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【映画紹介】本格的野球映画・KANOの魅力、そして台湾野球への影響を探る

2015.01.15

当時の甲子園、選手たちのプレーまで本格的に再現したKANO


【甲子園出場を決め、喜ぶ嘉義農林の選手たち】

 1月24日に全国上映する「KANO 1931海の向こうの甲子園」。この作品は、1931年、当時台湾代表で、甲子園準優勝を果たした嘉義農林に焦点を当てたストーリーだ。

 作品を作るきっかけを魏 徳聖(ウェイ・ダーション)プロデューサーが話してくれた。もともと魏プロデューサーは、「セデック・バレ」など日本統治時代を題材にした映画を手掛けていた。魏プロデューサーははじめ、水利技術者で1930年に完成した烏山頭ダムの建設に大きく貢献した八田 与一を題材とした映画を作ろうとしたが、この題材だけでは厳しく、そこで目を付けたのが、同時期に甲子園で準優勝した嘉義農林だったという。しかし、魏プロデューサーは、野球経験がないため、構成が中途半端になってしまうのではないかと不安を覚えた。そこで、魏プロデューサーは野球に関わる部分の監修を野球経験のある馬 志翔(マー・ジーシアン)監督に任せた。

 ストーリーは、松山商で監督を務めていた近藤 兵太郎氏(永瀬正敏)が、嘉義農林の監督に就任。そこから、公式戦で勝つことが出来なかったナインに猛練習を課し、選手たちはメキメキと力を付けていく。そして1931年夏、嘉義農林は、本島大会を勝ち抜き、甲子園出場を果たす。そして甲子園では快進撃を続け、初出場ながら、甲子園準優勝という成績を収めるまでが描かれている。

 このストーリーの面白さは、本格的な野球シーンと、史実を描いたもののバランスが取れていることだ。
映画では、八田 与一(大沢たかお)が手掛けた烏山頭ダムが完成し、台湾の住民が歓喜に沸くシーンが描かれている。台湾の野球事情は知っていても、台湾の歴史についてあまり知らない野球ファンにとっては、烏山頭ダムの存在の大きさをこの映画を通じて知ることが出来るだろう。

 そして馬監督は、本格的な野球シーンを描き出すために、いろいろな工夫を凝らした。当時の甲子園の形を忠実に再現できるよう、関係者にヒアリングをしたり、甲子園の土、当時のユニフォームの生地などの細部にまでこだわった。

 また、映画に出演している嘉義農林ナインの面々は、全員が野球経験者だ。馬監督は、「甲子園で活躍した選手を演じなければならないので、説得力を持たせるために体力、技能面で高いハードルを設けた」と語るように、オーディションに合格した選手には現役の大学野球選手が多数いた。合格した選手は、大学を1年間休学して、撮影、日本語の訓練、演技の特訓も行った。そのため従来の野球映画に比べると、選手たちの身のこなしの良さ、身体のキレ、体格の良さが目につく。躍動感がある野球シーンはとても見応えがあるだろう。

 高校野球好きとしては押さえておきたい映画である。

[page_break:KANOは台湾の野球界に大きな勇気を与えている]

KANOは台湾の野球界に大きな勇気を与えている

エルゴメーター

呉 明捷役を演じた曹 佑寧

 映画公開後、出演した選手は大人気となった。特に人気があがったのは、エースの呉 明捷役を演じた曹 佑寧だ。野球の名門大学・輔仁大学に在籍する曹 佑寧はセンターとして活躍。曹 佑寧のプレー姿を見ようと、スタンドには映画を見てファンになった人が多数詰め掛け、テレビ放送されるほどのブームが巻き起こっている。

 さらに曹 佑寧は、昨年11月に行われた第1回IBAF21Uワールドカップに代表選手として出場し、初優勝に貢献した。KANOのブームによって、さらに野球の熱は過熱している。また彼らのプレイヤーとしての活躍が、KANOの興味喚起になっている。

 日本球界では全くイメージできない事態が台湾で起こっていることに、興味を持つ野球ファンも多いことだろう。現役の野球選手が、映画ではどんな演技を見せているのかも、この映画を見るポイントでもある。
 

 また台湾の野球事情として、2013年WBC、2013年18Uベースボールワールドカップを開催するなど、国際大会の誘致に積極的で、また国民の野球熱も非常に高く、結果として、21歳以下の選手が国際大会で結果を残している。世界一を目指す日本にとっては脅威になりそうだ。

 昨年行われた第10回BFA18Uアジア選手権では3位に終わった(試合レポート)が、準決勝(試合レポート)では9回裏までリードし、日本チームを苦しめた。そして地元開催となった21Uでは決勝に進出、プロ・アマが集った日本代表を下し、優勝を飾った。その時のエースの郭 俊麟は今季から埼玉西武ライオンズでプレーする。そして昨年12月には、21Uの代表選手9人が所属している中国文化大学が、明治神宮大会優勝駒澤大と親善試合をし、8対3で下すなど、今はアマチュア野球でいえば、野球の熱気、レベルの高さとともに台湾が日本を押している状況なのだ。

 この映画に携わった馬監督は、「この3時間の映画を通して、皆様に未来へ進んでいけるパワーを与えることができる」とコメントを残している。昨年の躍進ぶりを見れば、大ヒットを巻き起こしたKANOが台湾球界の選手たちに、大きな勇気を与えていることは間違いない。 

【映画情報】
KANO(カノ)1931 海の向こうの甲子園
主演:永瀬正敏、坂井真紀、曹 佑寧(ツァオ・ヨウニン)、大沢たかお
配給会社:ショウゲート
映画公式サイトはこちらより

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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