試合レポート

明豊vs佐伯鶴城

2011.07.20

明豊vs佐伯鶴城 | 高校野球ドットコム

稲垣(明豊)

遅れて来た大本命

――本命なき夏
 というのが、専らの評判である。

「どこが勝ってもおかしくない」は「混戦」を意味する。問題はどのレベルで混戦状態を形成しているか、なのだ。秋・春にそれぞれ2度行なわれる九州大会予選、県選手権で、優勝チームがすべて異なった大分県。そして昨秋、今春と県代表が九州大会で1勝もできていないのも大分県だ。そんな状況を見て「どんぐりの背比べ」と、意地の悪い見解を示す者もいる。

文句なしの“筆頭”であるはずの第1シード・明豊は、秋以降の4大会で3度の決勝進出を果たした。それでも、なかなか自信を持って二重丸を押すことができなかったのは、打の柱となるべき稲垣翔太に対する不安が、完全に拭えないでいたからだ。

稲垣は入学と同時に頭角を現した。チームが8強に進出した2009年夏の甲子園では、1年生ながらレギュラーの座を掴み、今宮健太(ソフトバンク)らとともに8強進出を果たしている。しかし、その後の稲垣は1年秋の九州大会、2年夏の大分大会と、甲子園まで“あと1勝”に迫りながらも敗れ続けているのだ。

明豊は初戦となった2回戦で、竹田を10-0の6回コールドで退け磐石発進を遂げた。この試合で3番・稲垣翔太が4打数4安打を記録。1本塁打を含む4安打は、すべて長打によって記録したものだった。

台風接近による風雨の中で行なわれた佐伯鶴城との3回戦も、7-0とコールドで快勝した明豊。この試合で今大会初先発となる高尾勇次が登板し、7回を被安打5の無失点と好投を見せると、打の中核・稲垣も6回の4打席目まで、大会通算7打数連続安打を記録するなど活躍した。


明豊vs佐伯鶴城 | 高校野球ドットコム

高尾(明豊)

さて、稲垣についてである。佐伯鶴城戦の後、
「センターから逆方向への強い打球を意識しているだけです」
 と平然と言ってのけた稲垣だが、1、2打席はともに左腕・盛田尚史の外へ鋭く流れるスライダーを捉えての左前打、三強襲安打だ。敬遠四球を挟んでの4打席目も同じスライダー打ちで、やはり逆方向への左前打だった。

もともとミートセンスには定評のある稲垣。むしろバットコントロールの的確さでは、高校生でもかなり上位に位置するだけのものを持っている打者だ。そして、今年1月に智弁和歌山出身の川崎絢平部長が加わって以降は、ランニングメニューの強化によって飛距離が格段にアップした。

とくに4打席目の左前打が面白かった。圧倒的なヘッドの旋回スピードを活かして、インハイ直球を2球続けてファウルに逃げた直後、今度は上からヘッドを落としていくだけのボレーヒッティングで三遊間のど真ん中へ。チーム最多の16本塁打を放っている稲垣のことだ。二死二塁の状況で、直前にファウルした直球をセンターから右寄りに引っ張ることも可能だったはずだが、「狙い球ではないから」と自身の打撃を崩そうとしなかった小粋な姿勢が、なんとも小憎らしくもある。

“打ち出の小槌”を振りかざす稲垣に、もはや不安を挟む余地などなかったのである。

初戦では背番号10の岡本健一郎が6回参考ながらノーヒットノーランを達成し、佐伯鶴城戦では左腕エースの高尾が無失点好投。さらにここまで稲垣の陰に隠れ気味だった4番・加藤将之にも一発が飛び出した。超大型台風にも足元をすくわれることがなかった明豊が、本命としての戦力を整えつつある。

(文=加来慶祐

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

関連記事

応援メッセージを投稿

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

RANKING

人気記事

2024.05.24

【関東】25日に準決勝、2戦6発の帝京の打棒が響き渡るか<春季地区大会>

2024.05.24

【岩手】25日に準決勝、6大会連続V狙う花巻東に、創部初4強の水沢商が挑む<春季県大会>

2024.05.25

【宮崎】日章学園、宮崎北、宮崎商が県大会へ、出場校が出揃う<県選手権大会地区予選>

2024.05.24

春季近畿大会注目選手17人! 智辯和歌山の大型右腕、大阪学院大高の全国トップレベル遊撃手、天理のスラッガーコンビら逸材がこぞって出場!

2024.05.25

【長崎】長崎北、長崎日大、創成館などが勝利<NHK杯地区予選>

2024.05.21

【大学野球部24年度新入生一覧】甲子園のスター、ドラフト候補、プロを選ばなかった高校日本代表はどの大学に入った?

2024.05.20

【24年夏全国地方大会シード校一覧】現在31地区が決定、宮城では古川学園、仙台南、岩手では盛岡大附、秋田では秋田商などがシードを獲得

2024.05.20

【春季京都府大会】センバツ出場の京都国際が春連覇!あえてベンチ外だった2年生左腕が14奪三振公式戦初完投

2024.05.19

【東海】中京大中京がコールド勝ちで17年ぶり、菰野は激戦を制して23年ぶりの決勝進出<春季地区大会>

2024.05.21

【24年夏全国地方大会シード校一覧】現在33地区が決定、岩手では花巻東、秋田では横手清陵などがシードを獲得〈5月20日〉

2024.04.29

【福島】東日本国際大昌平、磐城、会津北嶺、会津学鳳が県大会切符<春季県大会支部予選>

2024.05.21

【大学野球部24年度新入生一覧】甲子園のスター、ドラフト候補、プロを選ばなかった高校日本代表はどの大学に入った?

2024.04.29

【岩手】盛岡中央、釜石、水沢が初戦を突破<春季地区予選>

2024.05.15

【全国各地区春季大会組み合わせ一覧】新戦力が台頭するチームはどこだ!? 新基準バットの及ぼす影響は?

2024.05.13

【24年夏全国地方大会シード校一覧】現在29地区が決定、愛媛の第1シードは松山商