通してみれば、全員が公平に指揮官のマンツーマン指導を受けていることになる。

 約3年前、大冠野球部を取材した際、東山監督はマンツーマン指導を重視している理由を「1対1で指導を行うほうがその選手に合った指導ポイントや適切な言葉を授けることができるため、上達スピードを上げて行くことが可能になる。洋服に例えるならば、既製服ではなく、オーダーメイドのようなきめ細かい指導。うちのチームの生命線ともいえる部分です」と語った。そして、その考え方は現在もまったく変わっていなかった。「年間を通し、マンツーマン指導をやってない日はない。だいたい前の日には、次の日のピックアップメンバーを決めてることが多いです」

 ピックアップメンバーは手帳に記録しており、年間で指導機会がほぼ均等になるように意識しているという。夏の大会前に1年生を中心に指導する光景も大冠では日常だ。「3年生にとっては大事な時期なんですけど、この時期の下級生の指導をおろそかにすると新チームが出遅れてしまう。少なくとも捕る、投げる、振るといった基本部分はしっかりとできるようになり、経験だけが足りないという状態で新チーム結成時期を迎えさせたい」

 「選手とコミュニケーションをとる」という要素もマンツーマン指導をおこなっている大きな理由だ。「1対1なら、みんなの前で聞けないこともお互い言いやすい。時間も手間暇もかかりますし、正直、しんどい時もありますが(笑)。うちの生命線なので今後も変わらず、全員へのマンツーマン指導は続けていこうと思っています」

[page_break:「公立校でも強豪私学と渡り合える打線を作ることは十分可能だと思っています」]

「公立校でも強豪私学と渡り合える打線を作ることは十分可能だと思っています」

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大冠の現3年生

 約2年4ヶ月、東山監督にマンツーマン指導を受けてきた現3年生に感想を尋ねてみた。

 「みんなの前だとそんなに個人をほめたりしないのですが、二人きりだと『おまえだいぶバット強く振れるようになったな』といったことをおっしゃってくれるので、自信になりましたし、もっと頑張ろうという気持ちが湧き上がりましたね」(金 栄健選手)
「スランプの時にスイング指導が増えるのですが、的確なアドバイスをくれるので、打てるようになることが多かった。効き目は抜群でした」(寺地 広翔選手)
「通常1年生はなかなかアピールする機会はないんですけど、東山監督は入学間もない1年生でもマンツーマンで指導してくださるので、当時は『いいスイングをして、好印象を与えたい!』といった意識を持ちながら受けていました。監督にアピールできる機会という側面もマンツーマン指導にはあったと思います」(猪原 隆雅主将)

 最後に地区上位常連を目指す公立校野球部に向けてのメッセージ、および新チームの抱負を東山監督に語っていただいた。

 「公立校はバットが強く振れないチームが多いなと感じます。グラウンド条件などの環境面で打撃練習に制約があるチームが多いこともあってか『バッティングには限界がある。その分を守備、機動力で補う』という方向に向かうチームも多いように感じます。もちろん守備、機動力は大事ですが、打撃力の向上をあきらめる必要はない。スイングとティー打撃を工夫すれば、狭いスペースでも強豪私学と渡り合える打線を作り上げることは十分可能だと思っています。

 今夏は決勝で大阪桐蔭さんと打撃戦を演じることはできたものの、あと2点及ばなかった。足りなかった2点は今後の課題。大阪制覇を実現できるよう、現チームも頑張っていきたいと思います」

東山監督、そして大冠の皆様、ありがとうございました!

(取材・文=服部 健太郎

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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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