福井商vs福井工大福井
長谷川陽(福井商)
速球派右腕対決! 勝敗を分けた“冷静さ”
エースが、自らマウンドを降りていく。
6回表。福井工大福井のエース・菅谷翔太は、もともとよくない制球がさらに定まらない。先頭打者に四球を与えると、次の打者にはストレートの四球。無死一、二塁としたところで、「もう無理」といった表情でベンチへ下がった。
福井商との決戦に備え、前日の準決勝は背番号10の森本将太にマウンドを託した菅谷。
中2日と休養は十分。試合前の体調も万全だった。
参加29校と全国で2番目に少ない福井県。シード校は4勝で甲子園に届く。菅谷の今大会の登板は、7月23日の準々決勝・
戦(完投)と7月21日の
武生商戦で救援で5回を投げた合計14イニングだけ。この日の投球数もまだ98球だっただけに、疲労ではない。
「4回に暴投をしたあたりから投げ手がおかしかった。その後、梅干を食べ、塩をなめて、『まだ投げられます』というのでいかせたんですけどね。体力はある子なので、緊張と暑さが原因でしょう」。(大須賀康浩監督)
試合前には予想もしなかった背番号1の緊急降板。
菅谷の招いたピンチこそ背番号11の寺岡大輝の好救援で切り抜けたが、エース不在の影響は大きかった。
最速148キロの菅谷対最速147キロの長谷川陽亮。
試合前から、今年度の高校野球界を代表する速球派右腕の対決に注目が集まった。
5回までは、ともに1失点。
長谷川が自らの緩慢なバント処理で1点を失えば、菅谷は2死二塁からの連続暴投で1点を与える。失点の仕方はふがいないものだったが、その他の投球内容はほぼ互角。
長谷川が最速144キロを記録し、2安打投球。菅谷は最速146キロをマークし、3安打投球。終盤までもつれる投げ合いを期待させるものだった。
だが、エースを失った福井工大福井はリズムも失ってしまう。
「ベンチがバタバタしましたね。菅谷は打たれたわけではなく、投げていておかしくなった。選手たちにも、何でだろうという思いがあったと思います」。(大須賀監督)
7回、寺岡が四球と安打で1死一、二塁のピンチを招くと、こちらも最速145キロを誇る森本がマウンドへ。2球目、自信を持って投げ込んだ外角速球に2番の三好巧真は振り負けなかった。打球はレフト線に落ちる2点二塁打。これで勝負は決した。
長谷川陽は、帽子を飛ばしながら力投した福井工大福井の3投手とは対照的に、終始冷静な投球。自らの失策で失点した後も、淡々としていて物足りなさを感じるほど、自分のペースを崩さなかった。
「(エラーは)いつものことなんで(笑)チームのみんなからも『いつものこと』と言われました。(決勝で)緊張して、硬かったんです。でも、相手のバッターが力んでいるのがわかったので、こっちも力んではいけないなと。丁寧に投げれば抑えられると思いました」。(長谷川陽)
ライバル・菅谷の降板にも気持ちは崩れない。6回以降は4イニングをパーフェクト投球。しり上がりに調子を上げた。
「(菅谷の降板は)ツイてるなと思いました。負ける気はしませんでしたね」。(長谷川陽)
終わってみれば、2安打2四死球だけの危なげない投球。今春の北信越大会では投球時に突っ込む悪癖から、セットポジションでの投球を余儀なくされていたが、体幹、バランス、下半身強化に取り組み、軸足一本で立つ意識を徹底。ノーワインドアップからの投球でもぶれはなかった。
「菅谷とは、小学校のときも県大会決勝で対戦して負けてるんです。スコアは今日と同じ4対1でした。ある意味、リベンジできましたね」。(長谷川陽)
菅谷は降板後、けいれんを起こして病院へ運ばれ閉会式も不参加。長谷川陽は試合後も日差しの下、30分以上も立ったまま取材に応じた。熱くなりすぎたエースと冷静さを失わなかったエース。
勝負に勝ったのは、スピードで負けた方のエースだった。
(文=田尻 賢誉)
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福井商業 | 0 | 0 | 0 | 1 | 0 | 0 | 2 | 0 | 1 | 4 | ||||||
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福井工大福井 | 0 | 1 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 1 |
福井商業:長谷川陽-長谷川貴 福井工大福井:菅谷、寺岡、森本-小木