北海vs札幌日大
シビれる1点を巡る攻防
9回の大ピンチを踏ん張った渡辺幹理(北海)
9回表に相手守備のミスで1点を勝ち越した北海。だがその裏、エースの渡辺幹理(2年)が一死から連続四球を与える。一打逆転サヨナラ負けのピンチを背負い、平川敦監督はタイムを取って伝令を送った。
マウンドに走った背番号15の菊川悠人(2年)に、「落ちついて守っていこう、まだ1点リードしている」とアドバイスをおくった指揮官。そしてこの後、菊川はセンター方向にも走り、外野手を集めた。過去にも行ったことがある平川監督の外野へ指示をする伝令スタイル。「1点は仕方がないので、一塁走者を返さないように」と言葉をおくった平川監督。
規定の30秒を超えていたため、審判団に止められるのではという懸念があったが、この試合での審判団はそれをしなかった。甲子園の大会ならば審判控え室でもタイムを計られているので、もしかしたらと止められていたかもしれない。
タイムが明け、札幌日大の3番西野維吹(2年)に対したマウンドの渡辺幹。1ボールからの2球目をファーストへ強烈なゴロを打ち返されたが、逆シングルで捕った鷹架翔吾(2年)のファインプレーに救われた。
二死二、三塁となって4番山崎僚馬(2年)。5回に同点打を浴びている打者だが、「後は腕振って低めに投げるだけ。キャッチャーを信じていた」と渡辺幹は、渡邉翔太(2年)のミットを目がけて力を振り絞る。2ストライクからファウルで2球粘られた後の7球目、山崎はライトへ低いライナーを打ち返した。ヒット性の当たりにも見えたが、逆転されないための守備位置を考えて守っていたライト・柿沼和樹(2年)のグラブに打球が入った。
「普段やっている守備ができた。良いプレーだったと思います」と平川監督も目尻を下げる、好プレーで、1点差の痺れる試合をものにした北海。選手は喜び以上に、ホッとした表情で校歌を歌った。
札幌日大は涙に暮れる選手が多い中、
主将の東海林泰成は毅然と前を見る
この試合でもう一つ注目された攻防が、今大会2試合で8打数6安打と大当たりの札幌日大の1番・片岡奨人(2年)を北海バッテリーがどう抑えるかだった。
結果は5打席で4三振1四球とほぼ完璧に抑えた北海バッテリーの勝ち。キャッチャーの渡邉翔が試合後に片岡対策を明かしてくれた。
「前日(10日の休養日)に偵察班の人と一緒にビデオを見て研究しました。白樺学園戦と(支部大会)の札幌工戦です。外角の球を打つのがうまい。低めの落ちる球とインコースを使って攻めていこうと思いました」。
特に効果的だったのが落ちる球、渡辺幹のスプリットである。普段はあまりやらないという初球からのスプリットもドンドン使った。片岡を機能させなければ、「そんなに失点はしない」という思いも語った渡邉翔。
相手指揮官である札幌日大の森本卓朗監督も、「ここ一番という所で相手投手のコントロールが良かった」と渡辺幹のピッチングを讃えた。結果として、片岡の試合でのリズムを完全に狂わせることに成功した北海バッテリーの勝ちと言えるだろう。
札幌日大にとって悔やまれるのが、9回にミスで失点してしまったこと。無死一塁から盗塁を仕掛けた北海・長澤健汰郎(2年)を刺そうとしたキャッチャー・新川隼生(2年)の送球がセンターに抜け、カバーに入った片岡も後ろへ逸らしてしまった。この間に長澤がホームを踏む。「やるべきことができていなかった。バックアップができいなかった」と悔やんだ森本監督。これが無念の決勝点となってしまった。
このプレー、森本監督は空振りでよろけてホームベースに覆いかぶさった打者・柿沼の守備妨害を指摘するが、判定は覆らなかった。守備妨害スレスレの状況に見えたが、キャッチャーの新川が二塁に普通に送球できたとの判断だったのだろう。
見ていた感想を一つ挙げると、キャッチャーが機転を利かせて打者に少しぶつかれば、守備妨害をとってもらえたかもしれない。もちろんフェアープレーの精神が一番大事ではあるが、時として、機転を利かせた上手いプレーが勝負を分けることがある。
この準決勝にはここまでに敗れた北海道内の多くのチームが観戦に訪れていた。こういった勝負を分ける場面でどんなことができるか、色んな観点で意見を交わし合ってみてはいかがだろうか。
敗れた札幌日大は、ここで負けるのが惜しいチームであった。試合終了直後は涙に暮れる選手が多い中で、主将の東海林泰成(2年)は毅然とした表情で勝った北海の校歌を聞いていた。
「この秋に懸けて新チーム発足からやってきたので、率直に言って悔しいです。北海高校さんみたいな強いチームはミスを逃してくれない。(今大会は)打撃はみんなで繋ぐことができた。守備の面でボロが出てしまったので、夏までにかける期間は守備を重点に練習したい」と試合を振り返った。
試合中ベンチ前の円陣では、主将の東海林が「何か気付いたことはないか」とみんなに意見を求めている。守っていた選手が守備面でのグラウンド状況を話したり、ランナーコーチが走路の硬さなどを話すなど、試合の中で気付いたことを円陣で話し合っていた。
こういった会話はベンチの中で監督を交えて行われることが多いが、選手主導でもやっているスタイルが垣間見えた場面である。この日の負けをバネに、夏にどんなチームを作るかが楽しみだ。