Column

東海大菅生(東京)実戦守備のノックで「心、技術、野球脳」の三拍子を鍛える

2017.12.18

 夏の甲子園ベスト4入りした東海大菅生。準決勝までの4試合で、145打数58安打35得点 7本塁打 12失点 2失策。数字面からみて分かる通り、投手力、走塁、守備、打撃全てにおいてハイレベルなチームは、「守備」を基本線にチームをつくりあげることでも知られている。では、鉄壁の守備は実際にどのような生成過程を経ているのか?今回の野球部訪問では「日々のノック」にクローズアップしてお届けしていきたい。

走塁、守備の意識を高めれば、比例するように、技術も高まっていく

東海大菅生(東京)実戦守備のノックで「心、技術、野球脳」の三拍子を鍛える | 高校野球ドットコム
ノックを打つ若林 弘泰監督(東海大菅生)

 まず東海大菅生が守備を重視する理由について社会人・日立製作所、中日ドラゴンズで投手としてプレーした若林 弘泰監督は投手心理も交えてこう語る。
「やっぱり守れないと不安になるんですよね。打撃は水物じゃないですか。守りは安心というレベルまで鍛えます」。事実、守備練習の中身は実に濃い。

 守備練習では必ず走者を付けて若林監督が直々にノックを行う。場面は無死二塁、無死一、二塁と様々な状況からスタートさせ、その場面に対してはどんなプレーをすればいいのか、どんな備えをすればいいのか、無意識にできるレベルまで数をこなす。そう「実戦主義」が東海大菅生のスタイルなのだ。

 このスタイルが始まったのは2013年春、都大会で日大三にコールド負けを喫してから。そしてて若林監督が直々にノックをするようになってからは2014年から2017年まで夏の西東京大会で決勝進出。方針切り替えは大成功だった。

 加えてこの「走者付きノック」は守る選手だけではなく、ランナーの判断力もポイントになる。
「これはただ守備を鍛える練習ではありません。走者は打球を見て、走る。そこで、エラーすれば、次の塁を狙う。そこで気づいてほしいのは、どういう場面がエラーしやすいのか?それはいろいろあると思います。そういう時にいざ守った時に、これはエラーしやすいから、この場面はエラーしないよう気を付けよう、あるいはそこに備えて次の塁を狙える選手がレギュラーになれます。だからノックは一見、守備練習でもあるのですが、走塁練習も兼ねているんです」(若林監督)

 つまり東海大菅生の守備練習は守る選手にとっても走塁のヒントがあり、そして走者も守備がうまくなるヒントが詰まっている。「表裏一体」なのだ。
 しかし、言葉で分かっていても実践するのは難しい。東海大菅生ですら走者と守る選手が入れ替わってノックできるまでかなり時間がかかる。

「練習中に守る選手とランナーが入れ替わるのは春の大会が終わるまでないですね。今の時期はずっとレギュラーが守っています。控え選手の走塁での理解度が変わってくるのはこの時期になってからで、例年そうです。そしてうちは部員が多いので、3学年になると、チームがAからDまで分けます。
 厳しい言い方になってしまいますが、なかなか試合に出られない選手は走塁に対する意識や守備に対する意識が低い。今のままではいつまでたっても、Aに上がることはできないぞ!と発破をかけることもあります」

 ランナー付きのノックだけではなく、東海大菅生はノーエラーノックもやる。外野手はバックホームで走者を刺すノックで、捕手はファンブルしてはいけない。そして内野手は決められた本数をノーエラーで完了する。
 守っている選手たちにとっては非常にプレッシャーがかかるスタイルのノックの校歌を高校生を代表するショートへ成長した田中 幹也はこう語る。

 「本当にノックは精神的にきついですが、これを乗り越えると、だいぶメンタルが鍛えられます」。若林監督にとってもそれは1つの狙いである。「やはり試合で勝てるためには精神的に追い込むことは必要です」と激しいノックをする意図を明かしてくれた。

[page_break:エラーするポイントが分かれば守備にも走塁にも生きる]

エラーするポイントが分かれば守備にも走塁にも生きる

東海大菅生(東京)実戦守備のノックで「心、技術、野球脳」の三拍子を鍛える | 高校野球ドットコム
走者を務める選手(東海大菅生)

 こうして激しいノックを受ける東海大菅生の選手たち。一方でその中心である田中は走者になることによって発見できるポイントについても話してくれた。
「これはノックを受けるだけではなく、走者を務めた時に感じることもあります。たとえば走っていると、この場面はエラーするなというのが分かります。だとえば外野の中継、きわどいゴロなど。そういう打球に対して自分は先の塁を狙います。逆に守備の時はそこがエラーする確率が高いので、そこでエラーしないよう心掛けることができたんです。だから東海大菅生のノックは精神面だけではなく、野球脳も鍛えられました」

