Interview

負けるたびに強くなる“清宮幸太郎”という大きな存在

2016.11.15

清宮幸太郎選手

 明治神宮大会決勝で先制弾を放った清宮幸太郎。これでチームは勢いに乗るかと思われたが、結果として履正社に6対11で敗れた。それでも、試合後の清宮は、ここまで戦えたことをプラスに捉えている様子だった。今年のチームがなぜ明治神宮大会決勝まで勝ち進めたのか?また、東京都大会後からの自身の打撃の復調について本人はどう感じているのだろうか?

 今夏の八王子の敗戦がすべてきっかけとなっている

 「すべては八王子戦の負けがきっかけになったと思います」
 神宮大会決勝後の囲み取材で、ここまでの勝ち上がりの要因をそう振り返った清宮幸太郎
今夏西東京大会準々決勝で八王子に敗れ、二季連続の決勝進出を逃した早稲田実業にとっては悔しい、悔しい負けだった。この負けを忘れず、選抜へ向けて、新チームのスタートを切った。

 清宮は主将に就任後、スローガン「GO!GO!GO!」を掲げた。このスローガンの下、早稲田実業の選手は大きくパワーアップを遂げた。投手陣のスピードは上がり、野手陣の力量は全体的に底上げされ、関東一、国士館、日大三といった強豪校を打ち破り、東京都大会で優勝を決めた。決勝戦では、清宮は5三振に終わりながらも、打線が奮起し、日大三櫻井周斗を攻略。チームの成長が優勝をもたらしたといっていい。そのチームについては清宮はこう語っている。
「初戦から比べても、チームはとても変わったと思います。出ている人、出ていない人関係なく、みんなが声を出して、どんな展開になっても諦めず、誰かが失敗しても誰かが助けてくれる、そういうチームになりました」
しかし、キャプテンである自身は決勝で5三振に終わったことについて、「チームは勝利したけれども、自分は負けていた」と口にした。
 それでも、神宮大会前までに技術修正に努めた。とくにチェックしたのは右肩の開きだ。開きの早さを修整するために、和泉実監督の指導を受けた清宮は神宮大会前最後の練習試合では高校通算75本塁打を放ち、復調した姿を示した。

[page_break:公式戦16本目は、左腕投手から初めての本塁打]

 公式戦16本目は、左腕投手から初めての本塁打

野村大樹選手(早稲田実業)

 そして臨んだ明治神宮大会。2回戦の相手は静岡。最速144キロ左腕・池谷蒼大に、苦戦することが予想されたが、第1打席にいきなり右前安打、さらに第4打席にもフェンス直撃となるシングル安打を放つなど3打数2安打1死球の活躍だった。
 清宮は試合後、「あれは詰まった当たりでした。それよりも死球になったことが収穫になったと思います」とコメントしたが、死球が収穫というのはどういうことだろうか。
「インコースに対して僕は体が開いていたのですが、インコースに来ても体が開かずに待てた証拠なので、少しずつ復調を示しているのではないかと思います」と語った。その言葉が真実であることは、次戦以降で気づかされることになる。

 準決勝の福岡大大濠戦。清宮はほぼ勝負を避けられる形となったが、2打席目で、セカンドへのライナーと思われた打球にラインドライブがかかり、一気に外野へ転がり二塁打となった。清宮は「バットの根っこに当たった打球」と振り返ったが、2試合連続安打をマーク。

 そして決勝の履正社戦。先発投手は1年生左腕の松井百代。今大会二度目の左腕との対戦となる。1ストライク1ボールからの3球目だった。134キロの外角ストレートを振りぬいた打球はあっという間にライトスタンドへ飛び込む本塁打となった。この打席を振り返って清宮は、「あれは狙っていたボールです。神宮球場初ホームランだったので、気持ちよかったです」と話した。公式戦16アーチ目は、左投手から打った初の本塁打にもなった。

そして3回裏の第2打席も、無死一、三塁の場面で初球のストレートを捉えて右前適時打。これも痛烈な打球であっという間に抜けていったが、「あれは打ち損じてしまいました」と一言。この清宮の適時打を機に5点を入れて逆転に成功した早稲田実業
しかし履正社打線は4回表に反撃を開始。この回一挙7点を入れて逆転に成功。その後、清宮は安打が出ず、神宮大会最後の打席となった第5打席は竹田祐が投じた144キロのストレートにどんづまりしてしまい捕邪飛となった。結果は3打数1安打2四死球。試合は6対11で敗れ、優勝はならなかった。

[page_break:神宮大会の経験はすべて価値のあるものだった]

神宮大会の経験はすべて価値のあるものだった

 だが清宮はこの敗戦をプラスに捉えている。
「やはりこういう結果になっていろいろと課題が出てきましたが、チームとしてまだまだパワーアップをしなければならないと実感しました。ただ、今日は投手陣が11点取られたとはいえ、先発の中川と2番手の赤嶺は都大会から粘り強く抑えていましたし、2人は入学したときと比べると速くなってきています。今日の試合でも3番手の池田、4番手の服部もテンポよく無失点に抑えました。履正社の投手と比べると球速が落ちますけれども、それでも抑えられることは自信になったと思いますし、今後が勝負です」

 また清宮が今大会で対戦した投手は、静岡の池谷、福岡大大濠三浦銀二、そして履正社の竹田とその地区を代表する好投手だった。
そして3人が、清宮に対して、全力を振り絞って投げていた。三浦と竹田は140キロ超えのストレートを投げ込んでいたが、そういう相手と対戦できたことに清宮は、それが“収穫”だと捉えている。
「みんな良い投手で、なかなか対戦できない投手ばかりです。そういう投手と対戦できたことは自分自身、良い経験になりましたし、それは自分だけではなく、そういう投手と対戦していない選手たちがうちには多いので、この明治神宮大会は本当に価値のある大会になりました」
さらに、来春へ向けては、
「今年の秋はチームが1つになることを目指してやってきて、実際に1つになったからこそ、ここまで戦うことができました。それはキャプテンとして嬉しかったですし、今のモチベーションでやることができれば、春も良い結果がついてきてくれると信じています」

 今シーズン最後の最後まで、清宮は主将・清宮幸太郎で在り続けた。チームのために尽くす姿が早稲田実業ナインにとっても大きな影響を与えたのは確かだ。試合を重ねるごとにチームが1つになり、粘り強くなっていく早稲田実業の存在は、対戦相手からすれば恐ろしいものだっただろう。
来春の選抜出場が出現すれば、早稲田実業は、間違いなく優勝候補に挙がるチームであることを今大会で多くの人々に印象付けた。そして、清宮という選手もまた、負けを経験するたびに強くなる本物のスラッガーであるということを印象付けたはずだ。

清宮選手の神宮大会の成績 3試合 7打数5安打7四死球 1本塁打2打点 打率.714 出塁率.857

(文=河嶋宗一

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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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