Column

早鞆高等学校(山口)

2011.10.17

早鞆高等学校

第44回 野球部訪問 早鞆高等学校2011年10月17日

早鞆高校・野球部監督に就任した元プロ野球選手の大越基。監督として、選手の気持ちを理解して、どのタイミングでどう言えば、選手に響いているのだろうか。どういうニュアンスで言葉がわかりやすいのだろうかと言葉を模索していた。そんな中、思いついたことが、きっかけを作るという意味での「簡単な言葉掛け」である。

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【目次】
1.簡単な言葉掛け
2.成長していった選手たち
3.45年ぶりの山口県秋季大会優勝

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【目次】
1.簡単な言葉掛け
2.成長していった選手たち
3.45年ぶりの山口県秋季大会優勝

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簡単な言葉掛け

【大越監督】

「例えば自分が高校生で、プロ野球選手がバッティングを教えてくれるって言われると嬉しいですけど、細かな技術指導されても、あんまり分からなかったと思います。それだったら簡単にプロの選手っていうのは初球からガツンで振っていく、プロは甘いところにボールが来ないからね、と話した方が分かりやすいような気がしますね。

でも、初球から振るためには、ネクストでタイミングを取ったり、体ほぐしたりとかの準備が必要で、それで初球からいって凡打したら、しょうがないとか。元プロ野球選手の監督だから技術的なことが、プロに近いとか思われるかもしれないですけど、まずは、そういうところで選手を引き出すことが、高校野球の監督なんだなと思います」

かつては夏の甲子園で準優勝を経験している早鞆(はやとも)であるが、ここ数年は県大会でも目立った上位進出もなく低迷していた。そして約2年前、早鞆の監督として元プロ野球選手である大越基が就任したのである。
自らが甲子園の準優勝投手、さらにはドラフト1位で福岡ダイエーホークスに入団し、プロの厳しさも知る大越であるが、監督に就任した当時のグラウンドといえば、膝くらいまでの雑草が外野に生い茂り、バックネットも切れている状態で、グラウンドのすぐ隣にある響灘(ひびきなだ)から吹き付ける海風でバックネットがなびいていたほどであった。

そこで大越は、元プロ野球選手としての技術を伝えていくことよりも、まずは選手たちの気持ちを理解して、このタイミングでこう言えば、選手にどう響いているのだろうか。どういうニュアンスで言葉を伝えたらわかりやすいのだろうかと言葉を模索していた。そんな中、監督になってやがて3年目に入ろうとした時、思いついたことがあった。きっかけを作るという意味での「簡単な言葉掛け」である。


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【目次】
1.簡単な言葉掛け
2.成長していった選手たち
3.45年ぶりの山口県秋季大会優勝

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成長していった選手たち

【左から堀田・間津】

 中学時代にホークスカップで最優秀選手に選ばれるなど、鳴り物入りで同校の門を叩いた間津裕瑳(2年)は、旧チームでもエースを張っていたが、今夏を終えた段階で公式戦未勝利と伸び悩んでいた。しかし、大越のどこかさりげない「簡単な言葉掛け」を続けることで一皮剥けようとしていた。

「技術的な面では、ボールをもっとバッターの近くで離すようになど言われていますが、自分はフォアボールや長打を打たれた後に、次のバッターを早く打ち取ろうと思って、いい時のテンポを崩してしまって投げ急いでしまうことが欠点でした」(間津)

そこで大越は、ただ細かい指示を出して改善することではなく、具体的にイメージしやすいように、ありふれた表現で間津に伝え続けた。

例えば、「ベンチからの伝令で間(ま)を置くタイミング」「投げ急いでいる自分に気付いた時、バックに声を掛けること」という、ごく当たり前のような「簡単な言葉掛け」を実戦で根気よく続けることによって、精神的な課題だけではなく、同時にバッターの近くでボールを離すという技術的な課題克服にも繋がっていった。

「間津は、ピンチになると投げ急いでしまって、本人はそれに気付いていませんでした。自分も高校の時にあったんですけど、ピンチになると、どんどんバッターしか見えなくなる。そんな時に簡単な言葉を掛けることで、間が集中力に変わってきました。今は自分が手伝ったりしていますけど、彼自身がさらに上を目指すのだったら、それを自分自身でコントロールできるようになればと思っています」

現にそのことで自信をつけ始めた間津は、今秋の山口大会1回戦で、優勝候補の一角であった宇部鴻城と対戦し、好左腕・笹永弥則と投げ合って公式戦初勝利を上げると、全6試合を投げ抜き、防御率0.30台という数字を叩きだしている。

