鳴門vs洲本
なぜ、鳴門打線は苦戦したのか
思わぬ試合展開だった。
昨秋の四国大会を制し、チーム打率382を誇った鳴門の打棒が爆発するのだと思っていた。洲本のエース・島垣の昨秋防御率が3点後半だっただけに、そう思うのも無理はない。
しかし、フタを開けてみると、鳴門打線は4安打2得点。1番・河野が10回裏に左中間を破る適時二塁打を放ち辛くも勝利を挙げたが、試合展開としては完全に洲本のものだった。
なぜ、そうなってしまったのか。
「もともと、こういうチームだったんです」
そう苦笑したのは鳴門・森脇監督だ。
指揮官に言わせてみれば、大会屈指の打率は「たまたま」なのだという。昨秋、ノーシードから勢いに乗り、県・四国と制してきたが、本来は打のチームを標榜していたわけではない。「守備でリズムを作って、攻撃していく」のが鳴門の持ち味だった。
とはいえ、昨秋の成績がチームに「打」への自信をもたらしたのも事実で、指揮官自身もそのことは重々理解していた。相手のエース・島垣に対して、低めの変化球を捨てて的を絞っていくという対策を立てていたほどだった。
そこに穴があった。
6回裏に貴重な同点適時打を放った杉本は言う。
「相手をなめていたわけでもないし、油断していたわけでもないんです。昨秋、打って勝ってきたイメージがあったので、自分たちは打つチームだというのを強く思ってしまっていました。初戦の緊張というのもありましたし、打たないといけないという意識が強くなってしまった」
決して、鳴門打線が島垣を見くびっていたようには思わなかったが、鳴門打線が指揮官の指示通りに変化球を見極められなかった背景には、昨秋に得た自信がマイナス面に働いていたのは紛れもない事実だろう。昨秋に得た自信が指揮官がたてた「低めを捨てる」という対策に、順応できなかったのだ。
さらに、島垣の変貌ぶりも鳴門打線を苦しめた。
鳴門打線が試合前にイメージした島垣は「打たせて取るタイプ」だったが、試合が始まると一変した。
島垣の持つ球速が135キロ程度だから、それほどの本格派タイプに見えないが、力で勝負するスタイルはまさに本格派だ。ストレートで押しながら、変化球を使う。球の出し入れなど配球で打者を打ち取っていくというよりも、ボールの質で勝負する。「適当に荒れているところもあって、的を絞りにくくかった」という森脇監督の言葉は、まさに、島垣の変貌を示す言葉だ。
かくして、強力打線の鳴門は苦戦を強いられたのだった。
「こういう試合展開になっても競り勝てるというのは、今後には大きい。今日は無失策でしたし、自信になる」と森脇監督はいった。指揮官からしてみれば、もともとはこの日のスタイルが持ち味だったというのだから、特に気にするはずはないが、昨秋の姿とこの日の姿をどう重ね合わせていくか、今後の戦いでは鍵になるだろう。
「打」鳴門とみれば、今日の試合は「大苦戦」だし、鳴門が「試合巧者」という評価なら、今日は持ち味を発揮したということになる。
果たして、彼らはどちらなのチームだろう。
その評価は次戦まで、持ち越そうと思う。
(文=氏原英明)