Column

佐久長聖高等学校(長野)【前編】

2015.12.07

 これまで春夏合わせて7度甲子園に出場し、初出場した1994年夏はベスト4に進出している佐久長聖。今年も夏は長野大会決勝で敗れ甲子園出場こそ逃すも、春は北信越大会を制し、秋は北信越4強に進出した。

 佐久長聖を2012年4月より率いているのが、藤原 弘介監督だ。
PL学園の監督時代、3度甲子園出場を果たした藤原監督は、12年夏14年夏の2度、甲子園へと導いた。

 長野の強豪の一角として存在感を示している佐久長聖の藤原監督に、この秋の戦いを振り返っていただくとともに、オフのテーマや取り組みなどをお聞きしました。

新チームは前年秋から始動し、1年計画でチームを作る

マウンドに集まる佐久長聖ナイン
【秋季北信越大会準決勝 佐久長聖vs敦賀気比レポートより】

 佐久長聖は今秋、北信越大会準決勝敦賀気比に3対7で敗れた。
敦賀気比は秋の北信越を制し、神宮大会でも準優勝を果たしている。
藤原 弘介監督は「敦賀気比さんは力がありましたね。どんな局面でも慌てないですし…パワーの差も感じました」と振り返る。が、すぐにこう続けた。

「確かに底力が違うのかもしれません。でもスコアブックをよくよく見直すと、勝てた試合だったかもしれない。こちらのミスで相手に流れを渡さなければ、3対3のまま終盤まで持ち込めたはずだし、5対3で勝ちたかった試合でした」

 この試合、佐久長聖は6回まで3対0でリードして試合の主導権を握っていたが、7回に1点差に詰め寄られると、8回には5点を奪われるビックイニングを献上してしまった。
この敗戦を踏まえ、オフは「接戦になった時の、バットを振る力を蓄えていく」そうだが、一方で「ここまでやってきたことへの手応えは感じています」と藤原監督は言葉に力を込める。

 実は新チームがスタートしたのは、今年の3月。
長野大会決勝で上田西に敗れた、夏の大会の後ではない。来年夏に結成される次のチームは、今秋、すでにスタートを切っている。

「それまでは夏が終わったら、全員にチャンスを与え、そこからレギュラーを絞り込んでいたのです。長野の場合、秋の予選は選手の入れ替えができるので、例年、予選が始まってもレギュラーは確定していませんでしたね。でもウチは(現チームも1、2年生合わせて100人近くと)大所帯なので、このやり方だと、どうしても時間が足りない。そこで今年の1月、ウチ以上に部員数が多い聖光学院にうかがい、斎藤 智也監督に、新チームへの移行をどのようにやっているのか、教えてもらったのです」

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[page_break:PL学園での経験は生かしつつ佐久長聖に合ったやり方で指導]

 聖光学院は控え選手を学年ごとに分けてチームを編成し、次のチームの中心になる1年生(春からは2年生)に数多くの実戦経験を積ませる。
そして、その結果を踏まえ、新チームのレギュラーを決めていた。

「つまり、新チームに対する取り組みが、年間通して行われていたのです。ウチも聖光学院さんのスタイルを見習い、今年の3月から、今の2年生、昨秋のチームではメンバー組ではなかった2年生だけで70試合ほど練習試合を組み、そこでの成績を参考に、秋の大会が始まる前までに、レギュラー候補を30人に絞りました」

 4月には岸田 健人コーチが率いるそのチームだけでの遠征も行った。来年も3月に、現1年生のチームの遠征を予定している。

「長野の冬は長いので、1年生にとって初めてとなるオフの練習は辛いでしょう。3月になれば自分たちだけで遠征に行ける、試合に出られる、というのが、オフを耐えるモチベーションになっているようです」

 1年をかけて次世代のチーム作りをする一方で、現チームに大きく関わる控えの2年生(春になれば3年生)のチームは、佐藤 毅ヘッドコーチが担当。
3月4月の練習では主力と区別せず、台頭の機会を与えている。また6月にはこのチームだけで遠征を行い、最後の最後までモチベーションを落とさせない配慮もしている。

PL学園での経験は生かしつつ佐久長聖に合ったやり方で指導

打撃指導をする藤原 弘介監督(佐久長聖高等学校)

 藤原監督が佐久長聖の監督に就任したのは2012年。
その夏02年夏以来閉ざされていた甲子園への扉を開くと、14年夏にも甲子園出場を果たした。

 藤原監督は名門中の名門であるPL学園の出身。1992年春のセンバツでは控え選手で聖地の土を踏んでいる。
大阪経済法科大卒業後、01年、河野有道監督の辞任後、監督に就任する。03年、04年と2大会連続で夏の甲子園に導き、前田 健太(広島カープインタビュー前編後編)がエースだった06年のセンバツでは4強入りしている。
08年夏限りで監督を退いた後も副部長などを務め、監督、コーチとして、前田をはじめ、今江 敏晃(千葉ロッテマリーンズ2015年なきぼくろ先生との対談)や小窪 哲也(広島カープ)ら、のちにプロになった18人の選手も育てた。

 ただ藤原監督は「佐久長聖ではPL学園時代の話はほとんどしない」という。

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[page_break:変わらないのはランニング量]

変わらないのはランニング量

練習の締めに行われたグラウンドを5周する1500mのタイム走(佐久長聖高等学校)

「そもそも気候も違えば、(少数精鋭のPL学園とは)部員数も違いますしね。佐久長聖の監督として、自分のスタイルにこだわらず、その年のチームに合ったやり方で指導しているつもりです」

 それでも藤原監督のPL学園時代の教え子がプロで活躍しているのは、選手たちの刺激になっているようだ。
藤原監督がチームのキーマンに指名する3人、3番・ショートの元山 飛優主将、エースの小林 玲雄投手、4番・センターの甲田 尚大選手(いずれも2年)も、元山主将が「前田さんのように侍ジャパンでも活躍する選手になりたい」と言うと、「今江さんに少しでも近付きたい」と甲田選手が続き、小林投手は「藤原監督から前田さんは高校時代こうだったと教えてもらい、それを励みにしています」と話す。

 PL学園時代は「選手に厳しい言葉もかけていましたね」と述懐する藤原監督だが、現在は「時代背景もあるので」と選手への接し方も変えているようだ。
先の3人は「監督が怒ることはまずありません。選手に合ったやり方を具体的にわかりやすく教えてくれます」と口を揃える。部員数が多いからこそコミュニュケーションも大切にしていて、取材日もよく選手に声をかけていた。選手との距離は近い。

 こうした中、PL学園時代と変わらないものもある。それはランニングの量だ。今年最後の遠征(大阪遠征)は残すも、オフの練習に入っていた取材日(11月19日)も、朝の練習で400m走を12本こなし、放課後練習の始めに100mのインターバル走を20本、さらに練習の締め括りには1周300mのグラウンドを5周するタイム走も。「負荷をかけながら、トータルで1日、12~3㎞は走っています」(藤原監督)

 その学校の環境に応じて指導のアプローチをかける藤原監督。3月から新チームの体制を作るのは画期的な取り組みではないでしょうか。後編では秋季大会の戦いぶりを振り返りつつ、来年へ向けての意気込みを伺いました。

(取材・文=上原 伸一


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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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