樟南vs出水中央
折口(樟南)
チームのために
樟南を陰で支える控え部員がいる。
ともに3年生の甫木琢磨と折口雅央である。二人は学生トレーナーという役割を担い、捕手出身の甫木が投手陣、外野手出身の折口が野手陣を担当している。
新チーム結成以降、昨秋と今春でベンチ入りをしていた甫木は、今春の県大会終了後にメンバーから外れたことをきっかけにトレーナーという新たな道でチームに貢献しようと決断した。
当時を振り返った甫木は「メンバーから外れた直後は、かなり悔しかった」と胸の内を明かしてくれた。そして、もともと仲のよかったエースの戸田隆矢とも話し合い、捕手出身ということを生かすためにも気持ちのわかる投手陣のケアをすることに専念するようになった。練習前のケアトレーニングから投手陣のブルペン捕手、はたまた倉庫の整理まで、あらゆることを気負うことなくひたむきに取り組んだ。
一方、今年5月のNHK旗大会まで背番号7を着けていた折口は、肘と肩の故障から急きょメンバーを外れることが決まり、一時はかなり落ち込んだという。だが、そんな自分と向き合い「自分はケガをしてしまったので、一人でもケガをしないように」と気持ちを切り替えて、決断したことで、チームメイトを思う気持ちがさらに強くなった。メンバーの体のケアはもちろんのこと、モチベーションを上げたり、さらにはダッシュでの笛吹きやノックなど慣れないことにも積極的に挑戦し、常にチームメイトのために気配りを忘れなかった。
納冨(樟南)
そんな二人は試合前、口を揃えたかのように誇らしげにこういった。
「最後なんで選手はみんないい状態に仕上げています」
試合は樟南が2回に9番・黒田雄仁の右前適時打で先制し、その1点を背番号11の右腕・逆瀬川翼が守りきり、完封で夏の初戦を飾った。
4番で捕手の納冨竜一は、報道陣の囲み取材の中で初戦を振り返りこういった。
「逆瀬川は、狙ったところにこなかったところもありましたが、辛抱強く投げ切ったことがよかったです。点差がどうであれ、粘れたことは収穫です」
そしてその囲み取材を終え、納冨と二人になった筆者は、二人の学生トレーナーについて話を聞くと囲み取材とは打って変わって、思いをにじませるように語りだした。甫木と折口のそれぞれへ感謝の気持ちを込めるかのように。その中で常に出てきた言葉が“感謝”である。それは、グラウンドで一緒に戦っていたメンバーだった二人が、ベンチを外れても気持ちを切り替えて、同じ方向をみてくれていることを指している。
例えば、全体練習の中で二人がそれぞれの仕事をこなした後でも、積極的に筋トレやダウンにも一緒に付き合ってくれたりしているという。
そんな納冨の語りは、口先だけではない気持ちのこもった重みが、十分、いや、十二分に伝わってきた。
新チーム結成以降の樟南は、昨秋のベスト4、今春の4回戦と甲子園常連校としては、物足りない成績だったかも知れない。ただ、今の樟南にとってこれだけは言える。
二人のトレーナーを含めたスタンドにいる控え部員とベンチメンバーが一つになっていること。
そう、チームのために。
(文=編集部:PNアストロ)