 こういう感性が生まれると、次は試合の中で、配球を読んでのポジショニングを行えるようになる。これは守備のうまい田中だけではない。どの選手も実践をしている。高校通算21本塁打のスラッガー・片山 昂星も「中学の時からも、配球を読んで守ることはやっていましたが、ここにきてからはよりその重要性を感じますし、意識して守っています。またこのノックは精神的にきついですし、鍛えられます」とその効果を話してくれた。

 だからこそ東海大菅生のノックは1年中行われる。平均は1時間半~2時間。東海大菅生は全体練習が19時前後。たとえ練習の大半がノックで終わってしまうことがあっても、である。
 加えて東海大菅生は大会期間以外はフリーバッティングをほとんどやらない。シーズン中も長時間でのノック、または投手もしくはマシンを相手にしたシートバッティングと実戦に即した打撃で1日を終える。

 若林監督は言う。「フリーバッティングをやるために、1時間延長して、20時~20時半ぐらいまでやってうまくなると思ったらうまくなりません。それでしたら与力を残して、物足りなさを感じた選手が全体練習後の自主練習で、打撃練習で取り組ませることを意識しています」。自発的に打撃練習をする環境を作る。これもノックを重視する一理由である。

 守備練習の強化はノックだけではない。12月中にはゴロ捕りなどのドリル練習、さらに肩を強化するために、遠投も欠かさず行うなどスキルも高めている。

 こうして激しいノックが行った上で、試合前ノックはやさしい打球を打つ。これが東海大菅生のスタイルである。その意図とは?「捕りやすい打球を取って安心感を与えさせるためですね。捕りにくい打球を打ってエラーして不安になったら困るので。でもエラーするんですけどね」と若林監督。こういった年間通したノックと試合前のノックが、東海大菅生の高い守備力、しいては強さの基盤になっておるのは間違いない。

東海大菅生の激しいノックは画像と動画でも紹介しています!!

[page_break:12月の強化練習、日々のノックで鍛えて、春は逆襲の大会に]

12月の強化練習、日々のノックで鍛えて、春は逆襲の大会に

東海大菅生(東京)実戦守備のノックで「心、技術、野球脳」の三拍子を鍛える | 高校野球ドットコム
ランメニューに取り組む(東海大菅生)

 この秋は都大会一次予選で二松学舎大附に敗れ、長い冬を送っている東海大菅生。ただ、今年のチームについて若林監督は「力自体は前チームより上なものがありますよ。今年は大砲はあまりいないのですが、機動力を使えるのが強みです」とつとめて前向きだ。

 そう言い切れる理由の1つは投手力の充実ぶり。甲子園メンバーの戸田 懐生、前チームから投げていた中尾 剛。さらに秋ベンチ外だった中にも140キロ前後の速球を投げる投手がいるなど選手層の厚さは都内でも屈指だ。

 その半面、今年のチームは精神面が課題。練習試合でも自分の実力を出せず、大敗してしまうことも多い。選手たちも秋の都大会準決勝をスタンドで観戦。自分たちと力自体は差がなくても、力を出せないことに課題を感じた。田中はこういう。

「一次予選で敗退した僕らと大きな差はあるように見えませんでした。それでも負けているのは精神面、姿勢という部分なので、そういうところを見つめなおして、来年、戦っていきたいです」

 こうして秋の課題を明確にして12月のテスト期間後から強化期間に入る東海大菅生。かつ強化合宿では朝5時起床、夜の11時消灯という過酷なスケジュールの下、朝では体力強化を中心に取り組み、2時間休憩を取りながら、たくさんのごはんを食べ、心も、技術も、身体も鍛える。

 この強化合宿。一昨年までは年末のみだったが、昨年からは年末と年明けの二部制にしたところ、夏の甲子園ベスト4に代表されるように予想以上の成果が得られた。当然、今年も二部制にする方針。「年明けも合宿があると思えば、選手たちはオフ期間でも、休みっぱなしにならず、自主的にトレーニングをしますからね」と指揮官も狙いを語ってくれた。

 もちろん、その先に見据えるのは春と夏の逆襲。「来春の大会はとても大事になりますね」(若林監督)。この冬、日々のノックと強化練習で積み上げる「心、技術、野球脳」の三拍子で東海大菅生は2018年、再び聖地での頂点獲得へ挑戦する。

(取材・文=河嶋 宗一

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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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