Column

関東第一高等学校(東京)

2015.09.29

夏の甲子園ベスト4の軌跡と新生・関東一の現在

 2015年夏の甲子園で創部初の夏ベスト4まで駆け上がった関東一オコエ 瑠偉や主将の伊藤 雅人を中心とした破壊力ある打線が最大の持ち味であった。夏の甲子園で勝ち上がるまでの軌跡、そして新チームの今を追った。

最初はバラバラだったチームがまとまった理由

投球練習を見守る米澤 貴光監督(関東第一高等学校)

 昨秋の東京本大会では準決勝二松学舎大附に敗れ、選抜を逃した関東一。この時のチーム状態を米澤 貴光監督は、こう振り返る。
「まだチームとして形になっていなかったですね。まとまりがない状態でした」

 主将の伊藤 雅人も「『自分』が中心になってしまう選手が多いチームだった」と語るように、最初はバラバラだった前チーム。伊藤はそんな選手たちにまとまりを持たせ、勝つために何ができるかを考えた結果、たどり着いたのがミーティングをしっかりと行うことであった。

伊藤を中心に夜10時から、1時間~2時間のミーティングを重ね、自分たちで課題を見つけ、それをつぶす練習をするというサイクルで冬を過ごしていった。

 そして迎えた春の都大会だったが、準決勝日大三に力負け。少しずつまとまりを見せていたチームであったが、さらにチームとして結束して戦うことを実感した。
「土日の練習試合を大事に、一人ひとりの選手が戦ってきました」

 こうして迎えた東東京大会では、チーム打率.380、64得点、28盗塁とスピードとパワーを思う存分を発揮し、5年ぶりの甲子園出場を決める。

 米澤監督は東東京大会についてこう振り返る。
「シード校ということもあって、ほとんど[stadium]明治神宮球場[/stadium]で出来たのは大きかったですし、また走攻守すべてが噛み合いました。対戦相手のエースがその前の試合でかなり投げていて、あまり調子が良くない状態でぶつかることもありました。いろいろなめぐり合わせがあったからこそ優勝できたと思います」

 東東京大会では圧倒的な勝ち上がりを見せた関東一だったが、甲子園では苦しい戦いの連続であった。


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勝ち上がるのは難しいと改めて実感した夏の甲子園

ティー打撃するオコエ 瑠偉選手(関東第一高等学校)

 迎えた夏の甲子園関東一2回戦から登場。相手は富山の名門・高岡商だった。この試合では3回裏まで8対0と大量リードするも、4回表に7点を取られ、6回表に同点に追いつかれる苦しい試合展開。最後は8回裏に2点を勝ち越し、12対10と競り勝った。米澤監督はこの試合を振り返り、
「調べてみたら前年度から出ている選手が多かったので経験値が高いのが怖いところでした。実際に試合をしてみて、我々が8点取りましたが、すぐに取り返されて、着実に打ってきましたし、さすが富山県を代表する名門チームと感じました」

 そして3回戦中京大中京戦。エース上野 翔太郎を中心とした総合力の高いチームであった。これまでの中京大中京の試合を見て米澤監督は、
「上野君は優勝投手になれそうな実力を持った投手だと感じましたので、選手たちには、手も足も出ないかもしれない。だから守り切るしかない、と話していました。実際にその通りの試合展開になりました」

 初戦では12得点を記録した関東一打線だったが上野の前に沈黙。だが、投手陣も踏ん張り、0対0のまま9回裏を迎えた。
投手戦に持ち込んだのはセンターのオコエ 瑠偉が1回表にセンターへの大飛球を背走しながらスーパーキャッチしたことが大きいだろう。もし抜けていければ「負けを覚悟していました。それだけ大きなプレーだったと思います」と語るほどのスーパープレーだった。

 そして指揮官が予想していなかった長嶋 亮磨のサヨナラホームランで、中京大中京を破る。この長嶋は準々決勝興南戦でも本塁打を放つ活躍。長嶋について米澤監督は、
「すごく能力を持っていた選手ですが、ケガに泣かされたところがありました。そういう不運な面があり思うような結果を残せなかったのですが、それまではスイッチヒッターをやっており、左打者としても良い打球を打っていて、期待値は高い選手でした。最後の夏はケガもなく順調にやってくれたので、あの結果が出たと思います」

と長嶋の活躍を称えた。

 興南戦ではオコエの2ランで試合を制し、準決勝進出を決めた関東一は、東海大相模に3対10で敗れ、ベスト4に終わった。大会を振り返って米澤監督は、
「持てる力はすべて出し切ったと思いますが、改めて甲子園で勝ち上がるのは難しいと感じました。準決勝東海大相模さんに敗れて、全国制覇するためには力が足りないと感じる大会でもありました」

 力を出し尽くしたことを満足しつつも、また課題をもらった大会だと振り返る。そして、全国制覇へ向けて新チームが動き出した。


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先輩たちの成績を超えるために取り組んでいること

村瀬 佑斗主将(関東第一高等学校)

 今年はチームが入れ替わった。甲子園でベンチ入りした2年生は2人のみ。新エースとして期待される181センチ89キロの大型右腕・竹井 丈人東東京大会で1試合のみの登板に終わり、経験値はほぼゼロ。2000年から長く率いる米澤監督も、これほどチームが入れ替わったのは初めてのことだという。「地道に一歩ずつ力をつけていくしかないかなと思っています」と1年かけてチームを作っていくつもりだ。

 そんな米澤監督がまず選手たちに行っているのは自分たちの立ち位置を把握させること。その上で、「自分たちは力がない」ことを自覚させる。
「まずそこからスタートですね。それに気付かないと、何かできないとうまくいかないと思ってしまう。そうじゃなくて、できる力がないからできないのだと。それはブロック予選の初戦を戦って、選手たち自身、力がないことを実感したので、少しずつ動き出させそうな感じがします」

 今のチームの主将・村瀬 佑斗
「先輩たちは全国ベスト4という良い目標を作ってくれたので、まずはそこに向かってやっていきたいと思います。選抜を目指しますが、1年間かけて最後の夏に先輩たちの甲子園ベスト4を超えられるチームになりたいです。僕たちは力が足りないと自覚していますし、スタートが遅れた分、短期間で取り返していかなければならないと全員が思っています」

 そのために現在行っていることは先輩たちと同様、練習後のミーティングだ。
「今は、前の代以上にやっていると思います」
と胸を張る。皆で話し合った結果、目指すべきチーム像はすでに決まっている。

「今年は強打者が少なく前チームよりも打てないと自覚しています。それでも、勝つにはしっかりと守れるチームを目指していきたいですし、少ないチャンスをモノにできるチームを目指していきたいです」

 前チームはオコエ、伊藤など機動力と打撃力を兼ね備えた選手を中心とした、破壊力抜群のチームであった。しかし、今年はそういうチームではなく、堅実に守り、最少失点にしのぎ、守り切っていくチームを目指す。

 自分たちは自分なりのチームを作り上げる。

 それは今年の選手たちに限らず、歴代の選手たちがそういう思いを共有しながら強いチームを築き上げてきた。それが伝統となっている関東一は、やはり今後も東京都を代表する強豪として注目を浴びることには変わりないだろう。

秋季本大会出場が決まり、2年ぶりの選抜出場を目指す関東一ナイン。この秋も、各校との激しい戦いを繰り広げ、来年への力の糧とする。

(取材・写真=河嶋 宗一


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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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