【マシン相手に納得するまで何千球と受け続ける原田】

そんな間津とバッテリーを組む原田翔次(2年)も大越の「簡単な言葉掛け」で急成長を遂げた一人だ。それまでの原田は、キャッチャーを辞めて他のポジションにコンバートしたいと大越に志願したことがあった。

「1年生大会の時に間津とサインが合わなかったり、別の試合で投げたいからといって、けん制球を何度も暴投したり……」と落ち着きのないプレーが浮き彫りとなり、自らの捕手としての課題に挫折しようとしていたのかもしれない。
実戦の中で学んでいくインサイドワークや状況に応じたスローイングなど、ひと言で課題と言っても、時間をかけなければ改善できないものもあれば、すぐに改善できるようなものもある。

大越の場合、まずは出来そうなことを確実に改善していくという導き方が上手いのではないか。

「自分が(落ち着きがないという)課題に思っていたことをさらっと改善してくれました。『原田がレギュラーを獲るならキャッチャーだろうな。だって(キャッチャーとして)いいものを持っていると先生は思うんだけどな、あとは普段の生活から一呼吸おいて行動すれば大丈夫』と言われたことで、そこを心掛けていくうちに周りが見え始めてきました」

今夏はベンチ入りしていなかった原田だが、そのことで俄然やる気が湧いてきてことで、今秋には正捕手となり、随所に見せる盗塁阻止やエース間津の引き出し方が見違えるように磨かれ、「完璧なディフェンスになった」と指揮官をうならせるほどの成長を遂げている。そして取材当日の練習でも自らが納得いくまで、何千球とマシンの球を受け続ける原田の姿があった。

まずは、技術指導というよりも選手にどういうニュアンスで伝えるか。そして「簡単な言葉掛け」で本人の課題を気付かせることで、成長への第一歩を導きだし、将来的に大きく羽ばたかせようとしている大越の情熱がみてとれる。

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【目次】
1.簡単な言葉掛け
2.成長していった選手たち
3.45年ぶりの山口県秋季大会優勝

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45年ぶりの山口県秋季大会優勝

【声で盛り上げる副キャプテン内田】

今年のチームは、高校入学直後から4番に座る経験豊富なキャプテン宮崎竜之介(2年)、ひたむきなトレーニングで今夏に連続完封するなど頭角を現した堀田大生(2年)、指揮官のひと言で外野手からセカンドへのコンバートに成功した俊足で強肩の山本樹弥(2年)など戦力は整いつつあり、さらにベンチ外の選手の力も大きい。

副キャプテンの内田俊喜(2年)は、まだベンチ入りを果たしていないが、グラウンドでは常に大きな声でナインを引っ張り、試合ではスタンドから声を張り上げて声援を送る。平日に開催された今春の山口大会3回戦と決勝戦では、授業のため補欠の1年生がスタンドに来れず、ベンチ外の他の2年生が補助員になったこともあって、内田はスタンドで一人だけの応援をしたこともあった。

それでも「チームのために自分がいつでも一番声を出せるように心掛けています」とさらりと話すように、ベンチ=スタンドという一体感からも大越野球の浸透が垣間見える。

こうして個を極めると同時にそれが集結し、チーム力へと変わっていった早鞆は、今秋の山口大会で45年ぶりの優勝を果たしたのである。
「秋の(山口)大会6試合で3割くらいという打率は、実際にこの子たちが持っている力なんですよ。でも、上位から下位までの得点圏打率が、もの凄く高いんです。結局チャンスで打てたんですよね。自分が求めてきたチャンスで打つっていうか、1番から9番まで積極的にいったのが結果的によかった。7、8、9番が消極的で当てにいくと、そこで相手投手は一息つけるんですけど、それが1番から9番まで積極的に振っていくと中盤以降は捕まえられる可能性がある。そこらへんで彼らはガンガン振っていって、中盤以降に点が入ったりしましたからね」。
そして少し間を置いて、こう付け加えた。「でも、まだまだこれからです。3年目で優勝しましたが、まだしっかりと精神的にも技術的にも安定してチームが出来上がっての優勝とは思えないですからね」。

甲子園から遠ざかること44年。グラウンドに生い茂っていた雑草をかき分け、掴み取ろうとするものがみえ始めてきた早鞆。40歳の闘将は言葉を選りすぐり、少しずつチームに流れを作ろうとしている。

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(文=アストロ

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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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