県立岐阜商vs加納
服部幹和監督(加納)
服部幹和監督、加納でのラストゲーム
県立高校の野球部監督の多くは「教員」の立場である。4月の人事異動で、慣れ親しんだ学校から転勤となる先生が毎年いるが、岐阜県の公立校・加納の服部幹和監督もこの春、その一人となった。3月末日をもって10年間勤めた加納を離任する辞令が出た(東濃実へ異動)。
服部監督は加納に、強い野球を植え付けてきた。加納は県下有数の進学校。赴任当時、野球部は鳴りを潜めた状態が続いていた。「顧問の先生が毎日指導できる環境ではなく、生徒たちは野球に飢えていたのかもしれません」。
強化を続け、昨年は永井康裕という好投手が活躍、春季県大会で32年振りの3位に輝いた。
永井が抜けた新チームでも、秋季県大会でベスト8。一躍台風の目となってきただけに、集大成が期待されるこのタイミングでの異動に、ファンとしてはもう少し加納での姿を見たかったという思いだ。部員たちも、在学途中での別れは複雑だろう。
服部監督の特徴のひとつが、厳しさだ。自身は現役時代、県下一の名門・県立岐阜商で2度甲子園に出場した。選手に求めるレベルも、低いところでは留まらない。
「先生の頭の中では、ハイレベルな野球が完成されている。でも、僕たちはそのレベルからかけ離れているので、次々と課題が生じてしまうんです」とは、下級生時から4番打者を務める森陽介の談だ。
「ただ、それをクリアすることが出来れば、試合で勝てると分かっていますので。怒られることもよくありますが、なぜ駄目なのかを説明してくれるので、納得できるんです」。
服部監督は選手たちについて「悪さもせず、素直な子ばかり。必死に食らいついてくるから、指導もやりやすいんです」と、心の中で思っている。
鈴木亮介(加納)
異動が出て数日。
地区大会トーナメント3回戦で、服部監督の母校でもある県立岐阜商と顔を合わせた。
敗れた瞬間に、服部監督の加納での采配は「最後」となる。
勝ち上がれば翌日も試合ができるが、負ければ4月以降の敗者復活戦に回ることになり、その頃には指揮官は既に学校を去っているからだ。
試合は終始、強豪・県立岐阜商ペースで進んでしまった。
ボーイズリーグ出身の成長株左腕・安藤健悟は試合をつくろうと踏ん張ったが、ピンチで長打を浴びるなど苦戦。
それでも、5回裏には森陽介、小森一輝の連続タイムリーが出て、一時は1点差に迫る盛り上がりを見せた。
服部監督の様子と言えば、いつも通り。
試合中も、容赦なく檄を飛ばした。
「県大会に出れないようでは(不甲斐ないから)ねぇ」。服部監督の現役時代のポジションであるキャッチャーは特に、普段からよく怒られたようで、この日もイニング間の二塁送球が乱れた正捕手・鈴木亮介が活を入れられた。
それでも、昨秋に捕手へ転向した鈴木は「自分にはまだ足りないものが多すぎて・・・。でも、自分が伸びることができれば、チームも勝利に近づくので」と、ひたむきなプレーを続ける。5回裏のチャンスでは惜しくも三塁ゴロに倒れたが、一塁へヘッドスライディングをする魂を見せた。
離任式で服部監督は、野球部員に部訓が書かれた横断幕を持たせ、全校生徒の前で広げさせた。
在学生に伝えた部訓「誰のために みんなのために 何のために 自分のために」。この言葉の意味は、野球部メンバーが一番分かっていることだろう。
勝った県立岐阜商は、酒井田照人の先制犠飛を皮切りに計10点を挙げた。
大野晃弘の好救援も光った。
藤田明宏監督は、自チームについて「まだ発展途上のチームで、形になっていません。(守備で)捕球できたはずの打球もいくつかありました。ただ、ミスは今のうちに出たほうがいいですし、強いチームであれば、同じ失敗・反省を繰り返すのではなく、次に生かせるはずなので」と話し、先を見据えた。
ちなみに藤田監督は現役時代、服部監督の2年後輩にあたる。
「負ければ服部監督と最後の試合になってしまうということで、加納の選手たちは必死でした。いい試合だったと思います」と、先輩監督の教え子たちを称えた。
(文=尾関 雄一朗)