試合レポート

生野工vs城東工科

2010.07.27

2010年07月26日 舞洲スタジアム

生野工vs城東工科

2010年夏の大会 第92回大阪大会 4回戦

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戦況を見つめる城東工科ナイン

3年間で積み上げたもの

胸が熱くなった。
敗れた城東工科ナインが球場を後にしようとした時、見戸健一監督が少し語気を強めて、こう言ったからだ。
「下向くな、胸張って帰れ」。

見戸監督には様々な想いがあったろう。それを聞こうとは思わない。ただ、指揮官が言うように、下を向く必要などなかった。この3試合で見せた彼らの戦いは見事だった。
だが、このチームにはこのチームにしかない「想い」があったのも、また事実である。しっかりものの主将・山本は堪えても堪えても、込み上げてくる想いと格闘しながら、こう語ってくれた。

「3試合をとうして、エースの杉本を助けてやることができなかった。延長13回を戦った試合から中一日しかなく、それでも杉本は頑張ってくれて、そのなかで僕ら打撃陣が打てなかった。悔しいとかいうよりも、じゅんき(杉本)に申し訳ない。それと、1失点目が秋山の失策からだった。2年生に大きなものを背負わせてしまったこと、それも申し訳ない」。

 仲間を助けてやれなかった……。主将の想いはこのチームが目指してきたものの、総意である。

 大会に参加する以上、どんなチームであれ、勝利を目指すものである。彼らだって勝利を目指してきた。しかし、これほどまでに、選手それぞれがチームを慮ったチームにはそうめぐり合えない。勝ってチームがまとまって優勝を果たすというのはよく見かけるが、城東工科に関して言えば、大会に入る時点で、そうした部分ができあがっていた。

 3試合を完投。計42奪三振の快投を見せたエース杉本は「ワンバウンドをキャッチャーが良く止めてくれた。バックが助けてくれた」と繰り返し、「もっと守備にリズムが出るピッチングがしたい」と口にしていた。一方で山本を中心にした野手陣からは「杉本のために、もっと打ちたい」という言葉が響き続けていた。

 

お互いが普段から口にしあっているかどうかは分からないが、取材をしながら、彼らには目に見えないところで、気持ちのつながりを感じたものである。彼ら見えたのは「自覚」であり、単にチームワークが良いのではなく、それぞれが自己を確立したからゆえの、責任の強さのように思えた。ここに至るまでの道のりに、彼らの想いの深さがあったのではないだろうか。

城東工科は野球以外にも力を入れている。しかし、それは何かの見返りを期待するだけのものではない。見戸監督が以前にこう話していたことがある。

「あれをやったからこうではなくて、いろんなことを経験する中で何かが生まれてくれたらいい」。

毎朝の素手でのトイレ掃除や、ゴミ拾いなど、何を得たというわけではなく、彼らに与えた力があった。杉本は言う。
「トイレ掃除とか、人が嫌がることを自分からやっていく中で、自分と向き合えたかなと思います。監督からは野球部の活動を通じて強くなれということをよく言われてきました。自分自身を作っていくことができた3年間でした」。

器の大きい・小さいはひとそれぞれあるだろう。しかし、大きさにかかわらず、自分というものを確立できるかは非常に大切なことだ。それが、彼らにはあった。だから、それぞれが役割を全うしようとしたし、つながりを生んだのである。

0-2という結果で彼らは大会を去ることになった。しかし、負けたという結果だけではなく、彼らの中に生まれたものは計り知れなく、大きい。
主将の山本は最後、涙をぬぐい強い言葉で、3年間を締めくくった。
「トイレ掃除とか、毎日、みんなで最後までやりきることができた。3年生は誰も逃げ出さなかったので、このチームで戦えたこと、それがうれしいです。何をやるにしても、向上心をもって、上に向かっていく。自分でできるようになっていかなくてはいけないと、学びました。これから先の人生でつなげていきたいと思う」。

 見戸監督は現チームを「公式戦でも、いつもどうり戦えることを示した」と称賛する。それが何より、彼らの続けてきたことの成果なのではないだろうか。指揮官は、それを感じていたから下を向いて欲しくなかったのだろう。

敗戦という結果より、むしろ、その想いが強かったのではないか。そんな気がしている。

(文=氏原 英明


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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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